【6】 公害関係資料
【東京大気汚染関係】
前 文
一審原告らと一審被告らは,当裁判所の平成19年6月22日付け「和解の骨子について(勧告)」(別紙1)の趣旨を踏まえ,下記和解条項のとおり,本件を和解によって解決することに合意した。
(別紙1)
和解の骨子について(勧告)
平成19年6月22日
東京高等裁判所第8民事部
1 はじめに
当裁判所は,昨年9月28日の口頭弁論の終結に際し,本件が判決のみでは解決できない種々の問題を含んでおりできる限り早い抜本的・最終的な解決が望まれる旨を述べて,以来,延べ約100回にわたって各当事者と個別に面談をし,各当事者から和解に関する意見ないしは要望を聴取してきた。その結果,全当事者から,本件訴訟(第1次訴訟)のほかに東京地裁に係属中の第2次訴訟ないし第6次訴訟をも含めて一括して解決することの希望が出され,また,和解内容に対する当事者の意向等も明らかとなってきた。そこで,本日,下記のとおり,和解の骨子を勧告することとした。
2 本件訴訟の概要等
本件訴訟(第1次訴訟)は,東京都内に居住し又は勤務していた原告らが気管支ぜん息等に羅患し又はその症状が増悪したのは自動車排出ガスによるものであるとして,被告国,被告旧・首都高速道路公団(現・首都高速道路葛yび独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構),被告東京都,被告トヨタ自動車梶C被告日産自動車梶C被告三菱自動車工業梶C被告日野自動車梶C被告いすゞ自動車梶C被告日産ディーゼル工業梶C被告マツダ鰍邇ゥ動車メーカー7社に対し,大気汚染物質の排出差止めと損害賠償金の連帯支払を求めた事案である。本件訴訟(第1次訴訟)は,平成8年5月に訴えが提起され,平成14年10月に第1審判決が言い渡された。第1審判決は,①原告患者ら99名のうち7名について気管支ぜん息の発症増悪と自動車排出ガスとの間の因果関係を認め,道路管理者である国,旧・首都高速道路公団及び東京都に対して,総額7920万円の損害賠償金の支払を命じ,②原告らの自動車メーカー7社に対する損害賠償請求をすべて棄却し,③大気汚染物質の排出差止請求も棄却した。これに対し,東京都は,第1審判決に従って,自己に支払を命じられた損害賠償金6054万7916円(遅延損害金を含む。)を支払ったが,国,旧・首都高速道路公団及び原告らが控訴したことから,本件訴訟が当裁判所に係属するに至り,前記のとおり平成18年9月28日に控訴審の口頭弁論が終結したものである。
なお,本件訴訟(第1次訴訟)の提起後,平成9年6月から平成18年2月まで,本件訴訟と同種の訴訟が東京地裁に提起され(第2次訴訟〜第6次訴訟),第1次訴訟ないし第6次訴訟の原告患者数は,現在,合計522名となっている(訴訟係属前又は係属後に亡くなった患者については,相親人の数にかかわらず1名とした。)。
3 勧告に当たって
(1) 現在,自動車は我々の生活に深く関係しており,もはやそれなくしては生活することができないといっても過言ではない状態に達しており,それによって国民が受ける利益も大きなものがある。しかし,一方で,自動車からの排出ガスが一つの要因となって大気が汚染され,環境に好ましからざる影響が生じていることも事実である。このことは,過去の大気汚染状況が示すとおり,過密都市である東京都において顕著であった。
このように我々の生活に欠くことのできない自動車の使用によってもたらされる大気汚染ひいてはこの大気汚染による健康や生活環境への影響については,自動車を製造・販売した自動車メーカー,自動車排出ガス基準を定める権限を有する国,更には道路を自動車の走行の用に供してきた道路管理者はもとより,自動車の使用によって有形無形の利益を受けてきた広く国民一般も,全員が等しくその社会的責任を受け止めるべきものである。
