公害弁連第35回総会議案書
2006.3.18  大阪
〔3〕 普天間基地爆音訴訟報告
普天間基地爆音訴訟弁護団


1 訴訟の経緯
 普天間基地爆音訴訟は、2002年10月29日、沖縄県宜野湾市の住民404名が原告となって米軍普天間飛行場の爆音差止めと損害賠償を求めた裁判である。普天間飛行場は、沖縄本島中部の宜野湾市のど真ん中にある面積480.6ヘクタールの米軍基地で米軍が1945年4月の占領と同時に住民地域を囲い込んで占領し拡張してつくったという特徴から、基地の周囲はすべて住宅地域である。本件訴訟は、爆音被害のひどさに加えて頻繁におこるヘリコプターの墜落事故の危険に日々怯えて生活することを強いられてきた住民の怒りをうけての提起であった。
 本件訴訟の特徴の一つは、普天間飛行場の基地司令官を被告とし、損害賠償を請求していることであった。提訴から3年あまりが経過し、現在裁判は、国に対する那覇地方裁判所沖縄支部での審理とともに基地司令官に対する訴訟は高裁判決に対して住民側が上告及び上告受理申立をしている状況である。

2 対基地司令官に対する訴訟
 対基地司令官に対する訴訟は、2005年9月22日福岡高等裁判所那覇支部が一審判決に続いて住民の請求を棄却する判決を下した。
 普天間爆音訴訟を提起するにあたり、住民の願いは今後の爆音発生を止めさせたいということであった。これまでの基地爆音訴訟における裁判所の判断は、概ね過去の損害賠償のみ認容し、将来の損害賠償も飛行差止も否定してきている。特に米軍基地については、国に対する差止飛行は、「第三者行為論」によって否定されるとともに、新横田爆音訴訟で提起された米国政府に対する飛行差止についても最高裁判決での主権免除理論により否定されてきた。これまでの爆音訴訟では、違法な爆音が継続していることが裁判所により認定され続けてもその被害を将来的に救済する途が閉ざされてきたのである。このため爆音発生源の当事者である米軍には何らの制裁も課されず、事実上野放しという状況であった。
 普天間爆音訴訟において米軍基地司令官を被告に加えようと考えたのは、爆音発生源の当事者を司法の場に立たせて将来の爆音の抑止につなげようという考えからであった。しかし、基地司令官に対する審理は訴訟提起後1年以上経過しても始まらなかった。それは、基地司令官の職場住所地(普天間基地内)を訴状送達場所としたところ、司令官は受領を拒絶し、送達官吏である郵便局員も執行官も基地ゲートで基地管理者から立入を拒否されて特別送達ができなかったからである。司令官の居住地住所は不明であったため、付郵便等の手段もとれない。弁護団は在沖米海兵隊法務部を訪ね、訴状の送達の受領を求めたりしたが、担当者は外交ルートでしか受領できないという態度であった。
 訴状の送達ができないまま、訴え提起から1年4ヶ月が経過したのち、裁判所は司令官の住所不明ということで公示送達をおこないやっと審理が開始した。しかしながら、司令官が出頭することはなく、2004年6月17日の第6回目の弁論期日で裁判所はいきなり弁論を分離して、何ら事実審理に入ることなく結審を宣告し、同年9月16日に原告らの請求を棄却する判決をなしたのである。
 弁護団は、福岡高等裁判所那覇支部に直ちに控訴した。訴訟では、実態審理に入れば司令官の基地管理行為の違法性は容易に認定されるはずであった。というのは、過去に嘉手納訴訟など司法での爆音の違法性判断は定着しており、そのようなことを受けて普天間基地においても夜間飛行制限について協定が締結されていることもあり、司令官には違法な爆音についての未必的な故意、または少なくとも重過失はあきらかだからである。
 しかしながら、実質的審理に入ることなく裁判所は一審も二審も形式的理論のみで請求を棄却した。すなわち、ファントム機墜落事故に関する横浜地裁判決と同様、米国人個人に対する日本の裁判権自体は肯定したが、民特法1条の解釈により、国家賠償法での公務員個人責任否定論をそのまま引用して、米国人の公務中の不法行為については個人責任は否定されると安易に結論を導いたのである。
 弁護団は、日米地位協定が米軍個人責任に対しては単に強制執行免脱の特権を付与しているにすぎないこと、民事特別法は地位協定のかような趣旨を前提として解釈されなければならないのは当然であり、日本の公務員に関する国賠法の解釈を機械的にあてはめることは誤りであると指摘したが裁判所はこのことにはまったくふれず、形式的判断のみに終止した。現在、弁護団は最高裁に上告および上告受理申立をしている。

3 国に対する訴訟
 国を相手とする訴訟は、現在、第13回口頭弁論を終え、双方の主張、反論が継続している。普天間基地爆音訴訟は、2005年2月17日に判決のあった新嘉手納基地爆音訴訟と同じ那覇地方裁判所沖縄支部での審理であることから、弁護団はひどく後退した嘉手納基地爆音訴訟判決に関与した裁判官では公正な裁判ができないとして、判決直後の2月24日の第9回口頭弁論において裁判官の忌避申立を行った。さらに同年9月に普天間弁護団独自に新嘉手納爆音訴訟判決に対する詳細な批判書面を提出した。
 今後、双方の主張を整理していくことになるが、弁護団は、普天間飛行場特有のものとして、ヘリコプターによる低周波騒音の被害を主張、立証し、住民の苦しみを訴え理解させるという課題を抱えている。一日でも早く住民が静かで穏やかな生活ができる日を獲得するため、裁判の勝利を目指していきたい。