公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【1】 基調報告
第1  公害・環境をとりまく情勢
1  政治的社会的情勢
 2007年度の前半は、安倍内閣が衆議院議員の3分の2を越える与党(自民党・公明党)の力を背景に強行採決を連発し、保守的政策を強行した。一方では、5,000万件に及ぶ「年金記録漏れ」や相次ぐ閣僚の「政治とカネ」をめぐる不祥事が続発し、安倍内閣や与党に対する支持が急速に落ち込んでいった。その中で7月29日に実施された参議院議員選挙では自民党が歴史的な敗北を喫し、参議院では野党が多数を占める所謂「ねじれ国会」となった。参議院大敗にもかかわらず辞職しなかった安倍首相は、内閣改造に踏み切ったものの、国会開会後の9月12日に退陣を表明した。後任の総理大臣には同月25日に自民党の福田康夫が指名されたが、ねじれ国会のために国会運営がままならず、11月1日にはテロ特措法が失効し、アフガニスタン沖で給油活動を行ってきた海上自衛隊が撤収を余儀なくされた。国会は、新テロ特措法をめぐって二度の会期延長により越年国会となり、新テロ特措法は、参議院での否決後本年1月12日に57年ぶりとなる衆議院の再可決によって成立した。また、長期にわたりマスコミを大いに利用した小泉元首相の政権運営の影響もあって、後継の首相も世論の動向を無視できない傾向が強まっているが、不祥事続きの安倍政権も、ねじれ国会のうえ米国のサブプライムローン問題に端を発する株価の大幅下落などに有効な政策を講じることのできない福田政権も、マスコミの発表する支持率の下落に悩まされてきた。3月に入って福田政権の支持率は30%前後で、不支持率は50%を超えている。
 このような政治状況の中で、政府もこれまでのように公害被害者らの正当な要求を無下に拒否できなくなっている。とくに、6月にトンネルじん肺訴訟の和解が成立し、8月の東京大気汚染公害裁判の和解においては医療費救済制度に対し国費の支出が表明され、本年になって薬害肝炎救済法の成立に伴う薬害C型肝炎訴訟の和解など、いずれも各訴訟団、弁護団の絶大なる運動の成果であるとともに、その運動を実らせることのできる政治状況となりつつあることを示している。
 一方、社会的状況としては、小泉・安倍政権の「構造改革」路線によって、国民の所得格差が拡大していく中、政府による好景気継続の発表にもかかわらず個人消費は一向に伸びていない。また、秋からは世界的な原油高に加え、食料や飼料の価格の高騰が続き、ともに輸入に頼っている我国の国民生活は一層苦しくなってきた。このような社会的状況下において、福田政権は、有効な手立てを打たず、かえってガソリン税の道路特定財源を継続することに必死となっている。この道路特定財源問題には、これまで計画した道路はすべて作るといった政財官の癒着の背景がある。無駄で有害な公共事業が環境破壊を招く構図が依然として続いている。
 もう一つ社会問題となったのが食品をめぐる問題である。昨年1月に大手菓子メーカー「不二家」が消費期限を過ぎた牛乳を使った菓子を製造、出荷していたとして、洋菓子販売を休止したのをはじめ、老舗菓子店「赤福」、食肉製造業者「ミートホープ」、老舗料理店「船場吉兆」など、次々と食品の偽装が明らかとなった。また、今年1月には中国企業が製造したギョーザから我国で禁止されている農薬が検出され、食糧の輸入に頼っている我国において国民の「食」に対する安全の問題が大きくクローズアップされた。また、国内の環境問題だけでなく、海外、特に急速に増大しつつある中国の環境問題が我国国民にとって直接に影響を及ぼすものであることをあらためて思い知らされることとなった。

2  わが国の公害・環境破壊の現状
 わが国の大気汚染、騒音、水質汚濁、廃棄物問題などの公害・環境破壊の現状、特に昨年末に開かれたCOP13、COPMOP3の「バリ会議」や今年7月に開催予定の「洞爺湖サミット」で注目された地球温暖化問題の現状は、次のとおりであり、その特徴的な状況を指摘する。
 第一に、地球温暖化問題では、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第4次評価報告書第1作業部会報告書によると、全地球平均地上気温は1906?2005年の間に0.74(0.56?0.92)℃上昇し、20世紀を通じて平均海面水位は17(12?22)cm上昇した。また、最近50年間の気温上昇の速度は、過去100年間のほぼ2倍に増大し、海面上昇の速度も徐々に増大している。日本では20世紀中に平均気温が約1℃上昇した。
