圏央道あきる野土地収用事件
最高裁での不当な決定と裁判闘争の集結

弁護士 吉田健一

1  最高裁の不当決定
 最高裁(第二小法廷・津野修裁判長)は、2007年4月13日、土地収用を受けた住民らの上告を棄却し、かつ上告審として受理しないことを決定し、法廷も開かずに決定書を住民代理人あてに突如送付してきた。
 あきる野土地収用事件では、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)建設のために、長年居住してきた住民らの土地を取り上げる土地収用手続きの違法性を争い、事業認定及び収用裁決の取消を求めてきた。
 残念ながら、今回の最高裁決定により、裁判所をめぐるたたかいは終了することとなった。これまでの皆さんのご支援に感謝しつつ、最高裁判所の決定の不当性について述べることにする。
2  画期的な一審勝訴の判決を否定した高裁、最高裁
 04年4月22日の東地裁民事3部(藤山雅行裁判長)判決は、本件土地収用手続について、騒音や大気汚染など公害を発生させる危険のある道路を建設するための強制収用であり、そのような土地収用は、土地収用法上予定されておらず、同法が適用されないとして、違法であると判断し、国土交通大臣の事業認定も、東京都収用委員会の収用裁決も、いずれも取り消すよう命じた。さらに公害を発生させる危険のある事業であることに加えて、混雑緩和という道路建設の目的や1・9キロメートルに2つのインターチェンジを設定する必要性などについても疑問を提示し、そもそも同法における「適性かつ合理的な土地利用」という要件も具備しないものであることも明らかにした。
 しかし、高裁での審理では行政側からの具体的な立証がほとんどされなかったにもかかわらず、06年2月23日、東京高裁民事24部(大喜多啓光裁判長)の判決は、行政側の控訴を容認し、東京地裁判決を覆してしまった。
 最高裁は、この高裁判決の誤りをただすよう求めた住民側の上告及び上告受理の申立を拒否し、東京地裁での画期的な判断すらも、重ねて否定してしまったのである。
3  憲法及び重要な判断を回避した最高裁
 本件での土地収用手続きの適否は、土地収用法の解釈やそれをめぐる判例の適用についての判断が求められる。それだけでなく、強制的な収用手続きは、憲法29条で保障する財産権や憲法22条の居住の自由をいずれも侵害することになる。公共事業のためにそれが許容されるかどうかという土地収用の適否は、必然的に憲法上保障された権利をめぐる議論に及ぶ。
 少なくとも、このような本件の争点に対して、充分な検討を加え、実質的に判断するのが人権保障の最後の砦である最高裁判所の役割でなければならない。
 ところが、今回の最高裁の決定は、一片の書類により、しかも何らの理由も示さないまま、本件の争点について実質的な審理の対象にすらしないことを明らかにした。これは、最高裁の役割、司法の任務を放棄し、行政の施策に追随する姿勢を示したものといわざるを得ない。のみならず、この最高裁決定は、必要のない道路づくりを安易に認めて無駄な公共事業を放置し、他方で大気汚染や騒音問題など激化する道路公害とそのために生ずる悲惨な健康被害を容認することになる。
 私たちは、このような最高裁決定を断じて許すことはできない。
4  住民のたたかい
 圏央道牛沼地域での住民のたたかいは、1984年、この地域で圏央道の建設計画が突然知らされてから20年以上にわたって、取り組まれてきた。道路建設予定地には、江戸時代から代々続いてきた旧家も存在し、収用の対象となった。その屋敷の庭では7世紀につくられたという古墳も発見された。
 圏央道の建設については、トンネルを掘って進められる高尾山の地域での反対運動と連動して、牛沼地域でも、住民の生活や自然環境、文化遺産を守るために、支援の活動が広がった。行政に対しても、さまざまな取り組みが進められた。
 そして、道路建設予定地の地主と共同したたたかいを進めるため、100名を超える人たちが土地の賃借権を設定し、収用手続や訴訟でも、当事者として参加することとなった。裁判では「牛沼土地収用反対裁判を支える会」が組織され、たたかいを進めた。
 土地収用手続は、2000年に事業認定の申請が出されて、具体化された。
 私たちは、事業認定が出され、収用委員会への収用裁決申立がされようとしていた2000年の段階で弁護団を編成し、住民とともに、収用委員会での審理、事業認定・収用裁決取消の訴訟など収用手続を許さない取り組みを進めてきた。収用裁決の執行についても、土地収用の違法性を認めた前述の東京地裁の取消判決に先立って、03年10月3日、これを停止する画期的な決定を勝ち取って、道路建設工事を一時ストップさせることができた。この執行停止についても最終的には高裁、最高裁で否定されてしまったが、執行停止をめぐる審理を通じて、工事を一部変更させ、七世紀につくられた古墳が残されることとなった。
 しかし、全体としては、土地収用、豊かな自然を破壊して建設工事が進められ、秋川流域ののどかな田園風景のなかに異様な圏央道、インターチェンジがすでに開設されている。この圏央道によって、周辺の住民は、騒音や大気汚染の被害にさらされている。
 住民のたたかいは、無駄な公共事業、環境破壊と道路公害に反対して、引き続き進められようとしている。