公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【1】 基調報告
第2  公害裁判の前進と課題
3  基地騒音裁判の前進と課題
(1)  第3次厚木基地控訴審判決と新嘉手納訴訟のたたかい
 昨年7月13日の第3次厚木基地訴訟の東京高裁判決は,W値75以上の地域について受忍限度を超える騒音被害が発生していることを認め,さらに,国が極力主張している,いわゆる危険への接近論についても,原審横浜地裁判決同様,その適用を排除して,騒音被害地域に居住する住民に広く賠償を認めるものであった。
 受忍限度の限界をW値75とすることは,横田基地,厚木基地及び嘉手納基地の各騒音訴訟では,すでに確定判決があり,小松基地訴訟においても第3,4次訴訟(現在控訴審係属中)の1審判決で認められているものである。最近では唯一,2005年2月17日の新嘉手納基地爆音訴訟の地裁判決がW値85を受忍限度の上限とする,極めて特異というべき判断を示しているが,その後の新横田基地訴訟東京高裁判決(2005年11月30日)と上記第3次厚木基地訴訟東京高裁判決で,再びW値75が採用されたことにより,改めて新嘉手納地裁判決の判断の不合理性が浮き彫りにされた。
 しかし,新嘉手納爆音訴訟弁護団では,こうした流れに安閑とすることなく,約400世帯の聴取調査を経て約340通の陳述書を作成,提出した上,一審判決で請求を棄却されたW値85未満の原告約1700名から数十名単位の原告本人尋問を,現地で行うよう請求するなど,積極的な立証を試みている。しかもこうした弁護団の活動の多くは,大阪弁護団による献身的な努力によって支えられている。
(2)  危険への接近論排除の傾向
 第3次厚木基地訴訟東京高裁判決により,危険への接近論を排除する判決が高裁レベルで3件続いたことになる点は極めて重要である(1998年の旧嘉手納基地訴訟福岡高裁那覇支部判決,2005年の新横田基地訴訟東京高裁判決に次ぐ)。しかも,旧嘉手納及び第3次厚木の各判決はすでに確定し,新横田も上告審では争点にされていないため,東京高裁判決の判断が事実上確定しており,被害が継続的かつ広範に及ぶ基地騒音裁判においては,危険への接近論の余地は極めて限定的であることが確立しつつあると言えよう。
(3)  小松基地第3,4次訴訟結審と判決への期待
 小松基地第3,4次訴訟は,昨年10月2日,名古屋高裁金沢支部で結審を迎えた。約2年間にわたる控訴審においては,基地騒音による身体的被害を,飛行差止を勝ち取るための最も重要な争点と位置づけて,その立証に特に重きが置かれてきた。本年4月16日に予定されている判決での成果が期待されている。
(4)  普天間基地をめぐる問題
 昨年の総会直前の2006年2月28日,最高裁第3小法廷は,対司令官訴訟の上告を棄却する決定をした。これにより,基地司令官の公務中の行為については司令官個人は民事責任を負わないとした福岡高裁那覇支部の判決が確定した。
 この決定は,結局,国民の人格権を脅かす違法な騒音発生を差し止める方法がないと最高裁自らが宣言したに等しく,人権の砦としての職責を放棄したものと言わざるを得ない。また,こうした法的救済を受けられない状態を放置することは,新横田訴訟江見判決に倣えば,政府のありようとして法治国家の名に悖ると言うべきであろう。沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の最終合意からすでに10年を経過してなお,普天間基地の返還はいまだ見通しの立たない状態が継続しており,被害の固定化さえ懸念されている状態である。
(5)  横田基地をめぐる問題
 新横田基地訴訟は,上告審において,将来請求と差止請求の問題が争われているが,他方で,高裁結審から2年余りを経過し,救済の空白を作らないためにも,新々訴訟に向けた体勢作りが重要な課題となっている。米軍再編に伴う横田基地の機能強化,軍民共用化問題等対応しなければならない問題は山積している。
(6)  主権免除に関する裁判の動き
 在日米軍基地による騒音被害をめぐる訴訟で,どうしても克服しなければならないのが,外国政府の主権免除問題である。新横田基地訴訟で提起された対米訴訟で,最高裁は,従来の絶対免除主義の合理性に疑問を示しつつも,米軍の活動は米政府の主権的行為であることは明らかであるとして,結論先取り的な判断を示したのに対し,昨年7月21日,奇しくも同じ第二小法廷で,外国政府に対する民事裁判権の適用を認める判決が出された。騒音被害による慰謝料請求事件と貸金事件という事案の違いこそあれ,国内での私人間におけるのと何ら異ならない民事紛争について,我が国の裁判所が裁判管轄を持つことが正面から認められたことは,大きな前進であり,大いに活用し,在日米軍基地による被害の救済にも発展させていくことが,我々の課題である。
(7)  基地騒音訴訟の歴史は,すでに30年以上に及び,救済水準の確立まであと一歩というところまで到達している。しかし,今なお騒音被害は止まず,むしろ在日米軍再編や自衛隊再編に伴い,被害の拡大さえ現実的になりつつあって,全面解決にはいまだ道半ばと言わざるを得ない。各弁護団の一層の団結,叡智の結集が求められる。