和解から1年・東京大気裁判のたたかい

東京大気汚染公害裁判弁護団
弁護士 西村隆雄

はじめに

 東京大気裁判は、さる8月8日で和解成立から1周年を迎えた。1周年前日の8月7日には、国・首都高・都を相手に和解条項に基づく「連絡会」が開催され、はからずも、灼熱の太陽の下、汗まみれになって和解成立に向け奔走していた昨夏のことが鮮明によみがえるところとなった。今日に至るこの1年間は、和解成立から1日たりとも休むことなく走り続けてきた1年間であった。
 これを振り返って、現在の到達点を報告したい。

1  医療費救済制度
 和解条項でかちとった最大の成果である医療費救済制度。これは都・メーカー・国・首都高の負担で、都内在住の全てのぜん息患者の医療費を全額補償するという全国初の画期的な内容である。
 この間、条例制定から具体的な制度実施に至るまで、繰り返し東京都との間で「準備会」を開催して要求、検討を積み重ね、本年5月から事前の申請受付・審査の開始、そしていよいよ本年8月1日から医療費救済がスタートした。「これまで、入院すれば数万から10万円、通院1日で数千円から1万円近くかかっていたのが無料になって本当に助かった」など、よろこびの声が多数、患者会に寄せられている。
 原告団・患者会とこれを支えるあおぞら連絡会は、一人でも多くの患者さんがこの救済を受けられるようにと、この間、粘り強い活動を展開してきた。
 「無料化」を知らせる、ポスター、リーフさらには立看板を大量に普及。とりわけ東京民医連とは定期協議を行ってガッチリとスクラムを組んで、各院所での相談コーナー、申請説明会をくり返し開催するなど精力的な活動を展開。その一方で東京保険医協会の協力を得て開業医の先生を通じての周知活動、東京士連をはじめ民主団体での宣伝、さらには駅頭宣伝、主要病院申入れ、宣伝、区市あるいは各医師会への申入れなどに取組み、マスコミでも大きく報道された「ぜん息110番」運動も旺盛に展開してきた。
 この結果、この間3ヶ月間の事前申請期間だけで、全都で13、693名の申請が受理され、これと併行して進められた患者会拡大の取組みの結果、この間だけで新たに356名を患者会に迎え入れ、患者会総数で1、000名に迫るという大きな前進をかちとることができた。
 しかしながら、一方で、東京都(行政側)での周知措置は不十分のそしりを免れず、条例制定時の試算では7万7000人の申請を見込んでいたのに対し、前述のとおり申請者はその五分の一にも満たない数に止まっており、今後の飛躍的な周知措置の強化が求められるところとなっている。

2  PM2.5環境基準
 近年SPM濃度は低下傾向をみせているが、その中でもより微小な粒子であるPM2.5の健康影響が世界的にも注目されており、米国、WHO、EUで次々と環境基準を設定ないし強化する動きが相ついでいた。これをふまえて東京大気和解では、「PM2.5の環境基準設定も含めて対応につき検討する」との和解条項をかちとっていた。
 この点についても、大気全国連に結集して、この間、精力的な活動を展開してきた。
 すなわち、和解成立に先立って、昨年5月、環境省の微小粒子状物質健康影響評価検討会がスタート。これに対し、日本環境会議等のバックアップも得て、本年3月にPM2.5国際シンポジウムを開催したのをはじめ、くり返し環境省前宣伝と交渉を行う中、本年4月に検討会報告が出され、「微小粒子が総体として人びとの健康に一定の影響を与えていることは支持される」とPM2.5の健康影響につき肯定する結論が明記されるところとなった。  そして本年6月、中央環境審議会に専門委員会が設置され、本年11月末までに見込まれる専門委員会報告をふまえて、環境基準設定に向かうかどうかの政治決断が迫られるところとなっており、本年末から来年にかけてが大きな山場になるとみられている。

3  公害対策
 その他の公害対策をめぐっても、和解条項で様々の内容をかちとっており、これを国、首都高、東京都との間の「連絡会」で実施状況、今後の課題をつめていくこととされていた。
 この点でさる8月7日に開催された前述の第1回連絡会では、東京都(警視庁)で大型貨物自動車の走行規制の拡大をめぐって今春に交通量調査が実施されるなど若干の前進が示されたものの、これ以外の激甚交差点、局地汚染対策、道路緑化、自転車道整備、大気測定局の拡充、その他については、国・首都高・東京都とも1年が経過したにもかかわらず、対策の具体化は遅々として進んでおらず、当日の連絡会はこれに対する原告からの怒りと追及のルツボと化した。
 さすがの国(国交省)も、立往生する場面が続出し、結局、再度改めて準備会をもって具体化につき議論することを検討するとともに、局地対策、道路緑化などをめぐって、現地国道事務所との「勉強会」方式(川崎で成果をあげている)を検討することを約束せざるをえなかった。
 今後、患者会支部、地域連絡会がタイアップして地域の実情をつかんで公害対策での要求づくりを地道に行って、これをふまえて対策の具体化を迫っていくことが急務となっている。
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