本件訴訟は,民事訴訟であるために原告らが被告らに対して法的責任に基づく損害賠償金の支払を求める等の形式をとってはいるが,その提訴の意味は,上記のような大気汚染についての問題を広く国民一般に提起してその討議と解決を迫った点にあるものとも理解できるのであり,最近の東京都内における大気汚染状況の改善は,そのような問題提起を受けて,自動車メーカー,国,道路管理者,そして国民一般がそれぞれその社会的責任を自覚して改善に努力してきた中で実現してきたものとも考えられるのである。本件訴訟の提起を,ひとり原告らの個人的な利益のためのみになされたものと倭小化すべきではなく,その社会的な意味を軽視すべきではない。
いま,環境問題に対する国民の関心は極めて高く,国や地方自治体もこれに積極的に取り組んでおり,自動車メーカーにおいてもいわゆる環境にやさしい自動車の開発等に総力を挙げており,さらに,道路管理者も汚染物質の大気への拡散を減少させるべく道路状況の改善等に着手している。国民一般においても,自動車の使用走行には環境保護のためにそれなりの負担や負荷が伴うものであることを十分に理解し,そしてそれに協力することが必要である。
(2) 以上のような基本的な認識のもと,また,過去における東京都内の大気汚染の状況が他地域と比べて極めて深刻なものであったことや,東京都内の自動車の走行量・保有台数もかなり多いことを基本的出発点として,当裁判所は,東京都内に居住し又は勤務していた原告らが提訴した第1次訴訟ないし第6次訴訟について,各当事者の社会的責任を反映するものとして,以下のとおり,和解の骨子を勧告するものである。関係当事者の大所高所からの決断を希望する。
勧告する和解の骨子
(1) 原告らの要望
原告らは,本和解の主要な項目として,①新たな医療費助成制度の創設,②公害対策の実施,③損害賠償金の支払,等を要望した。
(2) 医療費助成制度の創設について
ア 東京都は,当裁判所による意見聴取の早期の段階で,その社会的責任として,全当事者による和解が成立することを条件に,気管支ぜん息患者に対する医療費助成制度の創設を提案し,5年間で約200億円の医療費を要するものと見込み,そのうち,東京都が自ら3分の1を負担することを前提として,国に対して3分の1の負担を,首都高速道路鰍ノ対して6分の1の負担を,メーカー7社に対して6分の1の負担を,それぞれ要請した。
イ これに対し,東京都を除く被告らは,いずれも全当事者による和解が成立することを条件として,①自動車メーカー7社においては,当初の5年分の医療費見込額の約6分の1に相当する33億円の負担拠出に応じることを表明し,②国においては,上記の医療費を直接負担することを受諾するものではないものの,東京都に対して公害健康被害予防基金から予防事業として60億円を拠出することを表明し,③首都高速道路鰍ヘ,5億円の負担拠出に応じることを表明した。
ウ この新たな医療費助成制度は,東京都全域を対象にして気管支ぜん息患者の医療費を助成するというこれまでに例をみない画期的なものである。当裁判所は,関係当事者の創意と決断に深い敬意を表するとともに,この制度の創設が本和解の一つの柱となるべきものと考える。
(3) 公害対策について
ア 国は,当裁判所による意見聴取において,微小粒子状物質(PM2.5)の健康影響に関する評価についての専門的検討の開始と国設測定局におけるモニタリング体制の拡充,改正自動車NOx・PM法に基づく局地汚染対策及び流入車対策の着実な実施を表明している。
また,国及び首都高速道路鰍ヘ,①都市部における深刻な交通渋滞の解消のため高速道路料金の割引の導入に向けた社会実験,②交通流の円滑化のため交差点の改良・立体化やボトルネック対策等,③沿道環境改善のため道路緑化・植樹帯の整備,④大気常時観測局の増設,等の実施を提案している。
これらの公害対策の内容は従前の施策より更に一歩踏み込んだものと評価でき,また,これに要する費用も過去の道路公害訴訟の和解において示された国等の公害対策の費用を大きく上回ることになるものと考えられる。
イ 東京都は,当裁判所による意見聴取において,公害対策として,道路拡幅部分への植樹帯や自転車歩行者道の整備,鉄道立体交差事業,大型貨物自動車の通行禁止規制の拡大,等の施策の検討を行う旨を述べている。
