【1】 基調報告
第1 公害・環境をとりまく情勢
1 政治的社会的情勢
2008年も、衆議院は、与党が3分の2以上を占め、一方参議院は、野党が多数となる所謂ねじれ国会が続いた。2007年に不祥事続きの安倍晋三首相が参議院の大敗後の同年9月に突然政権を放り出したのに続き、跡を引き継いだ福田康夫首相も、昨年7月の洞爺湖サミット終了後の9月1日に突然退陣を表明した。第92代総理大臣となった麻生太郎首相は、当初早期解散を表明していたものの、支持率が上がらないこともあって、解散総選挙を先延ばしにした。ところが、米国のサブプライム住宅ローン問題に端を発した金融危機が昨年9月の米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻により一挙に深刻化し、世界中の金融市場が同時に危機に陥った。わが国でも、好景気を誇っていた自動車や家電産業をはじめ、幅広い企業が赤字に陥った。このような経済情勢のなか、小泉政権の規制緩和政策によって製造業にまで拡大されていた派遣職員を中心とする大量解雇が実施され、失業者の増大に伴って生活保護の受給者が急増する事態になっている。
このような100年に1度の経済危機と言われる状況にもかかわらず、麻生政権は、国民の大多数が反対する定額給付金のばらまき政策に固執して、経済危機に対する有効な対策を実施できていない。また、麻生首相のたび重なる失言に閣僚の不祥事も重なって、世論調査における麻生内閣の支持率は、10%台からひと桁台までに落ち込んだ。さらに、民主党の小沢一郎党首に関する違法献金問題も発生し、わが国の政治は、一層混迷の度を深めている。出口の見えない世界的な不況下において、この政治的混迷がわが国の景気と国民生活を一層悪化させており、先ずは今秋に任期満了を迎える衆議院議員の選挙が施行されなければ、これからも先が見えない状況が続くものと思われる。
このような政治的社会的状況において、わが国の公害環境問題は、わが国経済の回復という名目のもとに、その前進を阻害される恐れがある。しかし、一方では今年1月に誕生した米国のオバマ政権がグリーン・ニューディール政策をかかげているように、新たな経済発展にとっても「環境」が欠くことのできない要素となっている。例えば、温暖化ガスの排出権取引について、わが国の企業は、依然として消極的姿勢が目立つものの、近年中に導入しなければ、世界から取り残される情勢である。そのことは、自動車や鉄鋼をはじめとするあらゆる企業にとっても環境問題を無視して将来の発展を見通すことはできない。イタイイタイ病の加害企業であった神岡鉱業が30数年にわたる原告・学者・弁護士らの調査活動における厳しい指摘を受けて、自然界とほぼ同水準の排液処理システムを作り上げたが、このことは、万全な環境対策の実施こそが産業発展を促すことを示しており、政府や産業界も、目先の利害のみにとらわれることなく、将来を見据えた対応が迫られていると言えよう。
2 わが国の公害・環境破壊の現状
わが国の大気汚染、騒音、水質汚濁、廃棄物問題などの公害・環境破壊の現状、特に昨年7月に開催された「洞爺湖サミット」や昨年12月に開催されたCOP14、COPMOP4の「ポズナニ会議」において前進が見られなかった地球温暖化問題の現状は、次のとおりであり、その特徴的な状況を指摘する。
第一に、地球温暖化問題では、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2007年に取りまとめた第4次評価報告書によると、世界平均地上気温は1906〜2005年の間に0.74(0.56〜0.92)℃上昇し、20世紀を通じて平均海面水位は17(12〜22)cm上昇している。また、最近50年間の気温上昇の速度は、過去100年間のほぼ2倍に増大し、海面上昇の速度も徐々に増大している。日本では20世紀中に平均気温が約1℃上昇した。
