【1】 基調報告
第2 公害裁判の前進と課題
2 道路公害裁判の前進と課題
(1) 道路公害裁判について
道路公害裁判では,圏央道建設に伴うトンネル・ジャンクション・インターチェンジ工事から高尾山の貴重な自然と国史跡八王子城跡を守ろうと工事差止請求訴訟が取り組まれている。第1審(東京地方裁判所八王子支部)は2006年12月25日に結審し,今春判決の見通しとなっている。また,裏高尾地域での事業認定取消訴訟は2005年5月の国の主張のみを一方的に取り入れた不当判決を受けて住民らが控訴し,控訴審が行われている。さらに,起業者が高尾山トンネル工事等のための事業認定を申請したことから,この差止を求める訴訟が2005年11月に提起され,その後の2006年4月の事業認定を受けて,同年5月に事業認定取消訴訟が提起され,追加的併合された。
同じく圏央道をめぐっては,あきる野市牛沼地区の事業認定取消訴訟が取り組まれている。同訴訟をめぐっては,2004年4月に東京地方裁判所が国土交通大臣の事業認定及び東京都収用委員会の収用裁決をいずれも取り消すとの画期的判決を言い渡したが,国側が控訴した結果,控訴審では住民らが逆転敗訴した(2006年2月)。住民らは上告し,最高裁で係争中である。
広島国道2号線をめぐって高架バイパス道路建設差し止め訴訟が提起されている。
2000年8月には広島地裁に高架道路延伸工事差し止めの仮処分を申請したが,2002年2月に却下され,2003年8月に原告150名で本訴訟が提起された。
高架道路は,2003年10月に新観音橋まで開通したが,2007年度まで第2期工事部分の着工を凍結するという状況になっている。
名古屋では,環状2号線及び高速3号線建設反対運動が進められている。
3902名が国土交通大臣と日本道路公団(当時)を相手に公害調停を申立。2004年9月には,環境予測に大きな変動がない限り,供用開始時において環境基準を遵守することを骨格とした調停委員会の調停案が出された。
大阪の第2京阪道路をめぐっては,門真市と寝屋川市の約6000名による大規模な公害調停が行われ,新たなアセスメントの再実施とそれに基づく公害対策を求めている。
東京では西東京市計画道路3・4・6号調布保谷線がまちを分断・破壊し,公害道路になる虞があるとして,西東京区間の建設工事差止民事訴訟(04年10月提訴)が提訴されている。
(2) 道路行政の転換を
今日,国民の公共事業に対する見方も厳しくなっており,川辺川ダム建設計画をめぐっては,国土交通省が強制収用裁決申請を取り下げ,大型公共事業が白紙に戻る事態が起こっている。
道路事業に関しても,日本道路公団(当時。現高速道路株式会社)の巨額な赤字実態が明るみに出て,国土交通省などが主張する道路建設の必要性に関する口実の欺瞞性が明らかになった。道路建設は巨額な赤字を生み出し,このまま計画通り道路を建設し続けたら,巨額な負債を将来の世代に負わせる事になるばかりか国家財政が破綻するという実態が明らかになり,国民世論は道路建設計画の見直しを求めている。このような中で国土交通省社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会は「今後の道路政策の基本的方向について(論点整理)」(2006年6月1日)の中で「既存ストックの徹底的な利活用」や「国民とともに進める道路・沿道空間の再生」などを打ち出しているが,現実には,高速道路を始めとした大規模な幹線道路の建設が依然として各地で進められ,深刻な公害と自然環境破壊の脅威を作り出している。
無用な道路建設に反対し,道路行政の転換を実現することが,公害の発生を未然に防ぎ,自然環境を保護するためにも,また,日本の深刻な財政危機状況を打破するためにも,喫緊の課題となっている。 いま,世界的に,20世紀が「開発の世紀」,「環境破壊の世紀」であったことに対する反省として,「21世紀は環境の世紀」といわれる。そのもとで,車依存社会からの転換がはかられている。
欧米のみならず,アジアにおいても,隣国の韓国の首都ソウル市では,高架道路を撤去する「清渓川復元再生事業」が実行された。これは豊かな都市河川であった清渓川が埋め立てられてしまったことに対する反省を踏まえ,その上に建設されていた高架自動車道路を撤去して川を復元し,ソウルの都市環境の再生を図ったものである。
今日の日本の道路行政は,まさに20世紀型の大型公共事業であり,世界の流れを見据えた抜本的転換が求められている。