ウ 以上のような公害対策によって東京都内の大気汚染状況の一層の改善が期待されるところであり,当裁判所は,関係当事者の労を多とし,これらが本和解の一つの柱となるべきものと考える。
(4) 解決金の支払について
ア 本件訴訟(第1次訴訟)は,提訴されて以来既に11年以上が経過しており,第1次訴訟ないし第6次訴訟の原告患者数は,現在,合計522名となっている。原告らが羅患した気管支せん息等の疾患は,人の生存にとって不可欠な呼吸機能を蝕むものであり,それが重篤化した場合には,職業に就いて収入を得ることはおろか日常生活にも重大な支障を来すものであり,ついには死に至ることさえあり,本件訴訟の係属中に亡くなった患者も多数に及んでいる。加えて,公害健康被害の補償等に関する法律に基づく認定を受けていない18歳以上の未認定患者(第1次訴訟ないし第6次訴訟で合計191名)は,同法に基づく給付を受けることもできない状態にある。日々発作の不安にさいなまれる原告らの長年にわたる辛苦は,これを十分に察することができるものである。
そして,原告らが提起した本件訴訟には,前記のとおり社会的意味が少なからず存するのであり,原告らがその訴訟追行のために多大な精神的・身体的・産済的な負担を余儀なくされてきたごとも否定できないところである。
また,原告らは,解決金の一部を環境改善事業等の公益的な目的にも充てることを表明している。
これらの事情を考慮すると,原告らが本和解において相当額の解決金の支払を求めることには十分首肯できるものがあるということができる。
イ 他方において,上記のとおり,東京都はこれまでに例のない画期的な医療費助成制度の創設を提案し,その医療費の予算額は5年間で約200億円と見込まれるところ,東京都の負担のほかに,国は東京都に対して公害健康被害予防基金から予防事業として60億円を拠出することを表明し,首都高速道路鰍烽T億円の負担拠出に応じることを表明し,自動車メーカー7社においては33億円の負担拠出に応じることを表明している。
さらに,公害対策についても,道路管理者である国,首都高速道路葛yび東京都は相当規模の費用を要する施策を実施しようとしている。
これらは 当裁判所が解決金の額を勧告するに当たって考慮しなければならない重要な事情である。
ウ なお,過去に他地域において工場等の固定排出源たる企業を被告として提起された大気汚染訴訟においては,工場等に比較的近接した地域に居住し勤務する患者が原告となり,昭和30年代から40年代の主として二酸化硫黄を原因とする大気汚染が問題とされて,その第1次訴訟の第1審判決においては,企業との問で7割以上の原告患者について個別的因果関係が認められ,これを受けてその後に成立した原告患者らと企業との間の和解では,相当高額の解決金が合意されている。これに対して,本件では,原告らの居住地域は東京都23区のほかに多摩地域を含んでかなり広範囲に及んでおり,大気汚染の排出源やその汚染原因物質も異なり,気管支ぜん息等の発症増悪の時期も異なっている。そして,そもそも気管支ぜん息等は大気汚染以外にも様々な原因によって発症増悪する可能性のある疾患であることをも考慮すると,本件を他地域の大気汚染訴訟と同列に論じることはできないものである。
エ 当裁判所は,以上のような諸事情を総合考慮し,当審における審理の結果等をも踏まえて,本和解の一つの柱として,解決金の額を12億円と勧告する。そして,前記の医療費助成制度や公害対策における被告らの負担の内容等,特に国,首都高速道路葛yび東京都においては多額の費用を要するものと考えられる公害対策の実施を提案していることをも考慮して,この解決金の支払をメーカー7社に求めるものである。
この解決金の支払に関しては,原告らとメーカー7社との間に大きな隔たりがあり,当裁判所が勧告した上記の金額は原告ら及びメーカー7社に対して苦渋の選択を迫るものであろう。しかしながら,原告ら及びメーカー7社においては,本件において提起された問題が関係者の合意によって抜本的・最終的に解決することの意義を十分に評価し,本和解が成立することによって実現するものの大きさを総合的見地から判断して,これを受け入れるよう要望するものである。
