公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【2】 各地裁判のたたかいの報告(大気汚染)
〔5〕 東京大気汚染公害裁判報告
東京大気汚染公害裁判弁護団

第1  裁判の状況
1  第1次控訴審(東京高裁第8民事部)
 2006年は,1/26,2/16,3/23に原告本人尋問を行い,9月28日に,最終弁論を行って審理を終結した。最終弁論では尼崎,川崎,西淀川,薬害ヤコブなどの弁護団,豊田誠弁護士に格調高く,かつ感動的な応援弁論をいただいた。
 結審に際して,裁判所は大要以下のような解決勧告を行った。

 本件は第1審提訴以来既に相当期間が経過し,訴訟の当事者の数も多く,亡 くなられた方も多い,裁判記録が10万頁にのぼることに示されているように,事案の内容がきわめて複雑であり,事実認定,因果関係,など争点が多岐に渡る。おそらく,判決のみでは解決できない種々の問題を含んでいる。裁判所としては,出来る限り早く,抜本的,最終的な解決を図りたい。
 解決が出来るとすればそれに過ぎたるものはない。関係者が英知を集めて,この趣旨を理解してご協力していただきたい。

 これは裁判所が,原告の思いと公害被害実態の重みをしっかりと受け止めて,被害救済と訴訟の全面解決を当事者に要請した極めて意義のある勧告であり,マスコミにも大きく取り上げられた。
 これを受けて,現在まで全面解決をめざした交渉が続けられている。
2  第2〜6次訴訟(東京地裁民事第6部)
 2005年7月以降,2〜5次原告の本人尋問が続けられ,2006年12月に完了した。本人尋問を実施した原告は認定患者61名,未認定患者48名であった。昨年末には総論に関する最終準備書面を双方提出し,今後個別の症例検討が行われ,順調にいけば今年の秋に結審時期を迎えることになろう。
 昨年2月16日には,40名の原告(認定15名,未認定25名)が第6次提訴を行った。これにより提訴原告数は633名,うち未認定患者原告は258名となった。本年2月20日には第1回口頭弁論が行われた。
第2  全面解決方針と解決勧告をめざす運動
1  全面解決方針
 2006年3月,私たちは,「地裁での全面勝利判決を勝ち取り,それをテコに全面解決をめざす」との従来の基本戦略を修正して,あえて地裁判決を待つことなく,直ちに全面解決を実現するためのたたかいに取り組むことを確認した。
 これは,それまでのトヨタに対する運動の前進や,トヨタをめぐる情勢の変化から,トヨタが早期解決を望んでいる確かな兆しが見られたこと,救済制度をめぐっても,川崎での前進,東京都財政の好転などここで頑張れば,東京でも医療費救済制度の実現が不可能ではない情勢が生まれてきていることなどから,全面解決に向けた可能性も開けてきているとの判断によるものである。
 そこで私たちは全面解決要求として,(1)謝罪,(2)損害賠償金(解決金)の支払い,(3)東京都の医療費救済制度,(4)公害防止対策,(5)継続的協議機関の設置,の5点を改めて確認した。そして100万署名の一層の強化,対東京都とメーカーへの行動の強化,全面解決をめざした宣伝の強化などとともに,結審間近い高裁に全面解決を被告に勧告させるための要請行動,団体署名などに取り組んだ。
2  解決勧告と東京都の対応
 高裁はこのような我々の期待に応え,前述のような解決勧告を行った。
 そして東京都の石原都知事は,この解決勧告と前後して,社会的責任を認識し,メーカーが参加した被害救済のための制度を検討していくことを言明した。
 これは全面解決方針に基づいて,東京都とトヨタを中心に運動と交渉を繰り返したことの大きな成果であった。
第3  東京都の医療費救済制度をめぐるたたかい
1  都が救済制度を提案
 高裁の解決勧告を受けて,原告団としては,まず東京都に対して全ての患者に対して差別することなく,完全な医療費の補償を実現すべきとして交渉や都庁前での行動に取り組んだ。
 11月28日,東京都は都内に居住する全年齢,全地域の気管支喘息患者について,自己負担分を全額補償する救済制度案を裁判所に提出した。これは慢性気管支炎,肺気腫を対象疾病からはずしている点で不十分なものではあったが,当初の「沿道限定・一部助成に」との動きを乗り越え,全額補償を引き出した点で,長年にわたる原告団,患者会のたたかい大きな成果であった。
2  被告らの対応
 東京都案は救済財源を年間40億円と見積もり,東京都と国が各3分の1,首都高速道路と被告メーカーらが各6分の1を負担するというものであった。これに対して国と旧公団は12月初め,いち早くこの財源負担を拒絶し,世論の批判を浴びた。
 被告メーカーの中では,当初日産が極めて後ろ向きの姿勢を示したので,原告団は,2度にわたる本社前の座り込み抗議行動,ディーラー要請などを行い,12月上旬には姿勢を改めさせることができた。
 また年末近くになり,三菱とマツダが交渉の席上,「都の案は受諾困難」と述べたため,年始早々からこの2者に対する抗議行動,ディーラー要請などに取り組んだ。
 結局1月12日までに,被告メーカーらは足並みをそろえて,基本的に東京都の提案を受け入れる旨,高裁に回答した。この回答は財源負担を最初の見直し期間である5年間のみに限定しようとしている点など,問題を残しながらも,医療費救済制度の確立に向けて大きく踏み出すものである。
第4  全面解決に向けて最後の決戦
1  焦点は謝罪と賠償金へ
 医療費救済制度については,以上述べてきたとおり,この間の原告団を中心とした必死の運動によりその実現に向けて大きく前進させてきた。当面制度を確実に実現していくたたかいとともに,いよいよ被告メーカーらに公害発生の責任を認めさせ,謝罪と損害賠償を勝ち取るたたかいが,全面解決に向けて最大の課題となってきた。
 被告メーカーらは,1月上旬の段階でこれらの要求には応じられないと裁判所に回答している。しかしこれまでの審理で被告メーカーらの責任は明確に立証されてきており,賠償金抜きの解決などはあり得ないことである。
 この点については本年3月までに集中的にたたかい抜いて,何としても勝ち取って全面解決を実現すべく全力を尽くす決意である。
2  被告トヨタに決断を迫るたたかい
 賠償金の課題については,トヨタにどう決断させるかが焦点となる。
 我々はまず1月23日,メーカー集中一日行動を200名規模で成功させ,続いて2月12日のトヨタ総行動を例年以上の規模で取り組み,3月16日には「全面解決を迫るあおぞら総行動」に1000名以上の規模で一日行動として取り組む。これは4年前の1次判決行動の1300人に迫る規模で成功させたい。
 またトヨタ・ディーラーの各店舗に対する要請行動や,マスコミ,インターネットを使った宣伝などにも取り組み,トヨタに全面解決を迫ってゆきたい。
3  被告国とのたたかい
 国は現在まで,東京都の制度提案も拒絶したばかりか,患者救済のための制度創設の努力を一切せず,高裁の解決勧告に対しても全く消極的な対応に終始している。しかしこれまでの原告側との協議の中では,公害対策では何らかの対応をせざるを得ないとの姿勢も見え始めている。
 公害対策については,とりわけ地域からの要求作りを急ピッチで進めてゆき,国とも全面的な解決をめざしてゆきたい。