また、日本の温室効果ガスの排出状況をみると、日本の2006年度の温室効果ガス総排出量は、13億4,000万トン(CO2換算)であった。京都議定書の規定による基準年(1990年度。ただし、HFC、PFC及びSF6については1995年)の総排出量(12億6,100万トン)と比べ、6.2%上回っている。前年度と比べると1.3%の減少となっている。2006年度のCO2排出量は12億7,400万トン(1990年度比11.3%増加)、1人当たりでは9.97トン/人(同7.7%増加)であった。部門別にみると、産業部門からの排出量は4億6,000万トン(同4.6%減少)、運輸部門からの排出量は2億5,400万トン(同16.7%増加)、業務その他部門からの排出量は2億2,900万トン(同39.5%増加)、家庭部門からの排出量は1億6,600万トン(同30.0%増加)であった。CO2排出量の部門別内訳をみると、直接の排出量では、エネルギー転換部門(発電所等)が30.4%、産業部門(工場等)が30.5%、運輸部門(自動車・船舶等)が19.4%、業務その他部門(オフィスビル等)が7.9%、家庭部門が5.0%、工業プロセス(石灰石消費等)が4.2%、廃棄物(プラスチック、廃油の焼却)が2.7%であった。最近発表された2007年度の温室効果ガス総排出量は、13億7,100万トン(CO2換算)であり、京都議定書の規定による基準年の総排出量と比べ、8.7%上回り、前年度と比べても2.3%の増加となってしまった。
第二に、都市部を中心とする窒素酸化物(NOx)や浮遊粒子状物質(SPM)の汚染は、緩やかな改善傾向にあるが、悪性が強い微小粒子状物質(PM2.5)については、1997年に米国で環境基準が設定され、2006年にはWHOでもガイドラインが定められており、わが国でもようやく環境基準を定める方向で、2008年12月に中央環境審議会に諮問がなされた。米国やWHOのように厳しい基準が設定されるかどうかが問題であり、測定局も未だわずかしかない。全国の有効測定局の2006年度のNO2年平均値は、一般局が0.015ppm、自排局が0.027ppmで、一般局ではほぼ横ばいであり、自排局では緩やかな改善傾向が見られる。環境基準の達成状況の推移は、2006年度は、一般局100%、自排局90.7%であり、2005年と比べてほぼ横ばいであった。また、2006年度に環境基準が達成されなかった測定局の分布をみると、自排局は、自動車NOx・PM法の対策地域を有する都府県に、岡山県、山口県、福岡県、沖縄県を加えた12都府県に分布している。
自動車NOx・PM法に基づく対策地域全体における環境基準達成局の割合は、2006年度は83.7%(自排局)と2005年度と比較して1.4ポイント低下した。また、年平均値は、近年ほぼ横ばいながら緩やかな改善傾向が見られる。
一方、SPMについてみると、全国の有効測定局の2006年度の年平均値は、一般局0.026mg/m3、自排局0.030mg/m3で前年度に比べて改善し、近年緩やかな減少傾向が見られる。SPMの環境基準の達成率の推移は、2006年度は、一般局93.0%、自排局92.8%で、前年度に比べて一般局でやや低下しており、自排局ではほぼ横ばいであった。環境基準を達成していない測定局は全国20都県に分布している。
第三に、近年長期暴露による健康被害が懸念されている有害大気汚染物質についてみれば、2006年度のベンゼンでは、月1回以上測定を実施した451地点の測定結果で、環境基準の超過割合は、2.9%であった。
第四に、自動車騒音の環境基準の達成状況については、2006年度の自動車騒音常時監視の結果によると、全国3,292千戸の住居等を対象に行った評価では、昼間又は夜間で環境基準を超過したのは480千戸(15%)であった。このうち、幹線交通を担う道路に近接する空間にある1,404千戸のうち昼間又は夜間で環境基準を超過した住居等は335千戸(24%)であった。