5 おわりに
当裁判所の勧告する和解の骨子は以上のとおりである。各当事者においては,この骨子を前提として今後の和解協議を進めることに異存はないかを,7月12日(木)午後4時までに当部に書面をもって回答されたい。
(以上)
和解条項
第1 医療費助成制度の創設
1 一審被告東京都は,都内に引き続き1年以上住所を有する気管支ぜん息患者で,非喫煙者など一定要件を満たす者を対象として,当該疾病の保険診療に係る自己負担分相当額(入院時の食事療養費標準負担額相当額及び生活療養費標準負担額相当額を除く。また,他の法令等による給付を受けることができる場合は,当該給付されるべき額を控除する。)を助成する制度(以下「本制度」という。)を創設する。
なお,一審被告東京都は,本制度の創設後5年を経過した時点で検証の上,本制度の見直しを実施する。
2 一審被告トヨタ自動車株式会社,同日産自動車株式会社,同三菱自動車工業株式会社,同日野自動車株式会社,同いすゞ自動車株式会社,同日産ディーゼル工業株式会社,同マツダ株式会社(以下「一審被告メーカーら」という。)は,一審被告東京都に対し,連帯して金33億円を拠出するものとする。
3 一審被告国は,一審被告東京都が本制度を創設するに当たり,独立行政法人環境再生保全機構に指示して,公害健康被害予防基金から公害健康被害の補償等に関する法律に定める予防事業の実施に充てるために,一審被告東京都に対し,金60億円を拠出させるものとする。
4 一審被告首都高速道路株式会社(以下「一審被告首都高」という。)は,一審被告東京都に対し,金5億円を拠出するものとする。
一審被告東京都は,本件和解における医療費助成制度については,関係者が一審被告東京都の提案した制度のスキームに従い,応分の負担をすることが必要と認識しており,引き続き一審被告首都高に対して負担を求めていく。
一審被告首都高は,医療費助成制度への拠出について,本件和解時における経営判断としての可能な最大限の対応をすることとしたものであり,今後とも関係各位の理解が得られるよう努めていく。
第2 環境対策の実施
国土交通省,環境省,一審被告首都高及び同東京都は,東京都23区内になお環境基準を上回る汚染実態があることを踏まえ,二酸化窒素の環境基準の速やかな達成と浮遊粒子状物質の環境基準の確保を図ることを目標として,本件地域(東京都23区及び三多摩地域)の交通負荷を軽減し,道路交通に起因する大気汚染の軽減を図るため,相互に連携して,以下の施策の検討ないし実施に努める。
1 一審被告国及び同首都高の施策
(1) 四省庁会議に基づく取り組み
国土交通省及び環境省は,平成19年8月3日に道路交通環境対策関係省庁連絡会議によって公表された「東京地域における道路交通環境対策について」(以下「四省庁取りまとめ」という。)に従って,関係行政機関と連携し,以下の(2)〜(4)の環境対策に取り組む。
(2) 道路管理者による道路環境対策
(@) 交通流の円滑化対策及び既存ストックの有効活用に資する対策
一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,交通流の円滑化及び既存ストックの有効活用を図るため,沿道住民等の関係者の意見を聴きながら,以下の対策に取り組む(別紙2「『四省庁取りまとめ』、の別紙2(抄)」)。
- ア 都心に起終点を持たない自動車交通の迂回・分散や幹線道路における交通流の円滑化を図るための対策を推進するとともに,都市部の渋滞の減少を図り環境負荷の軽減等に寄与する高速道路の有効活用に向けた料金社会実験等の実施とETCの普及促進を図る。
- イ 路上工事の縮減を進めるため,共同施工,工事期間等の調整の実施面的集中工事と掘削規制の一体的実施,年末・年度末工事抑制の徹底,共同溝の整備を図る。また,各種媒体を活用した路上工事情報提供を実施する。