 また、日本の温室効果ガスの排出状況をみると、日本の2005年度の温室効果ガス総排出量は、13億6,000万トン(CO2換算)で、京都議定書の規定による基準年(1990年。ただし、HFC、PFC及びSF6については1995年)の総排出量(12億6,100万トン)と比べ、7.8%上回っている。また、前年度と比べると0.2%の増加となっている。2005年度のCO2の排出量は12億9,300万トン(1990年度比13.1%増加)、1人当たりでは10.12トン/人(同9.4%増加)であった。部門別にみると、産業部門からの排出量は4億5,600万トン(同5.5%減少)、運輸部門からの排出量は2億5,700万トン(同18.1%増加)、業務その他部門からの排出量は2億3,800万トン(同44.6%増加)、家庭部門からの排出量は1億7,400万トン(同36.7%増加)であった。政府による分類では以上のとおりであるが、結局のところ企業も家庭もCO2の排出量が増加している。
 第二に、都市部を中心とする窒素酸化物(NOx)や浮遊粒子状物質(SPM)の汚染は、緩やかな改善傾向にあるが、悪性が強い微小粒子状物質については1997年に米国で環境基準が設定されているにもかかわらず、わが国では環境基準を定めておらず、測定局もわずかしかない。全国の有効測定局の2005年度のNO2年平均値は、一般局が0.015ppm、自排局が0.027ppmとほぼ横ばいであり、自排局では緩やかな改善傾向が見られる。環境基準の達成状況の推移は、2005年度は、一般局99.9%、自排局91.3%で、一般局では近年殆ど全ての測定局で環境基準を達成しているが、自排局では前年に比べやや改善するにとどまっている。また、2005年度に環境基準が達成されなかった測定局の分布をみると、自排局は、自動車NOx・PM法の対策地域のうち埼玉県を除く7都府県(千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府及び兵庫県)に、岡山県、山口県、福岡県を加えた10都府県に分布している。
 自動車NOx・PM法に基づく対策地域全体における環境基準達成局の割合は、2005年度は85.1%(自排局)と近年改善傾向がみられる。また、平均値は、近年はほぼ横ばいながら緩やかな改善傾向がみられる。
 一方、SPMについてみると、全国の有効測定局の2005年度の年平均値は、一般局0.027mg/m3、自排局0.031mg/m3で、前年度に比べて改善し、近年緩やかな減少傾向がみられる。SPMの環境基準の達成率の推移は、2005年度では一般局96.4%、自排局93.7%と前年度に比べていずれもやや低下している。環境基準を達成していない測定局は、全国24府県に分布している。
 第三に、近年長期暴露による健康被害が懸念されている有害大気汚染物質についてみれば、2005年度でベンゼンについては、月1回以上の頻度で1年間にわたって測定した458地点の測定結果で、環境基準値の超過割合は、3.9%であった。
 第四に、自動車騒音の状況については、2005年度の自動車騒音の常時監視の結果によると、全国2914千戸の住居等を対象に行った評価では、昼間または夜間で環境基準を超過したのは456千戸(16%)で、このうち、幹線交通を担う道路に近接する空間にある1240千戸のうち昼間又は夜間で環境基準を超過した住居等は317千戸(26%)であった。
 第五に、航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、長期的には改善の傾向にあるものの、2005年度においては測定地点の約27%の地点で達成していない。また、新幹線鉄道騒音については、一部で75dB以下が達成されていない。
 第六に、水環境について、2005年度の有機汚濁の環境基準(河川ではBOD、湖沼と海域ではCOD)の達成率は83.4%であり、水域別では河川87.2%、湖沼53.4%、海域76.0%となり、渇水の影響により河川における達成率が低下した。また、湖沼、内湾、内海などの閉鎖性水域で依然として達成率が低くなっている。地下水質の汚濁では、2005年度の調査対象井戸の6.3%において環境基準を超過する項目がみられた。施肥、家畜排せつ物、生活排水等が原因とみられる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が4.2%と最も高くなっている。また、汚染源が主に事業所であるトリクロロエチレン等の揮発性有機化合物についても、依然として新たな汚染が発見されている。
