公害弁連第37回総会議案書
2008.3.23  諫早
【2】 各地裁判のたたかいの報告(ダム・干拓問題)
〔2〕 黒部川河口流域における出し平ダム排砂漁業被害事件の経過
〜公調委の原因裁定〜
黒部川排砂被害訴訟弁護団
弁護士 武島直子

1  事案の概要
 出し平ダムは、清流で知られる黒部川上流に、関西電力が1985年に完成させた国内初の排砂式ダムである。関電は、この出し平ダムにおいて、91年12月から07年7月までに計15回の排砂を実施してきた。
 黒部川河口以東の沿岸海域では、排砂後の92年以来、漁獲量及び漁獲高の減少が継続しており、本件海域の漁民らは休業を余儀なくされるなど深刻な漁業被害を被っている。漁民らが、上記漁業被害は関電が実施してきたダム排砂によって魚類や海藻の生育環境が破壊されたことによるものと主張して、関電に対し、漁業行使権に基づく排砂の差止め及び不法行為に基づく損害賠償等を求める訴訟を富山地裁に提起したのは、02年12月のことである。
 本件訴訟は現在も係属中であるが、昨年3月、重要な争点の一つであるダム排砂と漁業被害との因果関係の存否について、公害等調整委員会による原因裁定が下されたので、今回はその内容を中心に報告したい。

2  公害等調整委員会による原因裁定
 ダム排砂と漁業被害との因果関係の存否については、04年8月、原告らの申立を受け、富山地裁が公調委に原因裁定を嘱託した。公調委の原因裁定制度は、公害紛争において最大の争点となることの多い因果関係の存否について、迅速かつ科学的な判断を行うために設けられた公害紛争処理制度の一つであるが、民事訴訟が係属している裁判所からの嘱託により原因裁定が行われたのは、本件が初めてとのことであった。
 嘱託を受けた公調委では、専門委員3名を選任し、04年10月から06年12月にわたる14回の審問と、集中審理による7人の人証調べ、裁定委員及び専門委員による現地調査、潜水による底質の採取・分析等の職権調査を経て、専門委員報告書を取りまとめ、06年12月に審理を終結。07年3月28日に裁定を下した(裁定委員長:加藤和夫 元札幌高裁長官)。
 公調委の下した裁定の内容は、ワカメ養殖の収穫減少については「被告が平成3年12月から実施している出し平ダムの排砂がワカメの生育環境を悪化させたことによるものと認められる」とする一方、刺し網漁業の漁獲量の変動については「排砂の影響によるものとは認められない」というものであった。
 なお、裁定の内容については、判例時報(1972号45頁から80頁)等に全文が掲載されているので、ご関心あればご参照いただきたい。

3  原因裁定に対する評価とその後の訴訟経過
 公調委の裁定の内容のうち、被告関電や「黒部川出し平ダム排砂評価委員会」が一貫して否定し続けてきた、①被告のダム排砂による浅海域の海底の泥質化、及び、②ワカメ収穫量の減少及び品質低下とダム排砂との因果関係 を認めた点は、おおいに評価できるところである。
 しかしながら、公調委は、「浅海域以外の海域」については、ダム排砂による泥質化が進行している可能性があることを認めながらも、泥質化した場所を特定するための証拠や底質の変化を積極的に認めるための証拠が必ずしも十分ではないとして、泥質化を認定するには至らなかった。また、ダム排砂と浅海域に生息する魚種(ヒラメ等)の漁業被害との因果関係についても、これら魚種が排砂後に出現する泥の堆積によって影響を受けている可能性を認め、泥の堆積のような環境変化が生じれば「悪影響となるであろうことは推測に難くない」とまで指摘しながら、高度の蓋然性を裏付ける資料に乏しいとして、影響を否定する結論を下した。いずれも疑問の残る判断である。
 原因裁定後、審理の場は再び富山地裁に戻っている。公調委の裁定は裁判所の判断を拘束するものではない。弁護団では、引き続き協力科学者らの助言を得ながら、専門委員報告や公調委裁定の判断や評価の誤りを指摘し、これを裏付ける資料や文献を提出するなどして、ダム排砂と漁業被害との因果関係の主張・立証を補充強化しているところである。
 3月には、因果関係と損害論を中心とした人証調べが予定されている。引き続き皆様のご支援をお願いしたい。 (弁護団:青島明生、東博幸、橋爪健一郎、菊賢一、足立政孝、坂本義夫、春山然浩、武島直子)
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