(A) 公共交通機関への利用転換等に資する対策
一審被告国の道路管理者である国土交通省は,公共交通機関への利用転換等を図るため,以下の対策に取り組む(別紙3 「『四省庁取りまとめ』の別紙3(抄)」)。
- ア 公共交通機関の利用を促進するため,歩行者空間,公共駐車場等を整備し,鉄道,バス等の公共交通機関の利便性を図る。
- イ 自転車利用を促進するため,自転車道等の整備可能路線を検討するなど自転車利用環境(自転車道や自転車歩行者道等)の整備を推進する。
(B) 沿道の道路環境対策
一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,沿道環境改善のため,大気環境が厳しい箇所等において,沿道住民等の関係者の意見を聴きながら,以下の対策について調査し,事業の検討を行う。
- ア 今後,自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(以下「改正自動車NOx・PM法」という。)に基づく重点対策地区として指定された箇所について,大気シミュレーションと対策検討立案のための調査を実施の上,一審被告東京都とも連携して,対策について検討する。
- イ 既存道路の道路構造の改善及び道路拡幅の整備にあわせた道路緑化(植樹帯等)の整備を検討していく(別紙4「『四省庁取りまとめ』の別紙4(抄)」)。
(C) 大気観測体制の充実
一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,沿道における大気観測体制の充実を図るため,常時観測局の増設や四季観測の実施に取り組む(別紙4「『四省庁取りまとめ』の別紙4(抄)」)。
(D) その他
- ア 一審被告首都高は,低濃度脱硝装置の中央環状新宿線への設置を図るとともに,供用直前の大気質の状況を勘案して中央環状品川線への導入を検討する。
- イ 一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,低公害車の普及のために,道路維持車両等への率先導入を図る。
- ウ 一審被告国の道路管理者である国土交通省と一審被告首都高は,マスメディア等を活用した情報発信を通じて,エコドライブ(環境負荷の低減に配慮した自動車の使用)の普及,推進を図る。
(3) 自動車排出ガス対策
- ア 改正自動車NOx・PM法に基づく対策
環境省は,改正自動車NOx・PM法に基づき,以下の点に配慮しながら,局地汚染対策及び流入車対策について着実な実施を図る。
流入重対策に関し,対策地域周辺から重点対策地区のうちの指定地区へ運行する自動車を使用する一定の事業者に対する計画の作成義務並びに対策地域周辺から対策地域内へ運行する自動車を使用する事業者及び当該事業者に輸送を行わせる事業者に対する努力義務について,周知徹底に努める。
- イ ポスト新長期規制適合車の導入促進
図土交通省及び環境省は,平成17年4月の中央環境審議会答申により平成21年度から実施されるディーゼル自動車の排出ガス規制(ポスト新長期規制)について,自動車メーカーに対し,規制適合車両の製造・供給を促し,また,自動車を使用する事業者等に対し,規制適合車の使用を促す施策を検討する。
- ウ 低公害車等の導入促進
国土交通省及び環境省は,自動車メーカーや自動車を使用する事業者等による低公害車及び低排出ガス車の販売・使用の普及を促進することに努める。
- エ エコドライブの普及・推進
環境省は,エコドライブについて,ステッカーやチラシを配布するなどの普及啓発活動に取り組む。4)PM2.5の健康影響評価の取りまとめとモニタリングの充実
環境省は,微小粒子状物質(PM2.5)による健康影響の可能性が懸念されていることを踏まえ,微小粒子状物質(PM2.5)に係る健康影響調査に関する評価について,平成19年5月に設置された学識経験者からなる微小粒子状物質健康影響評価検討会において専門的な検討を進め,平成19年度中の取りまとめを目指すこととする。その検討結果を踏まえ,環境基準の設定も含めて対応について検討する。
