【3】 特別報告
みずしま財団 報告
みずしま財団
研究員 難波田隆雄
1. はじめに
2008年度のみずしま財団は、2006年度に策定した「中長期計画」施行の2年目ということで、引き続き中長期計画に沿って事業を展開してきましたが、特筆すべき点として日本環境会議水島大会の現地実行委員会の事務局を担い、その企画運営に携わったことを挙げることができます。その中で、水島地域でのこれまでの環境再生の取り組みの成果をとりまとめるとともに、大会を契機に水島のまちづくりを調査研究する体制の構築などに努めました。
ここでは、今年度の活動を日本環境会議の開催を中心に振り返りつつ、今後の展望についても考えてみます。
2. 延べ500人もの方が水島へ
−第26回 日本環境会議 水島大会の開催−
9月20日から22日までの3日間にわたって、倉敷芸術科学大学を会場に「第26回 日本環境会議 水島大会」が開催されました。この大会は、前回の四日市大会から次回の尼崎大会にかけての3ヵ年の中で、大気汚染公害地域の環境再生・まちづくりへの一定の提言を示す、その中間点としての位置づけがされており、「環境再生と健康なまちづくり」を主テーマとして開催しました。
1日目は全体会で、基調講演と特別講演に加え、現地水島地域からの4つの報告がありました。特に、現地からの報告は、積極的でかつ多様性のある取り組みが進んでいることがよく伝わってきたと好評をいただきました。
2日目は、「大気汚染の改善と被害者救済をめざして」、「臨海部の地域環境再生−海と地域づくり−」、「公害経験と環境再生−そのアジアへの発信−」という3つの分科会が設けられました。いずれも多数の報告と熱心な議論が行われました。
3日目はオプショナルツアーということで、現地案内をしました。山の上から水島のまちやコンビナートを一望し、工業地帯に隣接する集落や水島商店街を歩きました。環境問題と地域再生の両面を現場で感じるとともに、参加者とまちづくりについて意見交換ができ、非常に有意義なものになりました。
大会には3日間で延べ500人以上の方の参加があり、人材育成やまちづくりの実地体制の基盤づくりなど現地での積極的な取り組みに地域内外から高い評価をいただきました。また、大会では水島地域の環境再生はアジア各地の先進的なモデルになりうる重要なものであり、それらを積極的に進めていくことが示された「水島宣言」を確認しました。本大会の報告につきましては、2009年1月に発行された『環境と公害 38巻3号』(岩波書店)に特集として掲載されていますので、詳しくはそちらをご覧下さい。
3. 環境再生・まちづくりの実施体制の構築に取り組んだ1年に
−今年度の事業紹介−
みずしま財団の事業には、以下の4つの柱があります。ここでは今年度の事業活動をふりかえります。
① 地域再生
−これまでの成果のまとめと研究体制の構築−
地域再生には、「地域の研究機関としての役割」と「人と人、組織と組織をつなぐ役割」の2つが含まれています。
前者には、「水島のまちづくり」、「公害・地球環境」、「高梁川流域と瀬戸内海の環境再生」、「コンビナート研究」といった研究テーマが含まれています。今年度もそれぞれのテーマについて調査研究を進めましたが、海底ゴミ調査などこれまでの研究の成果のとりまとめを行い、日本環境会議水島大会で報告しました。また、大会の開催にあわせ、水島のまちづくりや公害・環境問題に取り組む体制の構築・発展にも取り組みました。倉敷医療生協、倉敷市職労、みずしま財団の若手職員を中心に組織された「水島まちづくり研究ワーキンググループ(以下、まちづくりWG)」と、医師を中心にした「医療生協ワーキンググループ」がそれにあたりますが、それぞれ大会の中でこれまでの研究成果を報告しています。加えて、まちづくりWGでは3日目のオプショナルツアーの企画運営を行いました。みずしま財団では、両グループの事業の実施や研究成果のとりまとめに協力するとともに、まちづくりWGではその事務局を担い、大会終了後も人材育成や公害経験の継承を通じたまちづくりの実施体制づくりに取り組んでいます。
後者の「人と人、組織と組織をつなぐ役割」には、「まちづくりをめざす協働の推進」、「市民参加パートナー育成」が含まれています。地元商店街などと協働して地域の再生事業に取り組んだり、倉敷市の環境行政について市民と市の担当部課が懇談を行える場を設定しています。また、講座の開催を通じて、中四国の環境NGOの活動発展に取り組みました。
② 公害経験の継承と被害者支援
−医療の研究グループの活動に協力−
ここには、「資料保存・活用」と「公害患者のQOL・ADLの維持向上」が含まれています。昨年度に引き続き、包括的呼吸リハビリテーションや調査、公害死亡患者の剖検例の研究などに協力をしています。また、倉敷公害訴訟の和解が成立した12月にあわせ、患者さんが咳などを気にせず楽しめるコンサート&講演会を行いました。
③ 公害・環境学習
−プログラムのパッケージ化と実施体制の検討−
ここには、「プログラムのパッケージ化」と「講座の開催」が含まれています。今年度は、これまで行ってきたプログラムを整理するとともに、パッケージ化し、利用しやすい形態や情報発信の方法を検討しています。中でも新規のものとして、「アマモ場」、「フードマイレージ買い物ゲーム」に関するプログラムのパッケージ化に積極的に取り組み、その実施体制を検討しています。
④ 情報収集・発信
−紙・電子・マスコミなど多様な媒体を活用−
年6回の「みずしま財団たより」の発行、ホームページ、地元コミュニティFMでの毎週1回の約10分間の番組などを通じて、みずしま財団の活動や公害・環境問題についての情報発信を行っています。
また、地域の環境やまちづくりをテーマに活動する団体と連携したり、ネットワーク組織(GREENDAYや倉敷まちづくりネットワークなど)や地球温暖化対策地域協議会などに積極的に参加するなどして活動を進めています。
4. おわりに
−2009年度のみずしま財団−
2010年3月14日には財団設立10周年を迎えることになるため、2009年度はこれまでの事業の成果を評価し、新たな展開を展望する非常に重要な年度になります。今年度、日本環境会議水島大会を開催する過程で、構築された環境再生・まちづくりに取り組む体制を大会終了後も先細りさせることなく、継続・発展させる必要があります。その中で、みずしま財団はコーディネーターの役割が期待されており、財団自体が持続可能な組織でなくてはなりません。今年度、みずしま財団では役員、事務局員が一体となって、厳しい財政難と公益法人改革という課題を乗り越えるために、組織と事業のあり方を検討する体制が構築され、持続可能な組織運営についての議論が端緒につきました。2009年度は喫緊の課題に短期的に取り組みつつ、10周年を迎え長期的な視点を持って事業を展開することが求められています。引き続き皆様のご指導、ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願いいたします。