2、課題を残しつつも、全国的にみて医療福祉予算が、大型公共事業等に係る税金のムダ遣いを棚に上げて大きく切り捨てられているなかで、自己負担付とはいえ、全市全年齢にぜん息患者の医療費救済をかちとった意義は大きい。
その第一の要因は、川崎公害裁判の国和解ののちも、私たちは患者会を中心にして、(1)被害者の救済、(2)公害の根絶 (3)環境再生とまちづくり、という三本柱の要求を掲げて、持続的、系統的に取り組みを進めてきたことに求められる。和解成立後、ともすれば現行の補償法認定患者の権利擁護の枠内で、「守りの取り組み」しか展開していない患者会組織があるなかで、川崎にあっては「守りだけでは、既存の権利も守りきれない」「攻めの取組みがあってこその患者会運動」を合い言葉に、補償法患者の権利の闘いに加えて、未救済患者の権利擁護の取組みを展開した。要求あっての方針確立であり、方針あっての具体的闘いということで、この意識的な追及がはかられた。
第二に、要求実現のための組織として、裁判闘争時の患者会(原告団)、弁護団、支援団体の団結した力を、川崎公害裁判支援共闘会議は裁判終結によってその目的を達成したが、しかし、即解散とはならず川崎公害根絶・市民連絡会議として発展的に改組し、川崎では、ひきつづき三者の団結が維持された。これが、「まちづくり基金」によって運営されている患者会事務所(公害センター)を基礎に力強く取り組みを展開し、それに加えて、川崎南部地域中心の活動スタイルを打開するため、全市をみすえた「ぜん息連」を結成して、闘いをより拡大して推進するところとなった。
中北部への被害の拡大に対応して、2005年2月には、北部の緑と自然環境を守り大型開発に反対する運動体の協力をえて、「川崎北部のぜん息患者と家族の会」の事務所開きと会の結成を行うところとなった。
第三に、三本の柱の要求を基礎に、PPPの原則(汚染者負担の原則)を念頭において、川崎の中北部地域の大気汚染の実態の解明と川崎公害裁判の判決に基づく公害道路・幹線道路の特定(国・県・市道・高速道路)とこれに対応するぜん息患者の南部地域に劣らぬ中北部地域での被害の多発の事実が把握され、全市、全年齢対象の医療費救済要求の正当性が確認された(学習会、NO2測定、市内各種宣伝、患者掘り起こしアンケート、団地作戦等)。
要求の正当性に支えられて、前述した各取り組みは、具体的な実践課題として追及され、それぞれの任務分担に基づき、その履行が行われ、ひとつひとつ、一歩一歩、その前進が図られていった。その基礎に正確な情勢分析とこの情勢に対応した具体的方針の確立があり、それが、ひとつひとつ着実に追及されるところとなった。すなわち、情勢分析の正しさとち密な方針の確立、その誠実な実践が、今日の成果をかちとった要因として明記される必要がある。
第4 他方、前述した課題を残した要因(原因)も正しく分析され、その克服を目指した闘いが組織される必要がある。その原因としては、
第一に、本制度を加害者不明の「総合アレルギー対策」の枠内に止め、それを超えて、被害者と加害者構造の下における公害問題とその解決のための公害対策として位置付けさせるところまでに、川崎市及び川崎市議会を立たせえなかった課題がある。
私たちの当初の方針は、医療・福祉の分野の切り捨て行政がつづくなかで、公害からのアプローチのみでは、なかなか川崎市、川崎市議会の議論の土俵にもち込めない状況の中で、その突破口として福祉の側面からの、公衆衛生の側面からの、そして、公害の側面からのアプローチが可能であるとして、私たちの要求の検討の開始を要求した。その結果、本制度作りはようやく検討課題にはいることとなった。そこで、その時期以降は、私たちはぜん息の疾病が、非特異性疾患という以上、原因は大気汚染以外の他要因も存在するが、しかし、川崎の全市域を通じて、非汚染地域に比較してはるかに高率のぜん息患者が発生している事実をみれば、ぜん息患者の発症、増悪の原因は、大気汚染以外に考えることはできず、従って、この制度の解決は、因果関係がはっきりした被害者と加害者構造の下での公害被害者の救済問題と位置付けるべきであると強調して、川崎市交渉、市議会対策をはじめとする諸取組みを実行した。
