千葉県の産業廃棄物最終処分場
差止と許可取消の勝訴判決
弁護士 福田光宏
2007年は、千葉県内房の富津市及び九十九里の旭市の住民が求めていたゴミ処分場建設禁止の訴訟に関し、いずれも勝訴判決があったので報告する。
1 富津田倉処分場に関する高裁勝訴判決
富津市のマザー牧場から約1km南の沢筋に、1987(昭和62)年ころから、安定型の産廃最終処分場建設が計画され、被告業者は、1995年千葉県知事に対し、設置許可申請を行い、1998年設置が許可された。
処分場の規模・構造は、埋め立て地面積48,277平方メートル、埋立容量977,703立方メートルで、多少掘り下げた素堀の穴を埋立区域とするものである。
環境汚染を憂慮した付近住民は、建設反対の運動を起こしたが、業者側も切り崩し工作をするなど、地域がぎくしゃくすることとなった。
その後、千葉県知事は、被告業者が許可に付された条件を履行しないで着工したことを理由に、1999(平成11)年、設置許可を取り消した。
これに対し、被告業者が行政不服審査請求をしたところ、当時の厚生省は、2000年3月、不当にも取消処分を取り消す旨の裁決をしたので、はじめの設置許可が生き返って、工事が進められることとなってしまった。
住民は、2001(平成13)年、千葉地裁に建設差止の仮処分を申請し(債権者247名)、翌2002年2月18日、債権者中七名について差止勝訴の決定(平成13年(ヨ)第79号)がなされ、同年、千葉地裁木更津支部へ本訴が提起された(千葉地裁木更津支部平成14年(ワ)第66号、平成15年(ワ)第155号、原告141名)。
2005(平成17)年5月12日、木更津支部において住民勝訴(七名の原告について)の判決がなされ、敗訴原告中87名と被告双方が控訴し、東京高裁において、2007(平成19)年11月28日、いずれも控訴棄却となったため、一審勝訴原告五名(一審勝訴原告中二人が取り下げた)に対し勝訴が維持されることとなった。
現在、被告業者が上告中である。
争点は、他の処分場と同様で、地下水が汚染されるか否か、汚染水が住民の井戸に到達するか、簡易水道等の浄水設備があれば設置が許容されるのか等であるが、岩盤が一見堅固で安定しているように見えるため、被告業者が地下水汚染は起こらないと主張し、これも大きな論点となったが、地質学者の協力を得て、割れ目があり得るし、地質構造からして地下水汚染の可能性があることについて主張立証出来た。
本件は、知事の許可処分の取り消しは求めていないが、次項に述べる海上事件と同じく知事の許可処分が取り消されたに等しく、ことに厚生省の罪は、とくに責められなければならない。
2 旭市海上の処分場に関する勝訴判決
本件処分場は、銚子市、旭市及び東庄町の境界付近で北総台地の中央の沢筋に計画されたもので、被告業者は、1988(昭和63)年、知事に対し処分場建設についての事前協議書を提出したが、関係市町はすべて建設反対の意思を表明した。
その後、処分場に溜まる汚水の処理等について調整が続けられ、被告業者は、1998(平成10)年、千葉県に対し、全ての汚染水を蒸発散させるので外部へは放流しない旨を回答した。
同年、海上町(旭市への合併前)および銚子市の各議会で、建設反対の意見書を議決したが、被告業者は同年6月、千葉県に対し設置許可申請を行った。同年8月、海上町が本件処分場建設の是非を問う住民投票を行ったところ、投票率は、約87.3%であり、反対票がそのうちの約97.6%を占めた千葉県知事は、1999(平成11)年4月、被告業者の計画した蒸発散装置は、蒸発量を過大に評価するなどして、性能に問題があることを理由に、上記許可申請を不許可にした。
ところが本件でも被告業者が行政不服審査をしたところ、当時の厚生省は、2000(平成12)年3月、不許可処分を取り消すとの裁決をした。
その後、県知事は、平成13年3月1日、被告業者に対し、遮水シートや遮水工等に関し一定の条件を付して設置を許可した。
処分場計画が発覚してから関係住民は、産廃反対東総住民連絡会を結成し、反対運動を展開し、県知事が不許可にした時には、大いに運動が盛り上がったが、厚生省の不当な取消裁決、それに続く県知事の許可という事態に、裁判もせざるを得ないこととなり、2001(平成13)年5月、中心メンバーの住民7名が、弁護士も付かないまま、千葉地裁に知事の許可処分取消の行政訴訟を提起した。
その後、現在の弁護団が結成され、行政訴訟を遂行しながら、仮処分と本訴を提起した。仮処分は敗訴したが、決定に附言として、工事をするにあたって守るべき条件のようなものが多数付されており、裁判所も住民を敗訴させるのは気が引けたと思われるものだった。
2003(平成15)年本訴(原告100名、平成15年(ワ)第2419号)提起、2007(平成19)年1月31日勝訴判決(勝訴原告26名)。
行政訴訟の方は、2007(平成19年)8月21日、原告7名中2名について勝訴の判決が下された。
被告業者と千葉県は、いずれも控訴した。
本件は、構造上の危険性や立地の不適性という処分場事件の共通問題の他に、被告業者の財務状態が処分場業者にふさわしいか否かが問題とされ、借金まみれであると言うことの立証に成功し、これが決定的な理由となって、本訴も行訴も勝訴したと言って良い。
3 環境訴訟の課題
各訴訟から言えることをいくつかあげたい。
上記いずれの訴訟でも、勝訴原告の数が少ないから、これらの人が移転したり、取り下げると、せっかく勝訴しても、訴訟を継続できなくなってしまうことである。団体訴権のような制度がほしい。
裁判所は、旧厚生省が、いずれの事案でも、不当なことをしたと認定したのであって、ローカル性の強い環境問題に関しては、当該自治体に最終判断権を認め、省庁を関与させるべきではなく、不服は環境裁判所のような所で審理でやってほしい。