環境省は,都内2箇所を含む全国7箇所の国設局において,新たに微小粒子状物質(PM2.5)のモニタリングを実施する。その測定データ及び既実施局の測定データ(電磁的データを含む。)を提供する。
2 一審被告東京都の対策
(1) 沿道の道路環境対策
- ア 一審被告東京都は,一審被告国の道路管理者である国土交通省及び一審被告首都高と連携して,自動車排出ガスによる大気汚染が特に著しく重点的な対策を実施することが必要な地点について,効果的な局地汚染対策について検討する。
- イ 一審被告東京都は,既存道路の植栽の充実及び道路拡幅にあわせた植樹帯の整備に努める。
- ウ 一審被告東京都は,当面,現在拡幅事業を行っている以下の地点において,植樹帯や自転車歩行者道などの整備に向け関係機関と調整していく。
- 国道15号(大田区大森中一丁日〜同区蒲田三丁目)
- 国道131号(大田区大森南一丁日〜同区東糀谷一丁目)
- 山手通り(目黒区青葉台二丁目〜品川区大崎三丁目)
(2) 踏切対策
一審被告東京都は,踏切による交通渋滞及びこれによる排出ガス汚染を解消するため,以下の道路と鉄道の連続立体交差等の整備に努める。ア 平成16年6月に一審被告東京都が策定した「踏切対策基本方針」における鉄道立体化の検討対象区間20区間について,事業中箇所の進捗状況を踏まえながら,新たに事業化する区間を検討する。イ また,上記20区間以外の区間の踏切も含めて,早期に実施可能な対策として,踏切道の拡幅や踏切システムの改善などをあわせて検討,実施する。
(3) 自動車交通総量の削減対備
- ア モーダルシフトの推進
一審被告東京都は,総合物流ビジョンに基づき,道路,鉄道,港湾施設等の既存ストックや今後整備される施設機能を有効に活用し,ネットワークとしての機能を最大限発揮させ,物流の効率化とともに環境負荷の小さい物流体系への転換を推進する。
- イ ロードプライシング
一審被告東京都は,都心部の交通量抑制策の一つとして,迂回交通の影響対策や課金区域に流入する自動車に対する確実,公平な課金徴収方法などの課題を含めてロードプライシングの実施について今後とも検討していく。
- ウ 交通需要マネジメント(TDM)
一審被告東京都は,自動車の効率的な使用や公共交通機関の利用促進など自動車交通の抑制を図るため,駐車マネジメントや道路交通システムの高度情報化による既存道路容量の回復,乗り換えの利便性の向上や自転車の活用,パークアンドライドによる自動車利用からの転換,物流の効率化などのTDM施策をより一層充実していく。
- エ 大型貨物自動車の走行規制
一審被告東京都は,都心部等における大型貨物自動車の通行禁止規制について.交通の安全・円滑化,都市機能の確保,都民生活への影響などを勘案して,総合的に検討する。
(4) 路上工事の縮減等の推進
一審被告東京都は,路上工事の縮減を図るため,道路工事調整会議により共同施工,工事期間等の調整の実施,面的集中工事と掘削規制の一体的実施及び年末・年度末工事抑制の徹底を図る。また,各種媒体を活用した路上工事情報提供を実施する。
(5) 低公害車等の導入促進
- ア 一審被告東京都は,自動車から排出される大気汚染物質などを一層低減するため,技術開発の促進により,低公害車及び低燃費車の普及を図っていく。また,中小事業者への低公害車等の普及促進を図るため,最新の排出ガス規制適合車への買い換えに係る融資の利子補給などの低公害車等の融資斡旋や粒子状物質減少装置の装着費用の補助などの施策を行い,今後も一層充実させていく。
- イ 一審被告東京都は,都バス,その他庁有車への低公害車等の導入について,目標値の設定も視野に入れて検討し,今後一層進めていく。
(6) エコドライブの普及・推進
一審被告東京都は,エコドライブについて,ステッカーやチラシを配布するなどの普及啓発活動に取り組む。
(7) 常時測定体制の強化
一審被告東京都は,微小粒子状物質(PM2.5)による健康影響の可能性が懸念されていることを踏まえ,微小粒子状物質(PM2.5)についても常時測定を行う測定局を拡大していくことを検討する。