第五に、航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、長期的に改善の傾向にあり、2006年度においては測定地点の約28%の地点で達成していない。また、新幹線鉄道騒音については、一部で75dB以下が達成されていない。
第六に、水環境について、2006年の有機汚濁の環境基準(河川ではBOD、湖沼及び海域ではCOD)の達成率は86.3%であり、水域別では、河川91.2%、湖沼55.6%、海域74.5%となり、河川の改善が進み、過去最高の水準となったものの、湖沼では依然として達成率が低くなっている。また、2005年の赤潮の発生状況は、瀬戸内海115件、有明海32件となっており、東京湾及び三河湾では青潮の発生も見られた。湖沼についてもアオコや淡水赤潮の発生が見られた。
地下水質の汚濁では、2006年度の調査対象井戸(4,738本)の6.8%(320本)において環境基準を超過する項目が見られた。硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が4.3%と最も高くなっている。一方、トリクロロエチレン等の揮発性有機化合物についても、依然として新たな汚染が発見されている。
第七に、市街地等の土壌汚染については、近年土壌汚染対策法に基づく調査や対策が進められているとともに、工場跡地の再開発・売却の増加、環境管理等の一環として自主的な汚染調査を行う事業者の増加、地方公共団体における地下水の常時監視の体制整備や土壌汚染対策に係る条例の整備等に伴い、土壌汚染事例の判明件数が増加している。都道府県や土壌汚染対策法の政令市が把握している調査の結果では、2005年度に土壌の汚染に係る環境基準又は土壌汚染対策法の指定基準を超える汚染が判明した事例は667件となっている。事例を汚染物質別にみると、鉛、砒素、フッ素などに加え、金属の脱脂洗浄や溶剤として使われるトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンによる事例が多く見られる。
第八に、廃棄物の現況については、2005年度の一般廃棄物の総排出量は5,273万トン、国民1人1日当たり1,131gで、市町村の処理のうち、直接焼却された割合は77.4%となっており、焼却以外の中間処理及び再生業者等に直接搬入される量の割合は19.7%となっている。最終処分量は733万トンで、前年度に比べ76万トン減少した。一方、全国の産業廃棄物の総排出量は、2005年度では約4億2,200万トンと前年度に比べ約1.1%増加した。処分状況については、再生利用量が約2億1,900万トン(約51%)、減量化量が約1億7,900万トン(約42%)最終処分量は約2,400万トン(約6%)で、再生利用量が前年度の2億1,400万トンより約500万トン増加し、最終処分量は前年度より約200万トン減少するなど、リサイクルが一層進んできている。最終処分場の残余年数については、2005年4月時点において全国平均7.7年で、依然として厳しい状況にある。
3 公害・環境をめぐる注目すべき動き
(1) 2008年度は、環境破壊の大型公共事業の見直しのたたかい、特に海・川を守るたたかいの大きな前進が見られた。
第一に、諫早湾干拓事業の工事差し止め・潮受堤防の開門を求める「よみがえれ!有明海訴訟」では、昨年6月27日佐賀地裁において、国に対して「本判決確定の日から3年を経過する日までに……諫早湾干拓地潮受堤防の北部及び南部各排水門を開放し、以後5年間にわたって同各排水門の開放を継続せよ」との開門判決が言い渡された。原告、弁護団、支援者らは、連日農水省に押しかけて「控訴するな」の行動を行ったが、国は、鳩山法相と若林農相との間で、「開門する腹をきめ」開門方法について漁民の意見を聞くとの合意のもとに、福岡高裁に控訴した。このほか、公金支出差止住民訴訟が福岡高裁に、小長井・大浦漁業再生訴訟が長崎地裁に係属しているが、国は、和解はおろか、進行協議すら拒否する姿勢を見せ、開門に向けた話合いに応じていない。
