公害弁連第38回総会議案書
2009.3.29  東京
【3】 特別報告
景観と住環境を考える全国ネットワーク結成の報告
弁護士 日置雅晴

1  組織結成の経緯
 「景観と住環境を考える全国ネットワーク」は、規制緩和により一層激化したマンション紛争や巨大開発を巡る景観破壊などに関わる住民と、これを支援する専門家のネットワークとして、昨年7月19日に京都で結成された。  会の結成のきっかけの一つは2007年度日弁連第50回人権擁護大会シンポジウム第3分科会「住み続けたいまち・サスティナブルシティへの法的戦略」〜快適なまちに住む権利の実現に向けて〜を一つの契機として、全国の住環境問題に関わる弁護士や当事者の交流の機会が生まれたことである。
 特に地域的にマンション紛争関係者のネットワークが確立していた福岡と、長年都市問題を中心として専門家のネットワークが形成されていた東京が中心となり、全国的なネットワークの結成が話し合われた。
 その結果全国ネットと連携が必要だという声が、地方都市の方から湧き上がり、これまでのばらばらな対応をネットワークすることで、根本的なシステム改革の力としていこうと言う呼びかけにつながった。結集したのは、主に、東京、神奈川、千葉、仙台、名古屋、大阪、京都、福岡などの各都市であり、紛争にかかわる住民が交流するばかりでなく、条例づくり、法律づくりの専門家が企画運営の中心を担うということも打ち出された。
 その結果、昨年5月10日、11日に初めての全国集会を東京で開催したところ、予想を大きく超える300名以上の参加者が集まった。
 この結果を更に永続的なものとするために昨年7月19日に京都で、全国組織の結成に踏み出すこととなった。
 7月19日には、福岡や東京、大阪など1都2府9県で活動する20の住民団体と、25人の弁護士、市議、建築士らが結集して代表者会議を開催し全国組織「景観と住環境を考える全国ネットワーク」を結成するに至った。
 代表者会議は約50人が出席。代表に「耐震偽装から日本を立て直す会」代表世話人の当職(東京)を選出。弁護士の運営委員には福岡の幸田弁護士、大阪の針原弁護士、京都の飯田・中島弁護士などが運営委員に選ばれている。
 会としては、紛争経験の蓄積から支援・助言を行う「情報センター」の役割を担い(1)相談窓口の設置(2)紛争地への専門家派遣(3)全国版の紛争対策集作り(4)シンポジウムや勉強会─などに取り組むことを申し合わせた。また今年度から始まると見られている都市計画法の改正に「住環境」重視の対案の提案や請願署名などの運動も展開することとした。
 結成後の活動としては昨年11月に福岡で全国集会を開催し、活発な経験交流や講演、現地見学などが行われた。

2  ネットワークの力
 千葉県船橋市では、マンション紛争を押さえるための高さ規制(高度地区指定)が市により検討されていたが 、地主や一部議員の反対などで進展していなかったが、会結成を契機として市内の多数の紛争地域の住民が地域ネットワークを結成、会の支援なども受けて早期指定を求めるシンポジウムを昨年11月に開催、これが行政の重い腰を上げさせることとなり本年2月10日に告示に至った。この結果は、市民の結束が行政を動かした実績として大きく評価することができる。
 これを踏まえ、首都圏だけでも千葉、東京などこれまで地域ネットワークの無かった地域において住民運動のネットワーク結成の動きが進展している。
また特に問題のあるマンション計画などに対しては広く全国的に反対声明を呼びかけるなどの新しい動きも生まれている。

3  勉強会やメーリングリストによる情報交換
 会では、それぞれの地域で勉強会や情報交換に力を入れている。都内では毎週のように「神楽坂サロン」として都市問題の背景事情からの体系的な勉強会を開催している。また一般会員用メーリングリスト、専門家向けメーリングリストも開設されており、一日に多いときには何十通ものメールによる情報交換が密に行われている。

4  今後の課題
 今年は都市計画法の大改正が始まると予想される。これに対して市民の立場からの法改正を問いかけていくことが重要な課題である。これと共に地域に適したまちづくりを実現するためには、地域特性を踏まえた都市計画と条例の制定が不可欠であり、それぞれの地域に密着した継続的な活動も必要となる。この種の問題は隣のマンション紛争が存在するときは関心を持つが、それが決着すると関心を失う市民が多いが、個別の問題をきっかけとしてまちづくりを考える市民と専門家のネットワークの確立が今年の課題である。

会のホームページ:http://machi-kaeru.com/
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