 一方、市街地等の土壌汚染については、近年、土壌汚染対策法に基づく調査や対策が進められているとともに、工場跡地の再開発・売却の増加、環境管理等の一環として自主的な汚染調査を行う事業者の増加、地方公共団体における地下水の常時監視の体制整備や土壌汚染対策に係る条例の整備等に伴い、土壌汚染事例の判明件数が増加している。都道府県や土壌汚染対策法の政令市が把握している調査の結果では、2004年度に土壌の汚染に係る環境基準または土壌汚染対策法の指定基準を超える汚染が判明した事例は454件となっている。事例を汚染物質別にみると、鉛、砒素、フッ素などに加え、金属の脱脂洗浄や溶剤として使われるトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンによる事例が多くみられる。
 第七に、現代の大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動の仕組みを根本から見直し循環型社会の構築を目指しているものの、廃棄物問題は、依然として深刻な状況にある。
 2004年度の一般廃棄物の総排出量は、5,059万トン、国民1人1日当たり1,086gで、焼却などした後の最終処分量は、809万トンにのぼっている。産業廃棄物の総排出量は、2004年度は約4億1,700万トンで、最終処分量は、約2,600万トンである。また、最終処分場の残余年数は、2005年4月時点で全国平均7.2年で、依然として厳しい状況にある。

3  公害・環境をめぐる注目すべき動き
1. まず、東京大気汚染裁判では、昨年8月8日に東京高裁と東京地裁において全面和解が成立した。同裁判では、一昨年9月東京高裁による解決勧告を受けて、①東京都の医療費救済制度の創設、②損害補償金の支払い、③公害防止策の実施、④継続的協議機関の設置、⑤謝罪という5項目の全面解決要求を掲げて、1月、2月そして3月の大衆行動や6月5日から同月22日までのトヨタ本社前座り込み行為など、患者(原告)、弁護団、支援者が一体となった運動を展開した。その結果成立した和解では、メーカーの謝罪を除く要求を実現した。医療費救済制度では、東京都にメーカーから33億円、国から60億円、首都高会社からも5億円が拠出され、都内に1年以上居住するすべてのぜん息患者を対象に、保険診療の自己負担分を全額助成することとなった。また、公害防止策の中には、微小粒子状物質(PM2.5)対策について国によって初めて環境基準の設定を視野に入れた検討を行うことが約束され、現在微小粒子状物質健康影響評価検討会が2008年3月にPM2.5有害性の検討結果を発表する予定である。解決金としては被告メーカー7社より12億円が支払われ、協議機関としては、「東京地域の道路交通環境改善に関する連絡会」および「東京都医療費助成制度に関する連絡会」の設置が取り決められた。
 東京に先んじて医療費助成制度を条例化した川崎では、2007年1月1日から新制度がスタートしたが、条例申請運動の成果として、同年12月末までには同制度の認定された患者が2,000名に達する見込みとなっている。
 既に勝利和解を勝ち取っている西淀川、川崎、尼崎、名古屋の各弁護団では、和解条項に則り、国との連絡会が定期的に(尼崎では2007年中に22回から26回まで5回)開催され、道路や交差点の改善、測定所の増設等の公害対策の実施に向けた活動が行われている。とくに、尼崎では、2006年に社会実験が行われた環境ロードプライシングの実施について検討が進められ、また、川崎では歩道の拡幅・植樹、交差点の改善等の具体的な公害対策が実施され、一方では「作文・絵画コンクール」や「フェスタ」などの環境に関する啓蒙活動が続けられている。
2. 次に、原告数が1,472名となったノーモア・ミナマタ訴訟のたたかいが水俣病被害者の救済制度を確立するうえから重要である。2004年10月15日の関西訴訟最高裁判決によって、国・熊本県にも法的責任が認められるとともに、従来の行政認定基準と異なって感覚障害だけで水俣病と診断できることが認められたのを契機として、水俣病の認定申請者は、昨年末時点で熊本・鹿児島の両県で約5,800名にも及んでいる。しかし、国は、行政認定基準の変更を拒み、新保健手帳の公布による安上がりの解決を図ろうとしたが、それでは一時金の支払いはなく、認定申請や訴訟をしないことを受給条件とするものであり、認定申請からの移行者は殆どなかった。また、与党水俣病問題プロジェクトチームは、昨年4月からアンケート調査を実施し、10月26日に解決案を示したが、一時金150万円などの安上がりで、大量切り捨てが行われる可能性の高い解決案であり、ノーモア・ミナマタ原告団等が受け入れを拒否した。このようにノーモア・ミナマタ原告団では、水俣病被害者が正当な補償を勝ち取るために、裁判を推進しているが、他の団体にも訴訟の動きが広がっている。