 議案書出稿(1/16)後,全面解決に向けて,情勢は大きく動いている。現在(2/16)までの状況を簡潔に追記しておく。
1  トヨタの決断を迫るたたかい
 1月23日の一日行動は,230名の参加で大いに盛り上がった。その後原告団は急遽,2月1日,2日,5日,6日と土日を挟んで4日間,11時から16時まで決死のトヨタ前連日座り込みを行った。4日間で計202名の原告が座り込み,弁護団(延べ41名),支援を含めて400名以上が参加した。
 2月13日のトヨタ総行動には,過去最高の102名が東京から参加し,トヨタの決断を迫った。
 原告団は2月19日から連日,トヨタの社長宛の手紙を持って要請行動を行い,さらには3月1日から,第2波の連日座り込みを行う決意である。
2  国との和解協議
 2月2日,環境大臣,国土交通大臣はそろって,原告の声を聞いて,和解成立のために何ができるか,最大限検討してゆきたいとの発言をした。国はこれ以上,解決に後ろ向きな姿勢をとり続けることはできないと考えたものであろう。
 これを受けて2月14日に,初めての原告団,弁護団と国との和解協議が行われたが,国は「従来の解決枠組み」(賠償請求は放棄,発病の因果関係は認めないなど)に固執し,これまでの深刻な公害発生の責任を明確にしようとしていない。更に国に対する運動を強めていく必要があろう。