和解内容と今後のたたかい
弁護士 西村隆雄
はじめに
今回かちとった勝利和解の内容は,大きく分けて(1)医療費助成制度の創設,(2)公害対策の実施,(3)連絡会の設置,(4)解決金の支払いとなっている。
このそれぞれについての内容を評価をまじえて紹介しつつ,今後のたたかいの課題についても言及したい。
1, 医療費助成制度の創設
本和解の最大のポイントが,この東京都の医療費助成制度の創設であり,これを裁判の和解の中でかちとったことが画期的であり,大きな注目を集めるところとなっている。
都内全域に居住する気管支ぜん息患者を対象に,全年齢・収入制限等一切なしに,医療費の自己負担分全額を助成するというもので,600名強の原告がおこした裁判の和解で,東京全域の数十万人とも言われる被害者の救済をかちとった点で大変大きな成果と評価することができる。
財源は5年間で200億円と試算し,これを東京都のみならず,国,首都高速道路会社,自動車メーカー7社が負担することとし,具体的には,国が公害健康被害予防基金から60億円を拠出し,首都高会社も5億円,自動車メーカー7社で33億円を拠出することとなっている。大阪西淀川,川崎,尼崎,名古屋南部の先行4訴訟の和解では,頑として被害救済への負担を拒否し続けてきた国,首都高からの拠出をかちとった点も,大きな意義を有している。
なお制度創設後5年時点で,制度見直しがうたわれている。国の救済制度創設の動向をふまえることなどを想定したものであるが,これを念頭において,新たに救済を受ける被害者を多数,患者会に組織して,たたかいを展開していく必要がある。
すなわち,判決で5連敗してきた国に対して,全国的な取組みの中で,まずもって国のレベルでの医療費救済制度をかちとり,さらには公健法並みの生活補償を含めた全面的な救済制度をかちとっていくことが求められている。そしてこれとあわせて,東京都に対して,気管支ぜん息以外の慢性気管支炎,肺気腫への病名拡大など制度の充実・強化を求めてたたかう必要がある。
2, 公害対策の実施
先行4訴訟の到達点をふまえて,環境基準のすみやかな達成のため,本件地域の交通負荷の軽減をはかるための公害対策の実施をかちとることができた。
国との関係でまず大きいのが,PM2.5(微小粒子)について,環境基準の設定も含めて検討するとの条項を獲得し,PM2.5環境基準設定に向けて大きな前進をかちとった点である。
あわせて全ての国設大気汚染測定局で,PM 2.5の測定実施を約束させ,さらに国,首都高(道路管理者)において測定局の増設を約束させた点も評価できる。
一方,国は,圏央道をはじめとした3環状の整備が,渋滞解消=公害対策の特効薬であると主張して,これを和解条項に盛り込むべく画策してきたが,原告側は,断固拒否して決裂も辞さずの姿勢でたたかって,これを全てドロップさせることに成功した。
さらに東京都との関係では,大型貨物自動車の走行規制として,都心部の走行禁止規制について総合的に検討することを約束させ,騒音対策で現在実施されている「土曜深夜,環七内側」の走行規制の拡大の方向をかちとったことが注目される。PM2.5に関し,東京都においても常時設定局を拡大していくこともかちとっている。
3, 連絡会の設置
先行4訴訟の経験をふまえ,今後に向けた協議機関として「連絡会」を設置することとなった。
東京では,従来の公害対策に関する連絡会とあわせて,医療費助成制度に関する連絡会の設置をかちとった。
公害対策をめぐっては,東京のたたかいの原動力となってきた地域連絡会の活動をさらに発展させることも含めて,これまで以上に幅広い取組みの中で,連絡会を活用しながら,さらなる前進をかちとっていくことが求められている。
あわせて,助成制度連絡会も,制度の運用,見直しにつき意見交換を行う場と位置づけながら,制度の充実,強化をはかっていかなければならない。
4, 解決金の支払い
自動車メーカー7社からは,解決金12億円の支払いをかちとった。前述の救済制度財源33億円と合わせると合計45億円となり,被告企業の負担額としては,従来最高の大阪西淀川の39億9000万円を上廻っており,唯一の地裁一次判決でメーカーに敗訴している東京大気としては,大きな成果ということができる。
もちろん長年にわたる労苦と,甚大な被害に対する補償として不十分であることは言うまでもないが,12億円という額は,一次判決の認容水準の約3倍に相当し,何よりも二ケタにのぼる解決金となったことは,自動車メーカーの過去の行為に対する「責任」をふまえた負担であることは,自ずから明らかである。
和解に向けたたたかいの最終盤,メーカーに賠償と謝罪を迫って,原告を先頭に18日間にわたる24時間の座り込みも含む大闘争を開始した。
これに対してトヨタをはじめとするメーカー側は,裁判所の和解案待ちの対応に終始し,謝罪要求についても,今後の同種訴訟の可能性を理由にこれを拒み続けた。原告団は,和解成立に際して被告メーカーが最後までこうした対応に終始したことを胸に刻んで,今後とも運動の中で自動車メーカーの責任を追及していく決意を固めている。