 また、カネミ油症裁判では、1987年最高裁で企業との和解が成立して終了したが、一部の原告は仮執行金を返還しなければならなかった。しかし、発症から30数年が経っても患者らには深刻な被害が続き、2006年4月には日弁連より人権救済の勧告が出され、与党プロジェクトチームが結成されるなど、被害者の統一した要求と運動の高まりを見せた。その中、「苦しんでいる被害者から仮執行金の返還を求める」ことに対する批判が広がり、昨年6月1日「仮払金返還債権免除特例法」が成立した。この法律によって、本年1月17日までに93パーセントの被害者が免除された。さらに、昨年6月には国会に超党派の議員連盟もでき、認定患者を対象にした健康実態調査が実施され、調査を受けた患者に対し、研究調査協力金として1人につき20万円が支給されることとなった。
3. 環境破壊の大型公共事業見直しのたたかいは、頑として政策の誤りを認めようとしない政府・官僚との困難なたたかいである。2003年5月の福岡高裁判決とこれに対する農水大臣の上告断念で原告勝訴の判決が確定した川辺川利水訴訟では、あくまでダム建設にこだわる農水省や国交省とのせめぎ合いのなか、地域住民の運動の力で相良村をはじめとする地元市町村を巻き込んで、昨年12月に2008年度の利水事業の事業費の予算化断念と利水事業の休止決定へと農水省を追い込んだ。残るは、「穴あきダム」構想に固執する国交省に対するたたかいが残されるのみとなった。
 一方無駄で有害な公共事業の代表格と言える諫早湾干拓事業の差し止めを求める「よみがえれ!有明海訴訟」では、昨年11月漁民らの抗議の中で、農水省と長崎県による完工式が挙行された。しかし、国が潮受け堤防の開門を拒み続けているため、調整池の水質が悪化して、貝の養殖に壊滅的打撃を与える新たな被害も起きている。長崎県は、干拓工事で造成された農地において2008年4月から営農を開始させるため、ダミーとして県農業振興公社を挟む形で、違法に公金を支出させようとしている。この公金支出の差止を求めた住民訴訟は、本年1月28日長崎地裁で「違法とまでは言えない」との判決が出されたが、その判決においても本件の公金支出について多くの疑問が提示された。今年は、いよいよ佐賀地裁の「よみがえれ!有明海訴訟」の一審判決が6月27日に出される。  今国会で最大の争点となって道路特定財源をもって国が莫大な税金を投入して作り続けてきた道路による環境破壊に反対するたたかいとしては、東京の圏央道の工事差止をめぐる裁判が注目された。2007年度としては、4月13日にあきる野土地収用事件最高裁判決があり、住民らの上告が棄却された。これによりあきる野に関する事件はすべて終了し、結果的には原告住民らの請求が認められなかったものの、土地収用手続きを違法として事業認定及び収用裁決の取り消しを認め、収用手続きを執行停止した東京地裁の判決と決定は、今後の道路建設に反対するたたかいにおいて大きな一歩となった。また、高尾山天狗裁判においては、①工事差止訴訟、②八王子城跡・裏高尾の事業認定・収用裁決取消訴訟、③高尾山の事業認定取消訴訟、④高尾山の収用手続きと4つの事件が同時進行で進められている。①では2007年6月15日に、②では2005年5月31日にそれぞれ原告側敗訴の一審判決が出され、現在東京高裁で控訴審が係属している。④の収用手続きにおいては昨年12月27日付で収用明渡の裁決がなされ、本年3月中には裁決取消訴訟が提起される予定である。同訴訟団・弁護団では、「3000人集会」、著名文化人等による意見広告、「海・空・山・川フェスティバル」、ピアノコンサート等多彩な運動を展開している。  一方、広島市内を通過する国道2号線の工事差止等請求訴訟では、原告151名で高架道路建設を阻止するたたかいが行われている。第1期工事は完成して使用開始されてしまったが、第2期工事は、着工見送りのままストップしている。
