「ノーモア・ミナマタ近畿訴訟」にご支援を!
ノーモア・ミナマタ近畿訴訟弁護団
事務局長 弁護士 井奥圭介
1 水俣病については、1996年に患者一人当たり260万円という一時金の支払いを内容とするいわゆる政治解決がなされた後、あくまで司法での判断を求めた関西訴訟の原告について、2001年4月27日に大阪高裁は複数の症状の組み合わせを水俣病認定の条件とする行政の認定審査基準を排斥し感覚障害だけで水俣病と認める判決を下し、同年10月15日に最高裁はこの大阪高裁判決を支持する判決を下した。
そこで、水俣病患者はこれで行政の認定基準が緩やかで妥当なものに改められるものと期待したが、国は判断基準の見直しを固く拒んだ。
そこで、水俣病患者は、2005年10月3日に、50名が原告となり、水俣病の最終解決を求めて、国、熊本県とチッソを相手取り、熊本地裁に損害賠償請求訴訟を提訴した。これが「ノーモア・ミナマタ訴訟」である。この「ノーモア・ミナマタ訴訟」は現在までに15次にわたって提訴され、原告数は合計1746名にのぼっている。そして、審理の方も、原告側申請の医師の尋問がほぼ終わり、大詰めを迎えようとしている。
2 しかし、この訴訟が熊本地裁だけで行われていることには、大きく二つの問題があった。一つは、高度経済成長期を通じて、水俣病の発生地域からも、多くの住民が大阪や名古屋などの大都市に出ていき、その中には水俣病の患者もいたが、それらの患者がこの訴訟に加わるためにはわざわざ熊本まで足を運ばなければならず、患者にとっては大きな負担となるという問題、もう一つは、この水俣病の最終解決のためには広く国民全体の支援が必要であるが、熊本だけで訴訟をしていたのでは世論喚起に限界があるという問題であった。
そこで、ノーモア・ミナマタ訴訟の原告によって組織されている不知火患者会や弁護団の間では、かねてより、他の地域でも同様の訴訟を起こすことの必要性が指摘されていたが、まずは、水俣病地域からの移住者が多く、また数々の公害訴訟がたたかわれた歴史のある近畿地区に白羽の矢が立った。
3 その動きは医療の分野が先行し、大阪民主医療機関連合会に加入している病院の医師が中心となって、近畿地区に在住する水俣病患者を対象とする検診が続けられ、その中から提訴を希望する患者がリストアップされていった。
一方、訴訟を担う弁護団については、熊本訴訟の弁護団から、公弁連等のネットワークを通じて、大阪西淀川大気汚染公害訴訟弁護団のメンバーに協力要請があり、それが核となって弁護団が作られていった。
そして、本年2月27日に、近畿地方を中心とする地域に居住する12名の患者が原告となって大阪地裁に提訴した。これが、「ノーモア・ミナマタ近畿訴訟」である。原告については、熊本同様、これから数次の追加提訴を予定している。
4 この「ノーモア・ミナマタ近畿訴訟」には、前記の二つの問題の克服に加えて、次の二点の課題がある。
一つは、本年3月上旬に、与党から水俣病特別措置法案が衆議院に提出された。しかし、この法案は、加害者である国が救済の対象となる患者を選定する行政認定の誤りを繰り返し、3人に2人を切り捨てた上、補償額も低位にとどめようとする一方、原因企業チッソを水俣病患者への賠償義務を負担する親会社と液晶事業等を引き継ぐ子会社に分けてその免責を図ろうとする分社化や、水俣病認定の窓口を閉ざす公害地域指定解除が盛り込まれており、「真の最終解決」とはほど遠いものである。本訴訟により同法案の欺瞞性を明らかにしていきたいと考えている。
もう一つは、現在、水俣病患者に交付されている保健手帳(青い手帳)は、公害健康被害補償法による水俣病に係る認定の申請をしている人や水俣病に関する損害賠償請求をしている患者は交付対象から除外されているが、かかる取扱は水俣病患者の裁判を受ける権利を侵害するもので問題である。本訴訟においては、この問題の是正にも取り組んでいきたいと考えている。
5 「ノーモア・ミナマタ近畿訴訟」は、大阪地方裁判所平成21年(ワ)第2720号事件として第24民事部に係属し、第一回口頭弁論期日が6月23日に指定された。現在、弁護団は、約10名で、上は30期から下は現行61期まで幅広い年齢層となっている。おそらく、平均年齢は熊本弁護団を上回っているものと思われるが、こと水俣病に関しては先輩の熊本弁護団の知識経験を借りながら、ノーモア・ミナマタ近畿訴訟を担い、”公害の原点“と言われる水俣病の最終解決の一助になりたいと考えているので、今後ともご支援をお願いしたい。