高尾山天狗裁判裏高尾事業
認定取消控訴審判決
弁護士 松尾文彦
(公害弁連事務局次長)
高尾山と国史跡八王子城跡の貴重な自然と歴史的遺産を守る天狗裁判の裏高尾地域の事業認定取消・収用裁決取消訴訟についての控訴審判決が6月19日に東京高等裁判所で言い渡された。
控訴審に求められたもの
この訴訟は2002年7月に東京地方裁判所に提訴し、原判決は2005年5月31日に言い渡された。そこでは、裏高尾地域の大気汚染・騒音被害の発生の危険性は認めながらも環境基準(騒音に関しては「道路に面する地域」の緩和された環境基準)以下であること、原告らが依頼した環境総合研究所の大気汚染と騒音被害の予測に関する調査に関しては科学性について信頼できないとし、地下水脈の低下の事実はあるが回復していることなどからその影響は大きくないとする一方、国側の主張を引き写すかのように鵜呑みにして、圏央道の公共性(都心の交通渋滞解消・多摩地域の交通渋滞解消・経済発展への寄与など)を認め、原告らの請求を棄却した。また、原告適格に関しては財産権を有しない原告適格を否定し請求を却下した。
これは、行政に対する司法のチェック機能を投げ捨てたものであり、控訴審では、裁判所が、本件事業による被害と「公共性・公益性」とを改めて厳しく吟味することが求められていた。
被害認めるも、棄却ふたたび
しかし、6月19日の控訴審判決は、再び住民らの請求を棄却・却下するものとなった。
判決は、ここでも騒音や大気汚染の被害を認めながら、環境総合研究所の予測は科学性の裏付けがないと否定し、被害は環境基準以下であるとした。また、地下水位の低下がトンネル工事に起因することを認めながら、審理の最終盤で行われた地下水問題での専門家証人尋問(奥西一夫京都大学名誉教授)の結果には全く触れないままに、水位は回復すると国の主張を採用し、さらに、国史跡である八王子城跡の御主殿の滝枯れについても、トンネル工事の影響もありうると認めながら、主としては表流水の影響でトンネル工事そのものの影響は少ないと認定した。原判決をほとんどそのまま踏襲したものであった。
他方、公益性に関しては交通量予測や渋滞解消に関してリンク交通量のデータを国が保存していないことは不可思議で理解できないと指摘した点では控訴人らの主張を反映したが、それでもデータを改ざんしたとまでは言えないとして、結局は国側の公益性・公共性の主張をそのまま認めた。
高尾山と八王子城跡の自然を守るために
控訴審判決を受けて住民らは、高尾山と八王子城跡の自然を守る新たな一歩を踏み出した。
ふたたび司法の行政に対するチェック機能を放棄した控訴審判決に対しては、最高裁判所に上告した。
7月29日には、裏高尾地域で、恒例の天狗集会を成功させ、同地から八王子市内の中心地まで、約8kmのパレードをして、高尾山と八王子城跡を守ろうと沿道の人々に訴えた。
また、天狗裁判としては、本件とともに、高尾山事業認定取消・収用裁決取消訴訟(東京地方裁判所)と民事差止訴訟控訴審(東京高等裁判所)が係属中である。高尾山事業認定取消・収用裁決取消訴訟は、今後、東京都収用委員会における土地収用手続の違法性・不当性に関する問題を中心に審理が進められる。