【若手弁護士奮戦記】
諫干農地リース問題をめぐる住民訴訟に参加して

弁護士 中原昌孝

1  有明弁護団に参加するきっかけ
 平成17年10月に弁護士登録をしたが、集団訴訟への漠然とした興味がありつつも、参加できずにいた。そのような中、有明弁護団(よみがえれ!有明訴訟弁護団)の吉野隆二郎弁護士から「興味があるなら参加してみないか」という誘いを受けて、何の迷いもなく、平成18年2月に有明弁護団に加わった。
 もともと、長崎県の出身であったことから、諫早湾干拓をめぐる同訴訟には関心が高かったが、何よりも、司法修習生時代の勉強会において、平成16年8月26日の佐賀地裁での仮処分命令に関する講演を聞いた際に、大型公共工事にストップをかけたという前代未聞の事件に大きな衝撃を受けていたこともあり、私にとっては、有明弁護団の一員となり、この問題に携わることができることは、大きな喜びであった。
2  諫干農地リース問題をめぐる住民訴訟
 私が有明弁護団に参加したころ、ちょうど、諫早湾干拓地リース問題に関して、公金支出差止め等を求める住民訴訟の提訴に向けての準備を始めることになり、幸運にも、私もこれに携わることができた。
 この住民訴訟は、有明海沿岸4県の漁民たちが漁業行使権に基づき干拓工事の差止め等を求めている佐賀地裁での裁判とは別に、土地改良法に基づく国営諫早湾干拓事業において国が造成された農地を配分するにあたり、本来は、農業者が自己の費用負担で干拓農地の配分を受けるという大原則を無視して、長崎県の100%出資団体である財団法人長崎県農業振興公社が一括配分を受けた上で、農業者に対してリースするという方式を行うに際して、長崎県が50数億円もの資金を投じて、その一括配分を受ける費用を負担しようという公金支出に対して、長崎県民である原告らがその差止めを求めたものであった。
 この住民訴訟においては、財団法人長崎県農業振興公社が一括配分を受けることが土地改良法等の違反であること、また、当該公金支出が「最小の経費で最大の効果」という地方自治法等の違反であることを訴えている。そして、私も、後者の点に関して、全国の干拓地の営農の状況に関する調査を行うという担当を任されることになり、干拓地関連の文献等の調査を行い、また、鳥取・島根県の中海干拓地や石川県の河北潟干拓地などの実際の干拓地の視察を行った。
 そのような調査を通じて、全国の干拓地の営農の状況が決して成功と呼べるような状況ではないことを知り、諫早湾干拓地でのリース方式の導入と長崎県の公金支出が、諫早湾干拓地での営農が立ち行かない事態を回避するためのものであるという確信を得ることができた。
3  長崎地裁での意見陳述
 そして、平成18年12月25日の期日で、全国の干拓地での営農の状況に関する調査を踏まえて、意見陳述を担当することになった。
 私にとって、意見陳述は、弁護士になって初めての経験であり、緊張して法廷に臨んだが、原告らは、毎回の期日において、財政難である長崎県における県民の福祉・教育などの暮らしの窮状を訴える意見陳述を行っており、そのような原告の方々の真剣な訴えに恥じない意見陳述をしなければならないと、自らを奮い立たせた。また、傍聴席を埋め尽くす原告らの存在には、大いに勇気付けられた。そして、「過去の干拓地において営農が成功したという事例が存在しないことから、当該公金支出は諫早湾干拓地でも同様の事態に陥ることを隠蔽するためのものである」、ということを訴え、無事に陳述を終えることができた。
4  住民訴訟の勝利へ向けて
 その後も、長崎地裁での住民訴訟においては、準備書面の作成などを担当させてもらっているが、有明弁護団では、早期結審及び勝訴判決を目指した戦いが続いている。この住民訴訟において、裁判所が違法な公金支出にストップをかけることにより、長崎県民の福祉と教育などの暮らしが守られること、さらに、諫早湾干拓事業が無駄で有害な事業であることが明らかにされることにより、諫早湾干拓事業の見直しを迫り、有明海の再生に繋がっていくことを切望している。そのためにも、有明弁護団の一員として、更なる努力に励みたい。