公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【3】 特別報告
大阪及び全国的なアスベスト被害者救済の取り組み
大阪じん肺アスベスト弁護団 副団長
弁護士 村松昭夫

1  大阪・泉南アスベスト国家賠償訴訟について
 2006年5月26日、大阪・泉南地域のアスベスト被害者8名が国の規制権限不行使の責任を追及して提訴した大阪・泉南アスベスト国家賠償請求訴訟は、今年いよいよ証人尋問の段階を迎える。一次提訴後、追加提訴を行って現在28名の原告で闘いを進めているが、最終的には30名を超える原告団となる予定である。
 繰り返しになるが、大阪・泉南地域の石綿紡織業は、戦前は軍需産業として、戦後は経済復興、経済成長になくてはならない製品としてアスベスト製品の生産量を増加させ、泉南地域は、全国一の石綿工場の集積地となった。泉南地域の石綿被害は、すでに戦前から進行し、石綿被害の疫学的・臨床的調査研究は、早くも、昭和12年(1937年)から同15年(1940年)にかけて行われ、昭和12年調査報告では、健康調査を実施した11工場403人の内じん肺罹患率は実に12.4%に及んだと報告されている。昭和15年報告でも、石綿肺罹患率が12.3%に上ったとされ、調査にあたった医師らが、すでに法規的取締りの必要性を提言していたことは重要である。戦後も泉南地域の石綿被害は、改善されることなく進行し、劣悪な労働環境は、そのまま工場近隣に深刻なアスベスト公害を発生させた。
 ところが、国は、被害発生と対策の必要性を認識しながら、石綿による健康被害に関する警告、石綿製品の危険性に関する表示、石綿の排出抑制や厳重な取り扱い等必要な対策と規制が強く求められていたにもかかわらず、石綿の経済的な効用を優先させて、あえて飛散防止の不十分な劣悪なままでの操業を黙認し、そのことで一層の被害拡大をもたらすという「意図的な怠慢」を行ってきた。
 大阪・泉南アスベスト国賠訴訟は、こうした国の規制権限不行使の違法を追及しているものであり、石綿工場での旧労働者、近隣住民、家族などが訴訟に立ち上がっている。
 訴訟は、2006年8月30日の第1回弁論期日以後、すでに10回に亘って原告、被告双方から主張の応酬が行われ、一層国の不作為の違法が明らかになっている。例えば、イギリスにおいては、我が国と同様に戦前の1930年代に石綿紡織業における被害実態調査が行われ、それに基づいて1932年には国による対策面での規制が行われた事実や、ドイツにおいても戦前から18歳未満の石綿工場での就労禁止などの規制が行われた事実は、我が国の不作為を一層浮き彫りにするものである。法廷は毎回大法廷を使用して行われているが、毎回、原告や家族はもちろん、公害患者会、公害関連団体、地元の「市民の会」、労働組合、さらにはアスベスト問題に関心を持つ市民など多数が参加し、毎回の法廷で原告の意見陳述が行われ、熱気溢れる法廷となっている。また、昨年6月16日には、小野寺利幸全国じん肺弁護団代表を迎えての提訴一周年の集いを、今年2月2日には原告らを励ます新春の集いをそれぞれ開催し、いずれも多くの原告、支援者らが参加している。
 3月の期日でほぼ双方の主張が出そろい、今後は、春から夏にかけて現場検証や学者証人の尋問に入る予定である。原告側は、アスベスト被害の発生構造から見た国の責任の問題や、医学的知見、工学的知見、個別被害などの証人申請を行っている。国側も3名程度の証人を立てると表明している。早期かつ充実した審理に向けて、証人尋問の準備を行っていきたい。

2  ゼネコンなどの個別企業責任の追及について
 弁護団は、国賠訴訟と共に、労災やアスベスト新法を活用した救済活動や、ゼネコン相手、港湾関連の倉庫会社相手、アスベスト製品を使用していた企業相手などに対して訴訟を提起し、泉南の唯一の大手企業であった三菱マテリアル建材(旧三好石綿)に関しても請求人団を組織して被害救済の交渉を行っている。
 また、2月3日には、和歌山市においても民医連の協力を得て「医療・法律相談会」を開催し、当日は27名もの相談者が訪れた。引き続きアスベスト被害の掘り起こしの重要性を認識したところである。

3  アスベスト被害の救済に向けた全国的な闘いを
 アスベスト被害は複合型ストック災害であり、採掘、製造、流通、消費、廃棄とあらゆる場面で被害が発生しており、その被害救済はやっと手が付けられたところである。
 昨年には尼崎においてクボタと国の責任を追及する訴訟が提起され、首都圏でも今年5月をメドに、国の責任を問う200名を超える建築労働者の集団提訴が予定されている。やっと、全国的な救済運動に火がついてきたところである。
 公害弁連は、公害被害者の救済に向けた闘いで多くの経験と知恵を蓄積しており、その経験と知恵をアスベスト被害の救済に生かすことが求められている。再度、全国的な救済運動を巻き起こすことを呼びかけたい。
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