公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
あおぞら財団・設立10年目を迎えた取り組み
財団法人 公害地域再生センター


1 はじめに
 1995年に設立されたあおぞら財団(財団法人 公害地域再生センター)では、設立の基となった大阪・西淀川大気汚染公害裁判・企業和解から10年を迎えたことを機に、その成果を確認するとともに、今後の財団の進むべき方向性を広く地域や市民に打ち出す記念事業を開催しました。
 10月10日に開催された「10周年記念のつどい(エルモ西淀川にて開催)」では、地元の住民をはじめ、各地の公害患者会や弁護士など約400人が参加し、全国公害弁護団連絡会議代表委員の豊田誠弁護士による「記念講演:西淀川公害裁判の歴史的な意義」、財団理事のアグネス・チャンによる「メッセージトーク:子どもたちに青空を」などを行いました。
 続いて、12月に開催された記念懇談会では、理事・評議員をはじめ財団の取り組みに関わっていただいている方々に参加いただき、財団が目指すべき方向についてワークショップ形式で議論しました。
 様々な反省点とアイデアが出される中、単なる研究・提言団体ではなく、環境と地域の再生、すなわち、現代社会を人と環境にやさしい社会と地域に変えていくために、住民や市民とともに研究し、行動するNPOであるということを確認しました。 ここでは、こうした理念の実践として、この1年間に取り組んだ主な活動を紹介します。

2 公害のない住みよい地域づくり
(1) エコドライブの普及
 2003年度から始まった、地元企業(運送業者)との連携によるエコドライブ(環境にやさしい運転)普及事業は、昨年までの社会実験(燃費が約10%向上)の成果をもとに、(社)大阪府トラック協会、矢崎総業(株)と3者共同でNEDOのモデル事業に申請し、採用されました。これにより、39事業所の参加を得て、エコドライブ支援機器を315台の車両に搭載し、エコドライブ推進による地域環境の改善を進めています。
 また、この成果をもとに、企業・大阪大学・関連自治体が参加する研究会を通じて、社会全体へのエコドライブの普及を目指しています。
(2) 道路環境市民塾の開催
 第3期を迎えた道路環境市民塾では、「自転車を活かしたまちづくり」をテーマに、「西淀チャリンコ祭in大野川緑陰道路」や「西淀自転車マップ」、「自転車マナー教室」などの実践的な活動を進めています。市民が交通問題や地域づくりを学ぶ講座として、ボランティアによる試行錯誤の運営の中、ゆるやかなネットワークづくりが進んでいます。

3 環境教育ビデオ「手渡したいのは青い空」作成
 今年度は環境教育ビデオ「手渡したいのは青い空〜未来からのメッセージ〜」を作成しました。ドラマ仕立ての放映時間25分で小学校の授業に使用できます。既に、地域内の小学校や高校でも授業に取り入れてもらいました。今後は活用のための方策を検討し普及に努めていきます。

4 提言活動・情報発信
(1) 西淀川からの発信「道路提言パート6」
 弁護士や都市・交通問題の専門家、NPOから構成された「西淀川道路環境対策検討会」は開催50回を超え、和解後10年を経た道路・交通問題を総括し、今後の道路・交通環境の方向性を全国及び西淀川地域へと発信していくため、地域住民の声を拾い上げながら、道路提言ver6の作成を進めています。
 併せて、種々のパブリックコメントへの提言、患者会による「西淀川地区道路沿道環境に関する連絡会」の取り組み支援を行っています。
(2) 子どもを対象とした講演会の開催
 ぜん息の子どもがこの10年で倍に増えていることから、ぜん息・アレルギーを抱える児童・生徒が家庭や集団での生活を快適に過ごすための治療や支援のあり方を考える講演会を開催しました。「発作を出さない」ための自己管理を目指した健康教育の必要性や、家庭、学校園、医療機関がどのように連携できるか等の事例について意見交換を行いました。
(3) 身近なことから環境問題を考えてもらいたい
 てづくり石けん教室や寄せ植え教室などを開催し、地域の人に参加してもらいながら身近な環境問題に目を向けてもらう取り組みを続けています。ホームページのリニューアルやブログ開始など、デジタル面での情報発信に力を入れはじめたところです。

5 2006年3月資料館オープン!
 あおぞら財団では設立後すぐに「西淀川地域資料室」を開設し、多くの人たちに支えられながら、西淀川大気汚染公害の住民運動資料や裁判記録を中心とする公害・環境問題資料の収集や整理をおこなってきました。これらの資料がより活かされるようにと、2006年3月に資料室あらため「資料館」を発足させることにしました。名称は「西淀川・公害と環境資料館」です。2005年度はその準備の年ということで、多彩な活動にチャレンジしてきました。
 地元の人や専門家・研究者からなる「資料館運営懇談会」の発足、春と夏にオープン・プレ企画の展示を開催、通信「資料館だより」の創刊、地元の銀行や図書館などでの巡回展示などです。また、論文作成の課題を抱える大学生などの資料利用頻度が増えてきており、スタッフがその対応に追われるといった嬉しい悲鳴(?)をあげています。
 さて、「資料館、資料館」と叫んでいるものの、場所が広くなるわけでも、設備が極端に充実するわけでもありません。スペースやスタッフの体制、財政的な面でまだまだ課題があります。
 そこは、全国各地で公害・環境問題資料の保存に取り組んでいる人たちや、関心を持っている人たちと連携し、この運動を盛り上げていくことで、課題をともに解決していければと願っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

6 公害患者の生きがいづくり
(1) リハビリテーションプログラムの検討
 公害患者は年々高齢化が進み、息切れやぜん息発作等の症状のために、外出や家事、屋内外での移動等、日常生活動作による負担が大きい状況にあります。そこで、病気を抱えながらも、毎日の身の回りの行為にかかる負担を軽減し、生活機能を維持・向上できるプログラムを検討するため、65歳以上の認定患者200名を対象としたアンケート調査を実施しました。調査結果は、新しいリハビリテーションプログラムの検討に生かされる予定です。
(2) 公害患者のためのデイサービス(通所介護)施設づくりに協力
 高齢の公害患者が、自宅に近い住みなれた地域で、必要な介護や支援を受けられるよう、介護保険制度で利用できるサービスに対する意見や要望を聞き、西淀川公害患者と家族の会によるデイサービス(通所介護)施設づくりに協力しています。

7 次の一手
 和解後10年が経過し、社会情勢や環境問題を巡る世間の意識も大きく変わりつつあります。
 「あおぞら財団って何やってるの?」と問われることがまだまだ多いのが現状ですが、少しずつ具体的な成果を積み上げ、関わっていただく方々の輪を広げることで、「あおぞら財団ってこんなことやってんねんで」と語っていただける人を増やしていきたいと思います。
 公害患者の皆さんが築いたあおぞら財団という「器」は、環境再生への意識を持つ人々が関わり、活用していく中で大きくなっていく「器」です。
記念懇談会のテーマは「あおぞら財団・次の一手」でした。財団に関わっていただける方々と、社会や地域を良い方向に変えていく「次の一手」を一つでも多く打っていきたいと思います。今後とも、皆様のご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。