【2】 各地裁判のたたかいの報告(大気汚染)
〔5〕 東京大気汚染公害裁判・全面解決と今後のたたかい
東京大気汚染公害裁判弁護団
弁護士 原 希世巳
1 全面解決から新たなたたかいへ
東京大気裁判は2007年8月8日、骨子下記のような内容を勝ち取って全面解決した。
【和解条項の骨子】
1 ぜん息医療費を全額助成する救済制度を創設(東京都)。被告らが財源200億円を拠出。
2 微小粒子状物質(PM2.5)について、専門家による検討会の結論をふまえて環境基準の設定も含めて検討(環境省)。
3 以下の公害対策を約束(国、東京都、首都高)
① 大型貨物車の都心部乗り入れ規制の拡大。
② 中央環状品川線に脱硝装置の設置(首都高)。
③ 道路緑化の推進(10カ所を具体的に約束)
④ 大和町など「激甚交差点」に効果的対策を検討
⑤ 自転車道の整備を推進。
⑥ 公共交通機関への転換、モーダルシフト、ロードプライシング、交通需要マネジメントなど自動車交通総量の削減対策を一層推進。
4 和解条項の誠実な履行のため「連絡会」を設置して、公開の場で原告団と協議する。
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最大の成果とも言うべきぜん息医療費無料化制度にしても、5年後に見直すものとされており、制度の維持、発展のためにも、また今後和解の趣旨に従って実効性のある公害対策を取らせていくためにも、引き続く大きな運動が求められている。
原告団は2007年12月に臨時総会を開いて、裁判終結後も解散はしないで運動を継続していくこと、メーカーから勝ち取った解決金のうち4億円は今後のたたかいの原資としていくことを決めた。
また従来裁判のたたかいを支援してきた「裁判勝利を目指す実行委員会」は2008年4月、「東京あおぞら連絡会」として改組し、患者とともに和解条項の完全履行を求め、すべての被害者の救済と、東京から大気汚染公害をなくす運動を進めていくことを決めている。
2 被害者救済制度の恒久化、拡充を目指して
東京都の「ぜん息医療費補償制度」が昨年8月から実施された。これは被告らが財源を拠出して、都内に居住するぜん息患者のぜん息医療費を無料にする、画期的なものである。
私たちはこの間、この「無料化」制度を知らせるポスター、リーフ、チラシ、立看板等を普及し、「ぜん息110番」等の活動を進めた。また保険医協会を通じて開業医への周知活動、主要病院への要請行動、駅頭や病院前での宣伝などに取組み、対象となる患者さんはすべて救済させることを目指して運動に取り組んだ。
また昨年春から東京民医連の60カ所以上の病院、診療所に弁護団と原告が足を運んで学習会を行い、主要な病院、診療所では病院のスタッフと連携して待合室にコーナーを作ったり、説明会を開いたりして、対象患者さんへの説明と患者会入会を訴えた。現在まで400人以上の患者さんが新たに患者会に入会し、東京公害患者会の会員数は1,000名を超えた。
5年後の制度見直し、さらには慢性気管支炎、肺気腫などの公害病も救済対象疾病に加えていくなど制度の拡充実現に向けて、大きくて力のある患者会組織を作っていくために、今年も引き続き会員拡大、患者会支部活動の確立の運動を進めてゆく。
3 首都圏、そして全国へ、医療費救済制度を
患者会へは多くのぜん息患者から「入院すれば月10万円以上。通院でも点滴1本で1万円。それがタダなんてホントに助かります」などと喜びの声が寄せられている。「皆さんの運動のおかげです」と入会してくる患者も多い。
他方、救済の対象外となった近県在住の患者の矛盾は大きい。昨年は埼玉と千葉に弁護団と原告団が足を運び、相談会や対県交渉などを行った。そして各県でぜん息救済制度を実現させるための連絡会の準備会が結成され、患者と支援者が一帯になった運動が立ち上がろうとしている。
首都圏で救済制度を確立していくことは東京の制度の維持、発展のためにも重要な課題であり、この点も重視して進めてゆきたい。
4 正念場の微小粒子(PM2.5)環境基準設定問題
PM2.5の環境基準設定問題は別途大気連から報告されるので、詳細は割愛するが、私たちにとって「PM2.5環境基準の検討」は和解での約束事であるので、何が何でも欧米並みの厳しい環境基準を実現させたいとの思いで運動を進めている。
今後は最終盤に向けて、地域からの宣伝などの運動的な取り組みも検討してゆきたい。
5 道路公害対策を迫る運動
昨年8月7日、和解条項に基づく第1回道路連絡会が行われた。そこではわずかに警視庁(東京都)が、大型車の通行規制拡大の検討のため交通量調査を行った他は、国も東京都も和解条項で約束した公害対策については何も行っていない、まともに検討もしていないことが明らかになった。
本年1月に準備会として実質的に2回目の協議行われた。そこではまず足立区を突破口に、各地域で練り上げられた、公害対策、まちづくりの要求をぶつけ、具体的な対策を迫った。今後、和解条項で約束した事項を中心にしながら、繰り返し協議の場を作らせて、各地域の様々な課題を取り上げて、要求運動を強めていきたい。
また昨年10月にはあおぞら連絡会の呼びかけで、市民フォーラムを行った。環境・まちづくりのために活動している研究者や様々な市民団体と連携して、活動のウィングを大きく広げながら、環境対策、まちづくりの世論を広げていく取り組みの第一歩となった。今後この分野の運動も進めていく予定である。