カネミ油症事件
「仮払金返還債権免除特例法」についての報告

カネミ油症事件弁護団
弁護士 高木健康

 6月1日、「カネミ油症事件関係仮払金返還債権の免除についての特例に関する法律」が成立した。この法律は、仮払金返還問題に苦しんできたカネミ油症被害者にとって大きな救いとなった。
 カネミ油症事件は1968(昭和43年)に西日本で起きた食品中毒・食品公害事件です。カネミ倉庫が製造・販売した「米ぬか油(カネミライスオイル)」を食べたことにより、被害者は全身の吹き出物や極度の疲労感など多くの症状に苦しみ、黒い赤ちゃんが生れるなどの深刻な被害も発生した。被害者の症状は全身におよび、医師は「油症症状は病気のデパート」と言うほどです。
 カネミ油症事件については、1970年からカネミ倉庫、カネカ(PCB製造企業)、国に対する訴訟を戦った。1984年には福岡高等裁判所で国の責任を認める判決を勝ち取ったが、その後、国の責任を否定する判決が出るなどしたため、1987年に最高裁判所でカネカとの和解と国に対する訴訟の取り下げで訴訟を終えた。
 その後、訴訟の中で仮執行により国から損害金を取っていた第一陣と第三陣の原告に対して、国は仮執行金の返還を要求してきた。しかし、被害者は仮執行金をそれまでの借金の支払いや生活費に使用しており、大多数の原告は仮執行金を返還するなどできないことであった。
 「国の債権の管理等に関する法律」では、債務者が無資力またはこれに近い状態にあるときには履行の延期をすることができ、履行延期から10年を経過した後も無資力で弁済できる見込みがないときには免除できるとなっている。原告団と弁護団は、この条文を根拠に、履行延期をしてできる限り多くの免除を受けようと考えてきた。しかし、免除となるための条件には厳しい基準があり、この法律では多くの原告について免除をさせることは困難と思われた。
 一方、カネミ油症をダイオキシン被害として被害者の救済に取り組んできた「カネミ油症被害者支援センター」の働きかけで、一昨年の日弁連への人権救済申立や昨年4月の「カネミ油症全被害者集会」が取り組まれ、国会議員に対する被害者救済の要求運動も大きくなった。そして、与党の中にカネミ油症被害者救済のためのプロジェクトチームが作られ、仮払金免除を含む被害者救済の方法が検討された。
 その結果、本年4月に与党プロジェクトチームにより「カネミ油症被害者救済対策」が作成された。その内容は、「(1)仮払金免除のための特別立法を作る (2)カネミ油症患者の健康調査をし患者一人に20万円の調査協力金を支払う (3)カネミ倉庫が責任を取るよう強く勧告する」と言うものです。これに基き、5月24日に、衆議院農水委員会で仮払金免除特別法案が審議され、全会一致で可決。その後、5月25日衆議院本会議、31日参議院農水委員会、6月1日参議院本会議でそれぞれ全会一致で可決され成立した。
 成立した法律は、債権管理法の基準をカネミ油症被害者に対し特別に緩和して免除し易いようにする特別法です。収入の基準が四人世帯で税金と社会保険料を引いた収入が1000万円未満や資産の基準では居住用の不動産の評価額が2850万円未満など、大幅に緩和されている。これにより、原告のほとんど全員が免除されると思われる。
 今回の仮払金免除特例法によって、被害者が抱えてきた仮執行金返還問題は、ほぼ解決することとなった。しかし、カネミ油症被害者が抱えている問題は解決したわけではない。
 カネミ油症は当初考えられていたPCBだけでなくPCDFなどのダイオキシン類も原因であることが正式に認められている。しかし、被害者には年に1回の検診がなされるだけで、被害の実態調査などはなされていない。39年を経た現在でも続く症状は被害者を苦しめているだけでなく、直接米ぬか油を食べていない二世や三世にも異常が現れており、大きな不安が広がっている。さらに未認定被害者や新認定被害者の救済問題なども残っている。
 一方で、与野党の国会議員により「カネミ油症被害者救済の行方を見守る」議員連盟が作られた。今後も、カネミ油症被害者が見捨てられる事がないよう、運動を続けていく必要がある。
 多くの皆さんのご協力をお願いします。
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※ 本紙で写真に誤りがありました。謹んでお詫び申し上げます。