〔5〕 名古屋南部あおぞら裁判の報告
弁護士 松本篤周
1 はじめに
2000年11月27日の勝利判決をふまえて、2001年8月、89年3月の提訴以来12年ぶりに国と企業との間で全面解決和解が成立し、早くも判決から5年、和解から4年あまりが経過したことになる。和解を契機として設置された道路沿道環境改善に関する連絡会(略称連絡会)の取り組みの到達点について、とくに国土交通省との交渉に絞って報告する。
23号の交通量を減らして、道路からの大気汚染物質を減らして、大気汚染をなくすことが課題。そのための車線削減であり、交通量調査であり、大気汚染の測定である。これがどうなってきたか、という観点から報告したい。
2 名古屋南部道路環境連絡会
(1) これまでの取り組み
第1回 02年5月17日(金)に名古屋港ポートビルにおいて弁護団、専門家、患者会役員のほか原告ら約60名の参加の下に開催されて以降、毎年一回開催され、2005年6月28日で第5回が行われてきた。その間に毎年3回ないし4回の準備会が開催されてきた。
(2) 原告側の要求
和解条項の実現が大前提だが、これに加えて、和解から2年後である03年12月に下記の申し入れをした。
(1) 大型車の交通量削減のための総合的な調査の実施
国土交通省は、名古屋南部地域(以下本件地域という)における交通負荷の軽減・大型車の交通量低減のための施策を総合的かつ効果的に進めるために、事業主団体等の協力を得て、大型車の運行経路、運行経路選択要因等に加え、大型車の運行実態(頻度、時間帯等)、車両の年式、ディーゼル微粒子除去装置装着の有無、交通規制や本格的な環境ロードプライシングが実施された場合の運行経路選択に係る意向等に関する別紙調査を実施すること。
(2) 環境ロードプライシングの試行
国道交通省は、前記・の調査結果を分析評価するとともに、新たな取り組みについて交通量や環境への効果・影響を調査検証する社会実験の活用などにより主体的に検討を行い、本件地域における大型車交通量を削減する観点から、本格的な環境ロードプライシングを検討、試行すること
(但し、伊勢湾岸道路周辺の環境を悪化させない対策をとること)
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(3) 国土交通省側の姿勢の問題点
根本的問題点:判決敗訴、和解成立にもかかわらず、23号の交通量低減、環境改善が待ったなしの緊急課題であるとの認識に欠けていることである。
*交通量調査の状況(湾岸開通により23号の交通量も増加傾向)
2005年の交通量調査の結果(7月実施、10/13発表)によると、またまた、23号の交通量が増加した(全車4600台、大型車2400台)。これについて中部整備局は「通過交通の分担比」なる概念を持ちだして「23号から伊勢湾岸道への通過交通の転換傾向が見られる」とコメントしている。この意味は、23号の通過交通量が減少(2断面で1600台、3断面で900台)し、1号、23号、伊勢湾岸全体の通過交通量に占める23号の割合が2断面で11ポイント減少したことを指している。しかし、伊勢湾岸線が全線開通したにもかかわらず、通過交通の減り方は微々たるものであり、結局のところ、23号の総交通量の絶対量は、4年前の平成13に比べて7100台の増加となってしまっている。つまり、伊勢湾岸道路開通が全体として交通量増大の呼び水となり、名古屋南部全体の交通量が増加する(約19万台で、昨年から17300台増加)中で、23号全体の交通量が増加してしまっているのである。ただ、少なくとも2断面及び3断面の交通量は4年前と比べて、2600から2700台の減少で、減少率は2断面で約10%、3断面約27%となっている。今後湾岸の料金減額による誘導と23号の車線削減を組み合わせれば、通過交通の減少は展望があると思われる。
*伊勢湾岸道路利用促進社会実験と23号車線削減シミュレーションについて
平成16年11月から17年1月末まで伊勢湾岸の飛島、東海IC間での往復割引及び定期券割引方式による23号からの社会実験が行われた。結果としては、湾岸道路の一日あたりの大型車交通量が4400台から4900台へ約500台増加した。しかし、そもそも何故この限られたインター間にしたか、全線開通したのに、名古屋南から四日市JCまで全線の調査をしていないことが問題。平成17年度の交通量調査によると、たしかに普通車を含めると通過交通は3割程度。しかし大型車交通について見ると、内々交通全体(1号、23号、伊勢湾岸)が32200台(/一日)であるのに対して、23号の通過交通は20100台であり、これを削減すれば40%近くの大型車交通量の削減が可能であることになるが、中部整備局は通過交通問題についての政策的展望を示せないでいる。
(4) 最新の状況
05年11月22日に準備会が行われた。
@ 先の社会実験のあと、同年2月から3月にかけて、伊勢湾岸利用者、23号利用者、23号沿線住民にアンケート調査実施した。これは原告側に何の相談もなく中部整備局が一方的に行ったものであるが、その結果として「伊勢湾岸を利用しない理由」については、4割近くが「有料道路だから」と答えており、「23号の迂回道路利用」「工事・事故等で長時間規制された場合」については、23号利用者のうち、45lが「伊勢湾岸に迂回する」と述べている。これから見ても、伊勢湾岸の全体の料金割引を実施すれば、少なくとも大型車の大幅な交通量削減は可能と考えられる。
A 23号車線削減について
中部整備局は「シミュレーションの結果車線削減により23号からのNOX,SPMの総排出量は減少する。しかし、その結果交通が周辺に分散するため、名古屋南部(伊勢湾岸は除く)全体の道路からの総排出量が減少しない(やや増える)」から今のままでは車線削減には消極的である、という。
しかし、そもそも和解では、車線削減検討のための交通量調査は、「23号の交通負荷の軽減策の検討のため」となっているのである。ところがいつの間にか「名古屋南部地域の総排出量の抑制に資する車線削減の方策の検討」になってしまっている。
国土交通は各地の裁判で「距離減衰により、バックグランド濃度に吸収される」と主張してきたはず。今は車線削減をさぼる口実として、患者側の要求を逆手にとろうとしているのであって、極めて不当な態度といわなければならない。
B アンケート調査の問題
中部整備局は「中央走行規制、ナンバー規制」は「権限外事項」なので、地域環境会議に参加して提案せよ」という態度に固執しているが、車線削減とロードプライシングについては、権限内なので、連絡会で協議の上アンケート調査を実施することは可能、という態度。
C 再度の社会実験
中部整備局は、本年2月1日から28日まで再度「伊勢湾岸道路社会実験」を行う今回は往復割引のみETC車限定(普及率が50パーセントを超えたので、という説明)で対象インターチェンジの往復間という方式は前回と同じ。我々が「対象インターチェンジを広げろ、通過交通も対象にせよ」と要求し続けていたにもかかわらず、またもや限定した「内々交通」のみを意識した実験を実施する。
ただ、社会実験に伴うアンケートについては、今回は我々の意見を反映させるべき協議を重ねている。特に今回は23号の車線削減をすることへの評価を聞くことと事業者(経営者)を直接対象とするアンケートを実施するよう要求している。
(5) 今後の方向
課題は待ったなし。
車線削減と抜本的な通過交通量削減のためのロードプライシングの実施を緊急課題であるとの認識を持たせるなかで実現させていく。尼崎と同様の内容になるかどうかは別として、上記の課題を達成させるための、本格的調査と社会実験を実施させる、その内容について、深くコミットしていく。このことを弁護団、原告団が協力して、世論を喚起しながら進める。専門家の協力も引き続き模索する。