第二に、昨年9月11日に熊本県知事は、国土交通省の川辺川ダム計画について「現行計画は白紙撤回。ダムによらない治水対策を追求すべきだ」と中止の決断をした。(だた、同時に撤去方針であった荒瀬ダムの撤去方針を凍結することも表明した。)また、農水省は、昨年3月同省川辺川利水事業所を閉鎖し、利水事業が休止になった。この熊本県知事のダム反対表明ののち、淀川水系の大戸川ダムに対する近畿4県知事の反対表明が出された。
第三に、昨年11月19日に那覇地裁は、沖縄県及び沖縄市に対し、泡瀬干潟埋立事業及び沖縄市東部海浜開発事業に関し、公金の支出等を禁ずる判決を下した。
第四に、昨年10月〜11月に韓国で開催された第10回ラムサール条約締約国会議において、NGO会議の宣言文に「イサハヤ」問題が取り上げられ、本会議においても諫早湾、泡瀬干潟、セマングム干拓の環境破壊が討議され、東アジアフライウェイ(渡り鳥の渡ルート)の緊急保護決議が採択された。
第五に、昨年11月12日、よみがえれ!有明弁護団が韓国の第1回水環境大賞の国際部門賞「ガイア賞」を受賞した。
また、環境破壊の大型公共事業としては、各地で道路公害裁判がたたかわれている。先ず、圏央道建設に関する訴訟は、裏高尾地域の事業認定取り消し訴訟が最高裁第二小法廷に、圏央道工事差止訴訟が東京高裁に、さらに高尾山地域の事業認定取消訴訟が東京地裁に係属している。圏央道の工事は、八王子ジャンクションが完成し、中央道から関越道が連絡し、現在高尾山トンネルの先進掘削工事に取り掛かっている。道路特定財源と暫定税率をめぐる議論の中で、これまで道路建設を合理化するために利用されてきた交通需要予測の誤りや「費用便益分析マニュアル」の欠陥が指摘されている。また、原告らは、国側が買収したとして工事に利用している土地に、住民らの所有地が含まれているとして妨害排除請求をしているが、国は、道路法の規定を根拠に住民らの施設の撤去を強行してきた。富士山とともにミシュランの三ッ星の認定を受けるなど、ますます高尾山に対する内外の関心が高まる中、豊かな高尾山の自然を守るたたかいが続けられている。このほかにも広島市の国道2号線の高架道路建設差止や損害賠償等を求める訴訟をはじめ、多くの道路建設に反対する訴訟や調停事件がたたかわれている。
(2) 次に、ノーモア・ミナマタ訴訟は、1,600名を超える原告によって熊本地裁に係属中であり、高岡医師の主尋問を終えて、現在同医師の反対尋問を行っているが、第一陣の原告50名に対する判決を早期に得て、2004年10月15日の水俣病関西訴訟最高裁判決に準拠した司法救済システムの確立を目指している。また、本年2月27日には、水俣病不知火患者会近畿支部の会員12名らが、国、熊本県、チッソを被告として損害賠償訴訟を提起した。政府、自民党は与党PT案(行政が指定した医師の診断のみにより、四肢末梢優位の感覚障害が認められる人に対し、①一時金150万円、②毎月の療養手当1万円、③医療費の自己負担分を全額免除するという内容である。)を呈示し、第二の政治解決を狙っている。チッソは、当初与党PT案に反対していたが、チッソ本社から事業部門を分社化し、残された本社にのみ賠償責任を負わせて、税制優遇措置まで得て、水俣病認定制度の終了を宣言するとした「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の最終解決に関する特別措置法」案を現国会の提出させることと引き換えに、与党PT案を賛成するに至った。与党PT案と分社化法案は、被害地域住民の健康調査を行わず、あくまで認定基準を変えずに、司法救済制度を拒否し、裁判外での安上がり解決を図って、未だ声を上げられない潜在患者を含めて大量の被害者を切り捨てる、加害企業チッソのための幕引き案である。ノーモア・ミナマタ訴訟団・弁護団は、本年3月4日熊本でチッソの分社化を許さない緊急シンポジウムを開催した。このように、ノーモア・ミナマタ訴訟は、未救済の水俣病患者を最後の一人まで救済するための司法救済システムを確立するのか、未救済患者の大量切捨てと加害企業チッソの責任逃れを画策する与党PT案とチッソ分社化を許すのか、重要な時期に差し掛かっている。
