公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【3】 特別報告
道路公害反対運動の現状と課題
道路公害反対運動全国連絡会
事務局長  橋本良仁

1  行政の道路政策に一定の変化
 関係住民との合意形成を無視して一方的に進めてきた道路行政手続きのあり方に対し,国民の批判は厳しくなってきている。これに対して,国土交通省社会資本整備審議会道路分科会は,2002年8月,中間答申「今,転換のとき」を発表,2006年9月には「今後の道路政策の基本方向について(論点整理)」を公表した。
 これらの項目には,「車優先から人が満足する道路行政への転換」「国民とともに進める道路・沿道空間の再生」「既存ストックの徹底的活用」「高齢化社会への対応」「環境・景観の保全」「説明責任の向上,事業効果の明確な分析」など一定の評価できる内容が上げられている。
 しかし,「都市の交通体系整備,大都市圏の環状道路整備は最重点課題」や「土地収用制度の積極的活用」とした項目も掲げられており,これまで以上に大都市圏を中心に大規模道路建設を推進しようとしている。その一方で,一般国道や都道府県道に代表される生活道路の補修や整備は,滞り予算的にも圧縮され,その不均衡は際立っている。行政の道路政策に一定の変化が生じていることを確認しつつ,この変化をもたらした長期にわたる道路公害反対の全国の住民運動と国民の運動に確信を持つ必要がある。
2  裁判を視野に入れた住民運動
 行政は,住民との合意形成のもとに進める公共事業としてさかんにパブリック・インボルブメント(PI)をうたい文句にしている。しかし,その実態は行政の計画を押し付ける旧態依然とした行政手続きにほかならない。また説明責任向上の実行は,国交省内に徹底しておらず,全国各地で住民とのトラブルが起きている。最後の手段として住民団体は司法に頼らざるを得ないのが実情である。
 圏央道あきる野土地収用裁判は最高裁,圏央道高尾山天狗裁判の2つの行政訴訟は東京高裁と東京地裁で審理中である。圏央道工事差し止めの民事訴訟は2006年12月に結審し,今春には判決が出る予定である。東京の西東京3・2・6号線,下北沢補助54号線や広島国道2号線などは係争中であり,国分寺3・2・8号線や千葉県流山市の住宅地を貫通する都市軸道路などは裁判を視野に検討中である。今後,原告的格の拡大や行政処分の差し止めなど行政訴訟法の改正もあったことで,裁判に訴えるケースが増えるものと考えられる。
3  オリンピック口実の道路建設
 石原東京都知事の主導のもとに,オリンピック招致を口実に首都圏の3環状道路(中央環状線,東京外環道,圏央道)の早期整備と膨大な数の都市計画道路が区内と三多摩地域で計画されたり建設が進んだりしている。都内の渋滞緩和を目的とした,これらの道路建設は,まさに時代錯誤である。住民との合意を無視した国交省や東京都の強権的な行政手続きに対し,関係住民は裁判なども含めて闘っている。高尾山などの貴重な自然を破壊し,大気汚染をさらに深刻にする大型道路の建設は中止させなければならない。
4  「やま・かわ・うみ・そら」を結んで
 2006年11月,東京の新宿御苑に3000人の若者が集った。「やま・かわ・うみ・そら」を結ぶ天狗フェスティバルIN新宿御苑である。山は高尾山,川は川辺川,海は有明海,それぞれの自然を守り,また再生させる,空は東京に青空を取り戻す闘いであり,全国公害被害者総行動実行委員会に集う,ムダで有害な公共事業を止めさせ,東京大気汚染公害裁判の勝利させることをテーマにしたロックフェスティバルであった。第3回目の開催であったが,成功裏に終了することができた。2007年は6月に高尾山で開催する予定である。
 2006年12月25日,東京地裁八王子支部で高尾山天狗裁判の民事訴訟の最終弁論が行われた。「やま・かわ・うみ・そら」を代表するそれぞれの弁護団から,また公害弁連から,そして環境法律家連盟からの応援弁論が堂々と行われ,法廷にかけつけた傍聴者に大きな感動を与えた。ムダで有害な公共事業を中止させるために,さらに運動を進める。