4. 基地騒音公害に反対するたたかいは、大量原告による新訴訟が一昨年の厚木基地訴訟に続き、昨年の4月16日には小松基地第3・4次訴訟の高裁判決、5月29日には新横田基地最高裁判決によって終了し、残る新嘉手納基地訴訟は、福岡高裁那覇支部での控訴審が今年度中にも結審を迎える状況となっている。また、2002年に新しく提起された普天間基地訴訟では、那覇地裁沖縄支部に係属する第1審が結審し、今年度中には判決となる。各基地の新訴訟において、裁判所は、国の危険への接近の主張を認めない、最も広いW値(うるささ指数)75までの原告の損害賠償が認められるといった前進を着実に勝ち取っている反面、差止請求や将来請求といった基地問題を根本的に解決する請求について否定し続けている。しかし、新横田控訴審判決では、判決日までの約1年間だけでも将来請求が認められ、最高裁は控訴審判決を破棄したにもかかわらず、大阪空港の最高裁判決以来否定し続けた将来請求について、最高裁の裁判官の意見が3対2と大きく割れたことが注目されるところである。また、たび重なる違法な飛行に対する損害賠償判決が出され続けているのにもかかわらず、立法府や行政府が何ら有効な対策を講じようとはしないことを指弾する判決が目立つようになってきた。このような状況の中で、これまで最多の6,130名の厚木基地周辺住民が昨年12月17日に差止請求や行政訴訟も含めて第4次訴訟を提訴した。また、小松基地訴訟でも新たな第5次に向けて説明会が行われている。横田基地では、騒音が最近比較的低くなっていることもあって、急速な動きとはなっていないが、本年1月訴訟団解散式を機に新たな対策準備会が作られた。米軍再編や横田基地の軍民共用化の動きの中、各基地の騒音状態が流動化しているが、直ちに基地騒音がなくなる状況にない以上、基地周辺住民らの運動はなくならない。防衛省による補助金・交付金の凍結といった露骨な介入によって米軍再編の受入れを表明する新市長が誕生した岩国基地では、米軍再編によって厚木・普天間等からの部隊移駐によって騒音の激化が予想されるだけに、新たな動きが出てくることも考えられる。
5. 薬害に対するたたかいでは、フィブリノゲン製剤等の血液製剤の使用によって引き起こされた薬害肝炎訴訟がマスコミを巻き込んだ原告団・弁護団の運動によって本年1月11日に薬害肝炎救済法の制定と全面解決を勝ち取ったことが特筆される。公害弁連加入の弁護団としては、今回加入したばかりの薬害イレッサ訴訟の1審裁判が2004年から大阪地裁と東京地裁で係属している。イレッサは、イギリスのアストラゼネカ社の製造した肺がん用抗がん剤で、副作用の少ない「夢の新薬」と宣伝されて、2002年に世界で最初に日本で承認された。しかし、イレッサの間質性肺炎等の副作用によって、承認後の5年間で730名以上の患者が亡くなった。イレッサは、これまで5度にわたる大規模な試験にもかかわらず、肺がんに対する患者の延命効果が認められず、EUへの承認申請は取り下げられ、米国でも新規患者への投与が禁止された。それでも、日本では承認取消しの措置が取られず、現在でも多くの患者に使用し続けられている。訴訟では、2006年から医師の証人尋問が実施され、法廷内でも医学論争となっている。「がんだから死んでもしょうがない」として放置されてきた薬害について、利益をあげてきた企業と安易に承認した国に対してきちんと責任を取らせ、さらには抗がん剤についても副作用補償制度を作らせる重要なたたかいである。
6. 石綿(アスベスト)被害については、2005年6月のいわゆる「クボタショック」以来、職業病だけでなく、石綿工場の従業員のみならず、周辺住民にも中皮腫、肺がん等の被害を発生させていたことが明らかになった。2006年5月には大阪・泉南アスベスト国賠訴訟が提訴され、既に戦前の1937年から疫学的・臨床的調査によって石綿被害が確認されていることが明らかにされた。また、2007年5月にはクボタの石綿工場周辺に居住歴又は勤務歴を持つ中皮腫の患者の遺族がクボタと国を被告として提訴した。さらに、首都圏の建設労働者とその遺族らが国賠訴訟を起こす準備を進めている。
 石綿被害問題としては、既に生じた被害の救済とともに、建物の解体工事等による新たな被害の発生を防ぐ取り組みが重要である。東京の千代田区では、解体の申請があったすべての建物について区が石綿の有無を確認する制度を作った。このような制度のない多くの自治体では、工事業者の報告に任せているのが現状で、飛散防止をしていない解体工事が石綿の粉じんを撒き散らしているおそれが強い。これから膨大に予想される解体工事に伴う石綿被害の拡大を防ぐ方策の法制化が必要である。
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