【若手弁護士奮戦記】
アスベスト国賠訴訟の証人尋問を体験して
弁護士 山上修平
1 はじめに
私は、60期として弁護士登録をしてから間もなく、大阪じん肺アスベスト弁護団に入りました。私が加入した時、弁護団では、国賠訴訟を提起し、泉南地域を中心とした石綿紡織工場等において石綿被害に遭った原告の救済を求める裁判を進めていました。そこで、私は、国賠訴訟班に入り、国の規制権限不行使の予見可能性に関わる医学的知見(情報)班に参加しました。
定期的にアスベスト国賠訴訟の弁護団会議に参加していたところ、先輩弁護士から医学的知見(情報)に関する専門家証人の尋問について「山上君、主尋問やってみないか」と突然の誘いの言葉を頂きました。まだ弁護士生活1年にも満たなかった私にとって、民事訴訟の証人尋問を経験した回数はわずかに1回だけだったことから、そんな大役を果たせるのか全く自信はありませんでした。しかし、又とない貴重な機会を大切にしたいとの思いや誘っていただいた嬉しさから、私は、戦前の医学的情報に関する部分の主尋問を担当させて頂くことに決めました。
2 証人尋問の事前準備で得た教訓
担当が決まってから尋問期日に向けて、証人作成の意見書や関連する準備書面及び書証の検討を通じて、時間をかけて尋問事項を作成していきました。私としては、尋問の一問一問について、意味づけをしっかりと説明できるように尋問事項の作成を行い、専門家証人の先生との打ち合わせに臨んだつもりでした。しかし、証人の先生と尋問事項について最初に打ち合わせをした際、証人の先生から、尋問内容について「まったく解せない」といった極めて厳しい評価を頂き、到底、証人の先生の納得が得られる尋問事項にはなっていませんでした。さらに、悪いことに、私は、この時、証人の先生を前にして萎縮してしまい、自分の意向をきちんと伝えられなかったとともに、納得して頂けない理由や証人の先生自身の考え等をしっかりと聞き出すことができませんでした。結局、自分の作成した尋問事項は議論の叩き台にもならず、かつ、証人の先生とうまく折り合えないまま、ただ情けない思いだけが残り、打ち合わせが終了しました。
この後、先輩弁護士から「もっと意見書等を基本にして尋問事項を作成してくるように」等の指導を受けて、夜通しで再度一から尋問事項を検討し直し、先輩弁護士達の添削を受けることになりました。この添削を通じて、大幅に修正が加えられましたが、この修正案を見て、初めて専門家証人の尋問事項に対する基本的な考え方が間違っていることにはっと気づかされました。
つまり、私は、証人の意見書を基本にしたとはいえ、準備書面等において主張した事実のみに目が奪われており、それに引きずられる格好で尋問事項を作成していました。そのため、準備書面をなぞった表層的な尋問内容にとどまっていました。
他方、先輩弁護士達の修正案では、準備書面等に引きずられることなく、むしろ、意見書を最大限に深めて生かそうとする尋問内容でした。そのため、修正案の方が奥深く、準備書面で主張した事実により重みを与え、深い意味づけをすることができる内容になっていました。
このような尋問の作成作業を通じて、準備書面も大切ではあるものの、そこに飛びついた尋問事項を作成するのではなく、まずは、知識豊富な専門家証人が書かれた「意見書」をどう深めていくかを徹底して追求していくことが大切であることを痛感しました。
この段階になって先輩弁護士が指摘した「意見書を基本に」との意味をようやく理解することができました。そのおかげで、その後の打ち合わせは、順調にいき、先輩弁護士達が修正して頂いた尋問事項に専門家証人の先生も納得して頂けました。
3 証人尋問本番で得た教訓
納得のいく尋問事項が出来上がると、今度は本番でうまく証人から証言を引き出すことが出来るのか、特に、証人から必要な証言を引き出すとともに、無駄な尋問を省いて尋問時間を大幅に超過しないようにできるのかが不安でした。
この不安を除去するため、せめて、落ち着いて(1)専門家証人の証言内容を聞き逃さず、(2)時計や裁判官の様子等周囲を見渡せるようにしようと心に決めて尋問に挑みました。
いざ自分の尋問が始まり、心に決めた(1)(2)を実践することはできたものの、準備した尋問事項に忠実になりすぎるあまり、尋問が棒読み状態になってしまいました。そのため、裁判官や傍聴人等周囲の様子を見ても、目をとろんとさせて眠そうにしている人が多いことに気づき、「これは、まずい」と思いました。そこで、なんとか臨場感のある尋問をしようと試みましたが、思い通りにはなかなかいきませんでした。この時の経験を通じて、尋問事項をしっかりと準備することは大切であるものの、それに依拠しすぎるとかえって危険であることを学びました。
4 まとめ
自分としては反省の多い内容でしたが、先輩弁護士からねぎらいの言葉を頂き、また、証人の先生が証言後満足そうにしていたという話を聞いて、「無事に終わった」というほっとした安堵感を味わうことができました。
今回の証人尋問を担当したことで、尋問事項の作成等について多くを学ぶことができ、非常に貴重な経験をすることができました。今後ともこの経験を生かし、泉南アスベスト国賠訴訟の勝訴に向けて少しでも貢献できるように頑張っていきたいと思います。