【2】 各地裁判のたたかいの報告(大気汚染)
〔2〕 西淀川大気汚染公害訴訟報告
西淀川大気汚染公害訴訟弁護団
1 はじめに
西淀川公害訴訟は,1995年3月に関西電力などの被告企業と,1998年7月に国・旧阪神高速道路公団とそれぞれ和解が成立し,20年に及ぶ裁判闘争は終了した。その後,原告らの「手渡したいのは青い空」の思いを受けて,解決金からの資金拠出で財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)を設立し,今年で10年目を迎えた。
和解解決後は,弁護団と原告団は,あおぞら財団と協力しながら,「道路連絡会」を中心とする国道43号線をはじめとする道路公害の根絶に向けた取り組みを進めている。
大阪の大気汚染は,NOx/PM法による単体規制の強化と経済不況による交通量の伸び悩みによって,ここ数年はNO
2もSPMも改善傾向を示し,西淀川区においても2005年度は自動車排ガス局である出来島小測定局で,初めてNO
2の環境基準の上限値をクリアするなどの状況が出てきている。このことは,長年の公害患者らの運動が結実した重要な成果である。しかしながら,NO
2に関しては今なお環境基準の上限値すれすれの汚染状況が続いていることに変わりなく,決して安心して生活できるレベルまで改善されたわけではないし,ぜんそくなどの元凶であるPM2・5に関しては,和解条項の履行として区内2カ所で測定が行われているが,その測定値を見れば,アメリカやWHOなどの環境基準を大幅に上回る汚染が進行している。また,学校保健統計では,大阪は小学校でも中学校でも全国平均の2倍以上のぜんそく発症率が続いており,その一因が自動車排ガスを起源とする大気汚染であることに変わりない。引き続き,公害根絶に向けた闘いが求められている。
2 第10回道路連絡会について
第10回道路連絡会は,2006年6月23日午後1時30分〜午後3時30分の日程で,区内の「エルモ西淀川」で公開で行われた。
連絡会は,はじめに,公害被害者2名が今なお続く公害被害の苦しみについて訴えを行い,その後協議を行った。
西淀川区内でのこの一年間の取り組みとしては,国側は,ハード面では出来島地区への光触媒の塗布,ソフト面ではモビリティマネジメントの取り組みをはじめている旨回答したが,環境基準を巡っては厳しいやり取りが行われた。すなわち,国は,二酸化窒素の環境基準が「0.04ppm〜0.06ppmのゾーン内」とされているにもかかわらず,その上限値である「0.06ppm以下」だけが環境基準であるか如く主張したため,原告・弁護団との厳しいやり取りが行われ,最終的には国も認識を訂正して謝罪し,引き続き対策に努めることを確認した。対策において最も重要な大型車対策については,国道43号線などの大型車問題の対策を「関係機関と協議,意見交換」を行うことを確認した。また,懸案の国道2号線の歌島橋交差点の改良に関連する緑化問題については,国側から,歌島橋交差点にかつてあった樹木は移植されており(フェニックスは鶴見緑地,クスノキは清滝地区)再び戻すことを前提に,配置計画を進めていることが報告され確認され,地下埋施設等の工事の関係で,移植は2007年11月から2008年3月に検討予定との回答がなされた。さらに,交差点改良とりわけ横断歩道の撤去に関しての住民からの意見についても意見交換が行われた。
そして,原告・弁護団側からの提案で,秋に現地合同見学会を開催することで合意された。
道路連絡会は,10回目を迎えたが,引き続き国側は交通量とりわけ大型車の交通量を削減するには消極的であり,そのことが区内の大気環境を大きく改善する上で最大のネックとなっている。まさに,国の国民の命や健康を守る基本姿勢が問われていると言わねばならない。引き続き粘り強い取り組みを行っていきたい。
3 現地見学会の開催
現地見学会は,昨年11月16日午後に開催された。国道43号線沿道や歌島橋交差点,区内のNO2簡易測定で高い値が出てきている西淀川高校周辺などを,原告・弁護団と国側で見て回りながら今後の沿道対策に関して意見交換を行った。国道43号線沿道は,大量の大型車の通行と少ない緑のために,今なお緊急対策を行う必要性があることが確認された。また,国道43号線沿道に国土交通省が設置している観測局の空気取り入れ口の位置の改良問題に関しても意見交換が行われた。
4 今後の課題
ねばり強い交渉で,国道43号線や淀川通りの大型車規制を行わせることが引き続き最重要な課題である。尼崎におけるアンケート調査や社会実験の結果,さらに今後の対策の推移とも関連させながら,西淀川区内の大型車対策を強力に迫っていくことが必要である。