【3】 特別報告
八ッ場ダム住民訴訟報告
弁護士 西島 和
1 訴訟の経過
国土交通省が福田康夫首相(福田赳夫元首相)の地元・群馬県に建設を予定している「福田ダム」こと八ッ場ダムは、利根川流域の自治体の費用負担を前提として計画されています。八ッ場ダム訴訟は、知事に対し自治体負担金を支出しないこと等を求める住民訴訟です。
2004年、利根川流域の一都五県の住民から各地裁に提起された訴えに対し、各被告は「法廷に政策論争をもちこむもので、住民訴訟の濫用である」などとしてダムの必要性等事業の内容を審理することなく請求を棄却するよう求めましたが、いずれの地裁でもほどなく事業の内容についての審理に入りました。
審理がすすむほどに、国土交通省の隠してきた事実、ごまかしてきた事実が次々と明らかになり、八ッ場ダム事業が国民・住民にとって必要性のない、国土交通省の予算と天下り先を確保するためだけのムダな公共事業であることがますますはっきりしてきました。
4年目の今年は、地裁によって訴訟の程度に差異はあるものの、原告被告双方の主張も終盤に入り、人証調べを実現できるかの山場を迎えようというところです。
原告団・弁護団は、さまざまな苦労の末、研究者・専門家の協力を得て、争点である各自治体の水需要、八ッ場ダムの洪水調節機能、建設予定地の地盤の危険性、ダム建設の環境影響評価の適切さ、等に関する証人候補者をたてることができました。順次証人候補者の意見書を作成し、証人採用を求めていきます。
なお、訴訟資料は、八ッ場ダム訴訟のホームページに掲載されています。今後、証人予定者の意見書も随時掲載していく予定です。
2 運動・世論のたかまり
(1) 各地の原告団・弁護団は、「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」を中心として、各都県において「ストップさせる会」を組織し、訴訟を支えています。
これまで、毎年年末に訴訟の報告集会を開催してきており、昨年は、「誰のための公共事業?『政・官・業』癒着の真相とは」と題し、明治大学の西川伸一教授(政治学)を講師に迎え、ムダな公共事業が止まらない仕組みと、市民による「抗議」の必要性について共通認識を得ることができました。講演に次いで原告団・弁護団事務局長の広田次男弁護士が「訴訟に勝利し民主主義のルネサンスを実現しよう」と檄を飛ばすと、国会議員を含む100名の出席者は大いに意気を上げました。
(2) これに先立つ11月4日には、八ッ場あしたの会・八ッ場ダムを考える会の主催により、国会近くの星陵会館にてシンポジウム「ダムに負けない村−八ッ場から地域の再生を考える」が開催されました。加藤登紀子さんをはじめとする文化人、公共事業予定地の自治体首長・議員などをパネリストに迎え、出席いただいた4名の国会議員とともに、公共事業が予定地住民に与える影響(被害)という問題点について議論を深めました(詳細は「八ッ場あしたの会」のホームページをご覧下さい)。
(3) マスメディアの報道も多くなされました。12月10日には超党派の国会議員連盟「公共事業チェック議員の会」の会員が現地を視察し、週刊誌フライデーで報じられました。この現地視察にも参加した民主党の大河原雅子参議院議員は、今年1月23日の代表質問で八ッ場ダムの必要性等について質し、翌日の毎日新聞全国版などで報じられました。
この一年で、八ッ場ダムの「ムダな公共事業」としての「名声」は大いに高まったといえると思います。
3 工期延長に伴う事業費増額?
昨年12月、国土交通省は、八ッ場ダム事業につき、5年の工期延長見通しを公表しました。延長が決まれば、計画策定以来2度目・当初計画から15年の延長となり、前回の延長の際には事業費が2,100億円から4,600億円に増額されています。運動体として、改めて事業の見直しを訴え、各方面へのはたらきかけに奔走する日々が続きそうです。
4 住民訴訟で財政破綻をくいとめよう
ムダな公共事業は、国民・住民の生活を支える財政に対する脅威です。
しかし、公共事業省庁は、その「能力」を総動員してもっともらしい数字を並べ、ときには税金で新聞広告をうって、事業の必要性を訴えますから、公共事業を政治的に止めるのは、必ずしも容易ではありません。
住民訴訟を十分に機能させて、自治体の財政悪化を食い止め、自治体住民の生活を守ることができるよう、勝利を目指します。