【2】 各地裁判のたたかいの報告(基地騒音)
〔2〕 新嘉手納基地爆音訴訟 報告
弁護士 田村ゆかり(58期)
1 はじめに
平成12年に提訴してから8年。新嘉手納基地爆音訴訟は、平成21年2月27日に沖縄高裁那覇支部において判決言渡しを迎えます。つまりこれを皆様がご覧になっているころには既に控訴審判決が出ていることになります。ただ、今は判決言渡しに向けての準備を進めつつ、5,540名に上る原告の願いが裁判所に届きますようにと祈るのみです。
この場を借りまして、新嘉手納基地爆音訴訟の控訴審における主張立証活動を振り返りたいと思います。
2 控訴審における主張立証活動の概要
- 第1回 平成18年3月28日
控訴理由書陳述
意見陳述 1審判決への怒り、W値80沖縄の爆音被害、石川の爆音被害
嘉手納町屋良の爆音被害、W値85未満損害賠償請求棄却の不当性
- 第2回 7月13日
控訴理由書(2)(3)、準備書面1陳述
意見陳述 本件爆音被害の実態とその特徴・本質
国の控訴理由書に対する反論、新聞記事から窺う基地被害の実態
- 第3回 10月3日
控訴理由書(4)陳述
意見陳述 受忍限度について
- 第4回 平成19年1月23日
- 第5回 3月27日
第2準備書面陳述
意見陳述 国の曝露量減少の主張に対する反論、新聞記事から窺う基地被害の実態
- 第6回 6月5日
意見陳述 松井利仁の証人尋問の必要性、原告本人尋問と検証の必要性
- 第7回 8月30日
第3、4準備書面陳述、立証計画案提出
意見陳述 基地周辺住民の被害の訴え、弁論更新に伴う本件訴訟の総括
国の主張の疫学的知見の無理解、国の測定点における測定の不備
- 第8回 10月18日
W値75・80地域の原告各支部2名以上の採用決定
現地における進行協議を2期日行うことの決定
- 第9回 12月11日
平松幸三・津田敏秀証人尋問(主尋問)
- 第10回 平成20年1月31日
W値75・80地域原告尋問4名(具志川)
- 第11回 2月21日
平松幸三・津田敏秀証人尋問(反対尋問)
- 第12回 3月27日
W値75・80原告尋問4名(具志川・沖縄)
- 進行協議 4月24日
屋良小学校(W値90)、道の駅かでな(90)、砂辺・原告宅(95以上)、読谷・個人宅(75)、石川・原告宅(80)
- 進行協議 4月25日
沖縄・原告宅(85)、知花第2ポンプ場(85)、八重島公民館(80)、具志川・原告宅(80)、具志川・原告宅(75)、沖縄・原告宅(80)
- 第13回 5月20日
W値75・80原告尋問4名(読谷・北谷)
- 第14回 6月20日
W値75・80原告尋問4名(石川)
- 第15回 7月1日
W値85・90・95以上原告尋問3名
- 第16回 10月1日
最終準備書面陳述
意見陳述 沖縄在住原告、読谷在住原告、石川在住原告、具志川在住原告、嘉手納在住原告、北谷在住原告
最近の基地被害の状況、曝露、被害全般、差止請求
受忍限度(普天間基地代理人)、危険への接近(厚木基地代理人)
将来請求(横田基地代理人)
総括
W値80・75地域の原告735世帯のうち499通の陳述書を提出
- 判決言渡し 平成21年2月27日
3 控訴審における主張立証活動を振り返って
ご存知のように、新嘉手納基地爆音訴訟の第一審判決は、W値75・80地域居住原告の損害賠償を棄却した、他基地についての判断と比しても酷い内容でした。他の基地訴訟に悪影響を及ぼさないためにも、この判断を確定させるわけにはいきません。
そこで私たちは、W値80・75地域の原告735世帯のうち499通の陳述書を作成し、提出しました。沖縄での訴訟ながら弁護団のほとんどが大阪弁護士会登録だという特殊性もあり、時には月に2度沖縄へ飛んで陳述書を作成するという作業はかなりの労力が必要でした。また、陳述書作成に積極的でない原告に対しても粘り強く働きかけをされた原告団役員の方々の労力も多大でした。しかしこの作業を通じて、原告が日々受けている被害を目の当たりにし、損害賠償請求が棄却されたのは不当であるとの思いを新たにしました。
また、陳述書作成をベースとして、19名の原告本人尋問を行いました。うち16名はW値75・80地域居住原告です。それに加えて控訴審における立証の特徴は、2期日に渡り、原告宅等における進行協議期日(事実上の検証)を行ったことです。まず早朝にエンジン調整音を体感するために屋良小学校へ、次に道の駅かでなで滑走路から飛び立つ米軍機を確認しました。また最激甚地区の砂辺では、絶え間なく続く爆音に裁判長が「これは酷いな」と漏らす場面もありました。
損害賠償請求については、実勢騒音がコンター図から低減していないことについても立証活動を行いました。国や県の騒音測定点について場所を調べ、騒音が低くなる事情があればその点を立証しました。また、国が使用している騒音測定機についての問題点も指摘しました。
平成20年9月には900頁以上に及ぶ最終準備書面を提出し、10月の最終弁論期日では、各地区の原告が被害を訴え、弁護団が各論点についての意見陳述を行いました。また、受忍限度について普天間基地代理人から、危険への接近について厚木基地代理人から、将来請求について横田基地代理人から意見陳述をして頂きました。どの方の意見陳述もお願いしたテーマに沿いつつ示唆に富んでいて、興味深く拝聴しました。
冒頭にも書きましたが、新嘉手納基地爆音訴訟は2月27日に判決を迎えます。この報告がお手元に届くころには上告をするか否かは決まっていますし、第三次訴訟を提起するか、提起するならどのような構想をもって行うのか、ある程度はお示しできると思います。
いずれにせよ、本訴訟弁護団及び原告団だけでできることには限界があります。他の基地訴訟弁護団及び原告団の方を中心とした、公害弁連に参加されている皆様のお力をお借りしたい、たとえば結審や判決言渡し、訴訟提起などのタイミングを捉えて基地弁護団会議を開き、お互い状況を報告するとともに問題点について討議したいと考えています。
これまでの皆様のご協力に深謝するとともに、今後さらに連携を強化して全国の基地訴訟で望む結果が得られることを祈念して、結びと致します。