公害弁連第36回総会議案書
2007.3.21  東京
【3】 特別報告
環境大臣賞を受賞しました
財団法人 公害地域再生センター

1  はじめに
 あおぞら財団の活動も10年目をむかえ,4本柱の活動(公害のないまちづくり・公害の経験を伝える・自然や環境について学ぶ・公害患者の生きがいづくり)もさまざまな成果をあげつつあります。その中で最近の話題として「平成18年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」,いわゆる環境大臣賞をいただくという光栄なこととなりました。
2  公害のないまちづくり
 2003年度から地元の運動事業者と連携し,スタートさせたエコドライブ(環境にやさしい運転)事業は,(社)大阪府トラック協会河北支部・矢崎総業(株)・あおぞら財団と行政,大阪大学などが参加し,河北地域エコドライブ推進研究会を立ち上げました。2005年度にはNEDOの補助事業を受け,39事業所315台のトラックによるエコドライブ社会実験を行いました。その結果,92%のトラックの燃費が向上し,8トントラックで平均燃費が12%向上し,1台当たり年間2,064リットル,216,720円が削減できたことがわかりました(2006年2月現在)。この取り組みが認められ同研究会が「平成18年度地球温暖化防止活動環境大臣表彰」をいただくことになったのです。産官民が協力できる「三方良し」の事業に育ちつつあり,今後も継続していきたいと考えています。
 また,ボランティアである運営委員によって企画運営される市民参加型の講座「道路環境市民塾」を開催して4年目となりました。今年は「大阪お花見サイクルツアー」に始まり「カーフリーデー」「道路特定財源」「物流の現場をたどるツアー」「クルマをめぐるメディア論」「クルマがなければ何に乗る?(公共交通と自転車について考えるシンポジウム)」といった多彩なメニューで実施しました。難しい道路・交通問題ですが,生活者の視点で考える糸口をみつけ,道路をめぐる問題の理解を深めていく手法が定着しつつあります。
3  公害の経験を伝える
 2006年3月に「西淀川・公害と環境資料館」(愛称:エコミューズ)をオープンさせました。オープン時は取材が相次ぎ,新聞各紙・テレビなどに多く取り上げられました。その報道記事をみて来館される方がちらほらいたり,大阪市近代美術館のアジアのグラフィックデザイン展の企画としてポスターを作りませんかと依頼されるという幸運も舞い込みました。ポスターは香港・プサン・日本の若手グラフィックデザイナーによる斬新なデザインとなっています。デザイナーと触れ合うことなど日常ではあまりない経験でしたが,伝えるということは,伝える側が整理していないと相手には伝わらないことを考えさせられました。資料館を開館したことで訪問することの敷居が低くなったようで,来館者は400名をこえました。
 また,公害資料を電子化し,インターネットで閲覧できるようにする事業にも取り組んでいます。昭和30年〜40年代頃の大阪の空気は「煙で3メートル前が見えなかった」「空が晴れていても曇っているみたいだった」といわれています。当時の大気に疑問を持った大阪管区気象台の職員がポケットマネーで撮影した航空写真は当時の空気の状態を伝える大切な資料です。その写真資料は原告弁護団が苦労して探し出し,工場の煙が西淀川に到達していることを証明する証拠となりました。その写真が電子化されてインターネットで閲覧できるようになります。
 また,証人調書や準備書面など,西淀川公害の論点がわかる資料も電子化します。証人調書は,裁判の原告と被告双方の緊迫した息遣いが聞こえてきそうな資料です。準備書面は弁護団が裁判の論点を整理した大論文です。西淀川公害の実態を広く知ってもらえる土壌が整いつつあります。
4  自然や環境について学ぶ
 2003年から大阪府立西淀川高等学校と連携し,環境学習のお手伝いをしてきました。本年度も,公害患者さんのお話を聞く会や,西淀川の伝統野菜だったまくわ瓜の復活,二酸化チッソカプセル簡易測定など,実践を交えながら西淀川公害を学ぶ手助けをしてきました。本年度は,新しい取り組みとして,生徒会のメンバーと一緒に「自転車マップ」を作製し,読売新聞に大きく取り上げられました。暑い夏休み中に西淀川区内を自転車で走りまわり,地区の面白いところや自転車の走りづらいところ,お勧めスポットなどを高校生の視点から調べていきました。時には,飛び入りで工場見学となったり,おいしいケーキを食べたり,光化学スモッグに悩まされたり,美しい夕日に向かって堤防をサイクリングなどドラマ満載な楽しい企画でした。現在はたたみ2畳分の巨大パネルにまとめられていますが,将来は手元版にして,配布できればと考えています。
 また,フードマイレージ(輸送にかかる環境負荷)という考え方を,交通環境を学ぶプログラムに発展させ,フードマイレージがわかるバーチャル買い物ゲームを開発しました。環境教育だけでなく,開発教育や国際理解教育に携わる人たちからもアプローチがあり,このプログラムは広がるのではないか?といううれしい手ごたえを感じています。2007年3月末にはホームページが完成する予定です。
5  公害患者の生きがいづくり
 公害認定患者は年々高齢化が進んでいます。これまでは,患者さんの生活実態を調査してきましたが,今年度からは,公害病とともに,糖尿病などの合併症を抱えた患者さんの,毎日の生活動作や活動の負担を軽減し,生活機能を維持・向上するには,実際にどのようにすれば効果的かを考える,リハビリテーションプログラムの検討がスタートしました。
 具体的には2つのパイロット事業を実施しています。一つは,病気や薬に関する理解を深め,禁煙指導や食事療法,運動療法を生活の中で実践することにより,急性増悪を予防するために必要な情報を,医師や看護師等と情報共有し,病気の自己管理を包括的に行う呼吸ケアプログラムを倉敷市の水島協同病院で,もう一つは,在宅治療を続けながら,家事や歩行など,日常生活の中でできることを増やして,生活機能を維持するためのリハビリテーションプログラムを西淀川区内ではじめています。
 また,西淀川では,デイサービスセンター「あおぞら苑」が9月に完成し,10月にオープンしました。これからも,「あおぞら苑」が高齢の公害患者さんが利用しやすく,生活ケアを実践する場になるよう,あおぞら財団も協力していきます。
6  おわりに
 バラエティにとんだ活動内容で,ここに書ききれないことがまだまだたくさんあります。最後に一つだけ,うれしいことを書きたいと思います。最近の傾向として,地元の人との距離が近づいてきました。毎月第1金曜日をボランティアの日と定めてから,ボランティアがたえず来てくれたり,てづくりせっけん教室やにしよどがわ子どもエコクラブのイベント(シジミとり,はがき作り,二酸化チッソ測定)を通じて,顔の見える付き合いが広がりつつあります。また,西淀川図書館から展示やイベントの協力の依頼を受けたり,地域の郷土史家の方が立ち寄ってくださったり,「近くにきたから,顔を見に来たよ」という信頼関係が築かれているのを実感します。
 公害地域の再生はどうすればできるのかの答え探しはまだまだ続いていきます。ゆっくりとした亀のような歩みですが,地に足をつけていきたいと思っています。今後とも,皆様のご指導,ご鞭撻のほど,どうぞよろしくお願いいたします。
(林 美帆)