(3) 基地騒音公害に対するたたかいは、昨年6月26日に那覇地裁沖縄支部で普天間基地爆音訴訟一審判決、本年2月27日に福岡高裁那覇支部で新嘉手納基地爆音訴訟控訴審判決が宣告された。2005年の那覇地裁沖縄支部新嘉手納基地爆音訴訟一審判決では、従来の訴訟では認められていたW値80、W値75の地域に居住する原告が損害賠償請求まで棄却されてしまっただけに、W値75まで損害賠償が認められるかが最大の注目点となった。両判決ともW値75まで損害賠償が認められたものの、新嘉手納基地判決では、W値のコンターのみで判断せず、実際の測定結果を理由に読谷村等に居住する原告21名が棄却された。普天間訴訟は、福岡高裁那覇支部へ控訴し、新嘉手納訴訟は、難聴等の身体的被害が認められずに棄却された差止請求につき最高裁へ上告した。
また、基地騒音公害訴訟では、新訴訟まで確定した厚木基地爆音訴訟は、2007年12月に新々訴訟(第4次)を提訴し、2008年4月の追加提訴で7,054名と原告数が過去最多となった。また、小松基地でも2008年12月24日に原告2,121名(同訴訟では過去最多)で新々訴訟(第5次)を提訴した。さらに、米軍再編により厚木基地から米空母艦載機の旋回訓練が移転するなど飛行騒音の増大が予測される米軍海兵隊岩国基地では、周辺の住民が初めて差止・損害賠償を求めて2009年3月中にも提訴する予定である。
(4) 薬害に対するたたかいでは、今秋にも結審を迎える薬害イレッサ訴訟が注目される。イレッサは、イギリスのアストラゼネカ社が製造した肺ガンに対する抗ガン剤である。2002年の販売直後から間質性肺炎等の急性肺障害により2008年3月までに734人が死亡した。これまで数度にわたる大規模な臨床試験が行われたが、イレッサの延命効果は認められていない。しかし、世界に先駆けてイレッサを承認したわが国では、依然として使用され続けている。西日本訴訟では、専門家証人がほぼ終了し、その後の原告本人尋問を経て、今秋にも結審するとなる見込みである。また、東日本訴訟においても、まもなく原告本人尋問が始まり、今年中に結審の予定である。
一方、食品公害のたたかいでは、カネミ油症新認定訴訟が2008年5月23日にカネミ倉庫等を被告として福岡地裁小倉支部に提訴された。この訴訟は、2004年になって認定基準が変更になり、これまで放置されてきた被害者が新たに油症被害者の認定を受けて、今回の提訴をしたものであり、原告数は、提訴当初が26名であり、11月27日に10名が追加提訴した。
(5) 大気汚染のたたかいでは、①被害者救済、②PM2.5環境基準の設定、③道路公害対策の運動を展開した。第一に、被害者救済としては、条例による医療費助成制度のある川崎と東京では、「条例」認定患者を拡大する運動を展開し、川崎市では要綱患者と条例患者あわせて3,000人を越え、東京では3万人の新規患者の救済が実施された。また、東京では患者会拡大運動により会員数が1,000名を突破した。川崎では、患者1割負担の撤廃を目的とする5万人署名運動が取り組まれている。大阪では「あおぞらプロジェクト IN 大阪」がスタートしたのをはじめ、埼玉、千葉でも準備会を結成するなど新たな運動が広がっている。第二に、PM2.5環境基準の設定では、東京大気訴訟の和解で「基準設定の検討」を約束した国に対し、全国患者会と大気全国連では、意見書の提出、環境省交渉などの運動を活発に取り組んだ。2008年12月、環境省は、斎藤大臣がPM2.5環境基準設定を表明し、中央環境審議会に諮問をした。