しかし、自己負担導入の課題を残した点に照らせば、まだまだこの点の追及が不十分であったことが明確となってくる。
医学的資料、科学的データに基づく学習・要請行動を強化して、この課題を克服する取組みが工夫される必要がある。
第二に、第一の問題と関連して市民意識、とりわけ中北部の市民意識として、ぜん息の主要な原因は、自動車排ガスによる大気汚染という認識、すなわち、私たちのいう正しい認識に到達しなかったことが原因にあげられ、そのことは、私たちの情報提供、宣伝不足に起因しているといわざるをえない。
その意味で、追加的資料の提供はもとより、ひとつにはNO2自主測定運動の展開により、自ら大気汚染の実態を測り、自らその汚染のひどさを感じとってもらう取組みが重要となっている。
その第一歩として、若干開店休業状態にあったNO2測定実行委員会を全市展開をにらんで再結成し、測定運動の発展をめざした取組みとするためその諸企画が用意されている(3月2日に結成準備会、4月22日に再結成総会、6月上旬に全市一斉NO2測定)。
この点について、3月以降の取り組みの強化と実践により課題の克服をはかってゆく必要がある。同時に2月に川崎市との間で共同、協力して行う予定の川崎市北部・堰交差点(多摩区)での簡易測定(3日間連続測定)を成功させ、それにつづいて、中北部地域に常設の自動車排ガス測定局を増設させ、常時測定をとらせる必要がある。
ぜん息患者の発生率調査は、医師会調査等公的なものであり、大気汚染測定も自治体自らの公的データとして集積させることは、前記課題の克服のためにも意義は大きい。
かくして、中北部に高率で発生している被害の実態とこれに対応する汚染実態の存在の把握は、被害者と加害者構造を明確にし、PPPの原則に基づく医療費救済の貫徹(自己負担分の撤廃)を求めるうえで重要な課題となっている。
第三に、今回の制度作りの要求闘争を中心的に担ったのは、被害者自身であったが、しかし、それは、「川崎公害患者と家族の会」であり、主要には川崎市南部の被害者、すなわち、すでに医療費救済をかちとっている補償法患者にほかならない。いわばその闘いは、すでに救済を受けている患者の、未救済患者のための「代理戦争」にほかならない。
要求実現、完全な制度作りにとって、正当性ある要求に基く、緊急で切実な訴えが必須という観点からいえば川崎市中北部の未救済患者の結集はきわめて弱く、ここに自己負担分導入の課題を残したもう一つの大きな原因が横たわっている。
1年前に結成した「川崎北部ぜん息患者と家族の会」に、被害救済問題の学習会、認定申請手続の支援活動等をふまえて、新制度による救済患者(予定者)を多数結集してゆくことが必要不可欠となっている。
その上で、この被害者の切実の声を川崎市、川崎市議会等々へ集中し、前記課題の克服を図ってゆく必要がある。
しかし、川崎市、川崎市議会との関係では、「川崎公害患者と家族の会」の存在が絶対的であり、この基礎組織の強化、発展を基本に、北部患者会の組織作りを急速に進め、その力に依拠して、三者の団結した取組みを展開してゆく必要がある。
第5 これにつづく闘いの方向性は、すでに別の機会を利用して再三強調したとおりであるので、簡略化して指摘する。
その第一は、川崎にひきつづき、東京、名古屋で、地方自治体レベルでの医療費救済をかちとり、これを関西その他全国の患者会規模に広げてゆくこと。
第二に、医療費救済を基礎に地方から「みやこに攻めのぼる闘い」を組織し、その要求の中心に「補償法制度の再確立」、「公害被害者の全面救済制度の確立」を掲げ、その要求闘争の担い手としては、全国患者会を中核に地方・中央の支援団体の結集を図ってゆくこと(必要に応じて、全国レベルの補償法共闘組織の結成)。
第三に、そのためにも、再確立する補償法制度の中核をなす加害者負担(財源)の課題(自動車メーカーの加害責任の明確化)を克服するため、東京大気裁判に勝利することが重要であり、各地にあっては100万名署名の協力、その他東京大気裁判への支援体制を確立することが求められている。
いずれにしても、「被害者の救済」の要求を高く掲げ、ひきつづき奮闘することが重要となっている。