第3 解決金の支払
1 一審被告メーカーらは,一審原告らに対し,解決金として,連帯して金2億1239万円(弁護団注:地裁2〜6次とあわせて金12億円)を,平成19年9月28日限り,一審原告らの指定する預金口座に送金する方法により支払う。
2 一審原告ら及び一審被告メーカーらは,本和解により一審原告らの公害健康被害の補償等に関する法律に基づく受給資格に影響を及ぼす意思がないことを相互に確認する。
第4 連絡会の設置
1 一審原告らと一審被告国,同首都高及び同東京都は,別紙5のとおり,「東京地域の道路交通環境改善に関する連絡会」を設置することに合意する。
(別紙5)
東京地域の道路交通環境改善に関する連絡会設置要綱
一 連絡会の設置
東京地域の道路交通環境改善に関する連絡会(以下「連絡会Jという。)を設置する。
二 連絡会の目的
連絡会は,東京1〜6次訴訟の原告らと国,首都高速道路株式会社及び東京都との間で意見交換を行い,和解条項に掲げる環境対策の円滑かつ効果的な実施に資することを目的とする。
なお,道路沿道対策の実施に当たっては,沿道住民等の関係者の意見を聴きながら取り組むものとする。
三 連絡会の構成
連絡会は次の関係委員をメンバーとする。
- 国土交通省
- 環境省
- 首都高速道路株式会社
- 東京都
- 原告ら
四 会議
連絡会は,和解条項に掲げる環境対策の円滑かつ効果的な実施に資するため,
1 和解条項に掲げる以下の事項について意見交換を行う。
- ① 道路環境対策に関すること
- ② 自動車排出ガス対策に関すること
- ③ 自動車交通総量の削減対策に関すること
- ④ 東京都が行う大気環境保全対策に関すること
- ⑤ その他①ないし④に関して,必要な事項として関係委員が了解したこと
2 環境省は,連絡会において,和解条項に掲げるその他の環境対策の実施状況について報告する。
五 連絡会の座長及び事務局
- 1 連絡会の座長は,国土交通省関東地方整備局代表委員とする。
- 2 連絡会の事務局は,国土交通省関東地方整備局,環境省水・大気環境局とする。
六 連絡会の運営
- 1 連絡会は,年1回開催とする。
- 2 臨時の連絡会は,関係委員の意見にも配慮し,必要に応じて座長が招集する。
- 3 連絡会は公開とする。ただし,関係委員の合意で非公開とすることができる。
2 一審原告らと一審被告東京都は,別紙6のとおり,「東京都医療費助成制度に開する連絡会」を設置することに合意する。
(別紙6)
東京都医療費助成制度に関する連絡会設置要綱
一 連絡会の設置
東京都医療費助成制度に関する連絡会(以下「連絡会」という。)を設置する。
二 連絡会の日的
連絡会は,東京1〜6次訴訟の原告らと東京都との間で意見交換を行い,和解条項に掲げる医療費助成制度の円滑かつ効果的な実施に資することを目的とする。
三 連絡会の構成
連絡会は次の関係委員をメンバーとする。
- 東京都
- 原告ら
四 会議
連絡会は,以下の事項について意見交換を行う。
- ① 本和解の成立に伴って創設する東京都の医療費助成制度の運用の状況及びその見直しに関すること
- ② その他前項に関して,必要な事項として関係委員が了解したこと
五 連絡会の座長及び事務局
- 1 連絡会の座長は,東京都代表委員とする。
- 2 連絡会の事務局は,東京都とする。
六 連絡会の運営
- 1 連絡会は,年1回開催とする。
- 2 臨時の連絡会は,関係委員の意見にも配慮し,必要に応じて座長が招集する。
- 3 連絡会は公開とする。ただし,関係委員の合意で非公開とすることができる。
第5 その他
1 一審原告らはその余の請求を放棄する。
2 一審原告らと一審被告らは,本件に関し,一審原告らと一審被告らとの問に本和解条項に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。
3 訴訟費用及び和解費用は,第1,2審とも,各自の負担とする。
以上