公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【3】 特別報告
沖縄ジュゴン「自然の権利」訴訟
弁護士 籠橋隆明

1  2007年までの情勢
 1995年9月4日の沖縄少女暴行事件に始まる普天間基地移転、辺野古代替基地建設反対運動はねばり強く続けられている。その結果、日米両政府は2005年10月29日に日弁安全保障協議委員会(2+2)を実施し、辺野古海上案を撤回し、キャンプシュワブ海岸案を提案し関係者の調整を開始した。この案は地元名護市、沖縄県とは無関係に調整されたため、地元自治体からも受け入れられないままとなっている。
 本来、政府は地元合意がないのであるから、建設に先立つあらゆる行為を行ってはならない。しかし、焦った政府は2007年5月に環境アセスメントのための事前調査を開始した。これに反対する住民らを威嚇するため、政府は同年5月16日は掃海艇「ぶんご」を出動させるという行動に出ている。平和運動に対して警察力を超えて軍事力で威嚇するなどとは戦後日本では考えられない異常事態である。
 さらに、2007年8月7日に、那覇防衛局は環境影響評価法に基づき方法書を送付した(法6条、7条)。同月14日からは公告縦覧手続き(法8条)が行われた。同年12月17日、沖縄県環境影響評価審査会の津嘉山正光会長(琉球大名誉教授)は米軍普天間飛行場代替施設建設の環境影響評価方法書に対する審査結果を知事あてに答申し、「事業内容がある程度決定した上で、再度実施すべきだと思量する」とし、方法書の再提出を求めるという異常事態となった。
 現在、沖縄辺野古基地問題は環境アセスメント手続きの是非が最大の問題点となっている。

2  沖縄ジュゴン「自然の権利」訴訟の動き
 沖縄ジュゴン「自然の権利」訴訟は米国文化財保護法(National Historical Prservation Act / NHPA)を活用した訴訟である。原告は沖縄ジュゴン、日本環境法律家連盟(JELF)ほか、沖縄環境ネットワークなどの沖縄の環境保護グループ、米国のNGOである生物多様性センターなどの米国の環境保護団体である。被告は国防総省(the Department of Defense)である。米国は事件名を当事者の氏名で表すため、本件は Okinawan Dugong vs. Rumsfeldとなっている。
 NHPA402条は「自国のみならず、他国の文化財の保護も定めている。連邦政府が他国の文化財に対して直接間接に影響を与える行為を行う場合には、その行為が及ぼす影響にについて考慮しなければならない。」と定めており、米国政府には他国の文化財を保護する義務がある。沖縄ジュゴンは日本の文化財保護法上の天然記念物であるためNHPAによる保護の対象となるのである。そこで、JELFでは辺野古基地建設はNHPAに違反するとしてサンフランシスコ連邦地裁に基地建設行為(利用行為)の違法確認を求めて訴えを提起した。
 米国の法律が外国で適用あるか、生物であるジュゴンがNHPAが保護する文化財と言えるかなどいくつかの問題があり、被告国防総省は却下を求めてきた。これに対し、サンフランシスコ連邦地裁は2005年3月2日に本案に入る旨の中間判決を出した。これは我々弁護団の大きな勝利である。その後、裁判の過程で、基地建設場所の変更があり、訴訟自体の維持ができるか問題となった。争点は新しい基地建設場所がジュゴンに影響を与えると言えるか、審理の対象となる米軍の行為は何かが争点となった。また、日本で環境アセスメントが実施されていることで、米国政府としてはジュゴンに十分配慮していることになるのではないかということも問題になった。訴訟は2007年9月17日結審し、判決を待っている状態である。裁判と平行して、我々はディスカバリー制度を利用して辺野古基地の軍事情報を入手し分析して運動に役立てている。

3  沖縄ジュゴン「自然の権利」訴訟判決後の戦略
 NHPAによると政府は "consult with the appropriate Federal agencies in accordance with this Act on- ・・・・・ (i) Federal undertakings that may affect historic properties; and・・・・"と定めており、影響を与えるかも知れない行為(may affect)である以上、協議が必要であるとして立証責任の転換が図られている。本件ではジュゴンに対して悪影響が及ぶであろうことは研究者のレポート、日本自然保護協会のレポートから明らかにされており、国防総省側において影響がないことを立証しない限り違法性が判断されることになる。  このように違法性の立証責任の転換が図られているため、本件では勝訴の可能性は十分ある。本件において原告側が勝訴した場合には国防総省は、ジュゴン保護のために、本件基地建設がジュゴンにおよぼす影響を明らかにし、その影響を考慮するにさいしては、利害関係者との協議(consultation)を義務づけられる。利害関係者には、沖縄県その他の関係自治体、辺野古集落・住民、自然保護団体などが、広く含まれることになる。もっとも、あくまで利害関係者との協議という手続が要求されるだけで、計画中止など一定の実体的な判断が強制されるわけではない。
 弁護団の目的は本件基地建設に際してアセスメント手続きを可能な限り厳格にして、とりわけ米国並みの厳格さを求めることによって基地建設を阻止していこうというところにある。判決の結果、ジュゴン保護をめぐって協議が行われるというのであれば、テーマは環境影響評価になることは疑いない。その際には現在我が国で強引に進められているアセスメント手続きがいかに不備であるかを明らかにすることが不可避となろう。

4  辺野古基地建設阻止に向けての弁護団の戦略と今後の展開
 判決は今年の3月にも出される可能性がある。我々は勝訴することを前提に辺野古基地建設阻止に向けて新たな戦略を準備することが求められている。
 上記のように国内において目下の課題は日本国政府によって強引に進められている環境影響評価手続きを如何に阻止するかである。目下のアセスメント手続きについての問題点は次の点に集約できる。
① 地元のコンセンサスも得られないまま手続きに入っていること。
② アセスメント前に調査と称して、辺野古海域のボーリング調査を行ったり、ジュゴン監視モニターを設置したりして、区域の自然を攪乱していること。
③ どのような設備が施されるのか、どのような飛行機がどのように飛ばされるのか全く不明であるなど基地の所要が明らかにされていないため、方法書としてはきわめて不備であること。
 これらの問題点は前記のように日米の比較において検討されなければならない。弁護団としては判決勝訴をきっかけにIUCNやユネスコといった国際機関、ほ乳類学会などの専門家集団などを巻き込んだジュゴン保護委員会というようなものができることを期待している。その中でアセスメントの不備が指摘され、ジュゴン保護無くして基地建設はあり得ない状況に追い込むことが必要である。そのため行動が現在弁護団には求められている。
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