【2】 各地裁判のたたかいの報告(道路建設差止)
〔2〕 圏央道あきる野土地収用事件の報告
高裁の不当判決と最高裁での取り組み
弁護士 吉田健一
1 一審判決を覆した高裁判決
東京高等裁判所民事24部(大喜多啓光裁判長)は,2006年2月23日,行政側の控訴を容認し,あきる野市牛沼地域の圏央道(首都圏中央連絡自動車道)建設に関する国土交通大臣の事業認定及び東京都収用委員会の収用裁決の取り消しを否定する判決を言い渡した。
一審の東京地裁判決(04年4月22日)は,公害を発生させる道路建設を否定し,公共事業の必要性を厳しくチェックして,土地収用手続きの違法性を明らかにした。そして,事業認定及び収用裁決をいずれも取り消したのである。高裁判決は,国側の主張を鵜呑みにして,一審判決を全面的に覆すものである。
2 高裁判決の不当な判断
第1に,高裁判決は,公共性を不当に容認した。
圏央道の建設によって,都心部の交通混雑や圏央道周辺の国道16号及び国道411号等の地域道路の交通混雑が緩和されるなど,公共の利益が図られるとした。しかも,日の出インターチェンジ(IC)とあきる野ICとは,わずか約1.9kmの距離しかないにもかかわらず,公共性,必要性は否定できないとした。巨額の費用を投じて,きわめて短い距離に二つもIC設置することをも容認したのである。
第2に,圏央道により発生が予想される公害の危険性を高裁判決は否定した。
騒音に関して,高所(1.2mの地点より高い地点)については,国側のアセスメントですら,環境基準を超過する騒音の発生を予測しているにもかかわらずそれを評価に取り入れていない,前提となる車両の走行速度を,自動車専用道路の実態を無視し,法定最高速度である80km/hと設定しているなどの国側のアセスメントの誤りに目をつぶった。そして,圏央道が供用を開始されれば重大な騒音被害が発生することが予測されることを無視し,騒音が環境に及ぼす影響は少ないと断じた。
大気汚染に関しては,一酸化炭素(CO),二酸化窒素(NO
2)及び二酸化硫黄(SO
2)のいずれについても,環境基準を下回り,環境に及ぼす影響は少ないと評価できるとした。浮遊粒子状物質(SPM)の予測を行わなかったことは合理性を欠くということはできないとして,これを正当化するなど,誤った環境アセスメントを鵜呑みにした。圏央道が供用されれば重大な大気汚染が発生することが予測されることを無視したのである。
このような高裁判決は,無駄な公共事業や道路公害の激化に対する国民の批判を無視し,公害反対や環境保護を求めている全国の住民の運動にも敵対するものと言わざるを得ない。
3 最高裁でのたたかい
住民らは,この不当な高裁判決に対し,上告・上告受理申立を行い,最高裁でのたたかいが開始された(本件は第二小法廷に係属した)。
最高裁に対する上告理由は,なんと言っても本件土地収用や圏央道建設によって憲法上の権利が侵害されることである。まず,土地収用の違法性について,憲法上の根拠となる29条に関して,「公共のために用いる」といえるのか提起するとともに,奪われるのが単なる財産権でなく先祖代々住み続けてきた土地であるだけに,「居住の自由」(22条)が侵害されることを強調した。さらに,圏央道によってもたらされる大気汚染や騒音被害が無視されたことに関して,人格権や環境権の侵害(13条・25条違反)を,収用手続の不備については適正手続の保障(31条)に違反することを指摘するなどして,争っている。
上告受理理由に関しては,土地収用法の要件である「適正かつ合理的な土地利用」とはいえないことを主張している。その内容は,(1)公害の発生させる事業への土地収用であること,(2)適切なアセスメントが行われていないこと,(3)圏央道事業そのものにもわずか約1.9kmの間に設置する2つのICなど公共性も存在しないこと,(4)具体的な代替案の検討も何らされずに事業計画が作られ実施されてきたことなどである。
その後,代替案の検討の必要性を指摘した目黒公園事業認可処分取消請求事件について出された最高裁判決(06年9月4日),あきる野インター開設後の自主測定で明らかとなった圏央道や周辺道路による環境基準を上回る騒音状況なども追加し,06年12月,弁護団は最高裁に補充書面を提出した。
4 課題
06年11月2日には,小田急線連続立体交差事業認可等取消訴訟において,最高裁が住民側を敗訴させるなど,裁判所の動向には厳しいものがある。
しかし,圏央道の建設については,本件のあきる野土地収用事件とともに,高尾山関係の訴訟も活発に取り組まれている。それらの取り組みを通じて,圏央道建設に問題があることはますます明らかとなっている。裁判所がそれを直視し,公共事業を厳しくチェックすること,とりわけ公害を発生させ環境を破壊する道路建設をストップさせる役割を果たすかどうかが問われている。そのためにも,大気汚染や道路公害に反対するたたかいと連帯して,いっそう運動を広げることが求められている。