第三に、道路公害対策については、尼崎で2008年7月に警察庁から国交省あてに「国道43号線尼崎地域において大型車を対象とした限定的な交通規制を実施することの可否に関する検討について」が提出され、国交省が湾岸線にロードプライシングを実施するならば、警察庁が必要な交通規制に協力するという内容であった。2009年3月6日、国土交通省は、湾岸線において大型車の通行料を恒久的に約30%割り引くロードプライシングの実施を発表したが、これは、道路公害対策の一歩前進と評価できるものである。また、川崎や名古屋南部でも大型車の臨海部誘導や大型車削減に向けて調査等が行われた。
(6) アスベストのたたかいでは、全国一のアスベスト産業の集積地であった大阪・泉南地域の被害者らが2006年5月26日に提訴した大阪泉南アスベスト国賠訴訟(原告28名)おいては、戦前に実施された国(保健院)の石綿被害労働衛生調査ではじん肺疾患率が12%以上に及び、法規的取締りの必要性を提言していたにもかかわらず、戦時下のみならず、戦後も有効な規制措置をとることなく、工場の労働者のみならず工場周辺にも深刻なアスベスト公害を発生させたとして、国賠請求をしている。訴訟では、昨年7月から専門家証人尋問が行われ、本年1月から本人尋問も始まり、今秋には結審の見通しである。訴訟団では公正判決を求める30万人署名をスタートさせた。
次に、2007年5月8日に国とクボタを被告として提訴した尼崎アスベスト訴訟では、いわゆる「公害型」と呼ばれる全国初の訴訟で国との間では規制権限の有無や知見の確立時期、クボタとの間では工場外へのアスベストの飛散の有無が争点で、クボタ工場内の粉じん濃度測定データやクボタに対してたびたび粉じん対策の指導を行っていた尼崎労働基準監督署の資料などの開示を求めている。
2008年5月と6月には、長年にわたって建設作業に従事して石綿粉じんに曝露されて肺がん、中皮腫等に罹患した建設作業従事者やその遺族が東京地裁(原告172名)と横浜地裁(原告40名)に提訴した。原告らは、この訴訟で国と建材メーカーの法的責任を明らかにして、「石綿新法」の改正を含めて石綿被害者に見合った救済と今後の被害防止策の確立を目指す。
(7) 2008年度には地球温暖化問題に関し、①7月の洞爺湖サミット、②12月のポーランドのポズナニで開催された「第14回気候変動枠組条約締結国会議(COP14)」、「第4回京都議定書締結国会合(CMP4)」と大きな会議が二つあった。しかしながら、洞爺湖サミットにおいては肝心の中期削減目標の設定について何らの前進もみられなかった。議長国であったわが国が事前に中期削減目標を呈示しなかったのであるから当然の結果を言えよう。またCOP14、CMP4についても、前回のバリ会議(COP13、CMP3)を一歩も前進できなかった。ここでもわが国は、オーストラリアやロシアと共に消極的態度に終始し、何度も不名誉な化石賞を受賞した。本年12月にはコペンハーゲンでCOP15、CMP5が開催されるが、この会議で2013年以降の削減目標と制度枠組みを決めることとなっているので、この会議でIPCCが求める2020年に1990年比25%〜40%削減の水準で決めさせることができるのかが極めて重要である。
2008年度における公害弁連の活動は、公害・地球懇を中心に総行動実行委員会、全労連、新婦人、農民連などの諸団体と連携し、地球温暖化防止に向けた諸行動に参加する形で行われた。2008年度の地球温暖化防止の諸行動を列挙すると、①5月10日に第2回シンポジウム「洞爺湖サミットへ−環境ウェーブのよびかけ」、②6月1日・2日に第33回全国公害被害者総行動、③7月4日〜6日に洞爺湖サミット札幌行動、④12月20日に第3回シンポジウム「私たちが変える温暖化対策」、⑤2月13日に環境省交渉、⑥2月18日に国会請願行動の院内集会などである。このほか「国民署名」や公害・地球懇の「エコ・ウェーブ」にも協力した。