アスベスト飛散防止対策の徹底を

千代田区まちづくり推進部建築指導課
加藤哲夫

 アスベストは,断熱性,防音性,耐熱性,耐摩擦性,絶縁性に優れており,変形も自在でさらに安価であったために大変多くの建材に使用されてきました。
 わが国では昭和30年代から昭和50年代中ごろまで鉄骨造の耐火被覆材としてアスベストを使用した建物が数多く建築されました。今後これらの建物が大量に解体される時期が到来しようとしています。
 アスベストは,吸引すると肺線維症,肺がんなど悪性中皮腫の原因になるとされています。今後建築物の解体によるアスベストの排出量が2020年から2040年頃にピークを迎え,年間100万トン前後排出が予想され,建築物周辺の住民の健康への影響が懸念されます。
 こうした建物の解体に際しては,アスベストの飛散防止対策を厳格に行わないと,解体工事従事者はもとより,近隣住民がアスベスト粉塵を吸引し,中皮腫や肺がんを発症させる要因となっていることが明らかになっています。
 ところが,現状ではアスベスト飛散防止対策を怠ったり,安易な防止対策に終始するなど,アスベスト被害の深刻さを省みない業者による解体工事が見受けられ,事情を知らない一般市民がアスベストを無意識に吸引して被害をこうむる恐れが有ります。
 そこで,政府は,2005年12月「アスベスト問題に係る総合対策」を策定し(1)アスベスト除去への補助促進策,(2)アスベスト使用規制,(3)解体時の飛散・暴露防止対策の徹底を指示し,2006年2月3日「石綿による健康被害の救済に関する法律」と被害防止のための石綿の除去を進める関連三法(改正)を成立させました。
 建物の解体工事の申請にあたり,解体業者はアスベストの有無を事前に調査し建設リサイクル法にもとづいて報告書に其の結果を記載して届け出なければなりませんが,提出された報告書に「アスベスト無し」と記載されていれば,行政としては,同報告書の真偽を確かめる術はなく,違法な解体工事が野放しになり,その結果,事情の知らない近隣住民は,知らず知らずのうちにアスベスト被爆を余儀なくされることになります。
 現在の建設リサイクル法では,解体工事の届け出から解体工事の着工までの一週間と定められているため行政担当者が,報告書の真偽を検証しようとしても,検体の分析は現行の公定法であるJIS法(JIS A1418)では,分析結果が出るまで数日を要するために,分析結果が出た時点ではすでに解体工事が進められてしまう問題がありました。
 そこで東京都千代田区では,平成19年度「建設リサイクル法に基づくアスベスト飛散防止要綱」を定め,検体採取と同時にアスベストの有無を判明させる分析法(アメリカ環境局EPAの認定された方法)を採用し,検体から重量比0.1%を超えるアスベストの存在が確認された場合,建設リサイクル法14条「必要な助言・勧告」同15条「分別解体等の方法の変更その他必要な措置をとることができる」との規定を法的根拠として,行政指導を行うことにしました。
 仮に,吹き付け材がありアスベスト無しの解体工事の届け出の場合,現場で吹き付け材の検体を採取し,それを契約した分析機関で分析し,結果アスベストが検出されれば,直ちに解体工事停止,現場養生の徹底,周辺住民に対する説明の実施等,然るべき行政指導を行うなどして,アスベスト飛散防止対策の徹底を図っていきます。
 アスベスト飛散防止は,現行法では事業者の善意に負うところが大きいのが実態です。実際には,建物解体工事のアスベスト飛散防止対策は,現場養生経費の膨大な増加,工期の長期化,周辺住民への説明と了解を得るための手続きの困難さ等があり,対策を厳格に行う場合と,そうでない場合と比較して経費や工程に大きな開きがあります。したがって,利潤追求のためにアスベスト飛散防止対策を怠る事業者が現れるのです。
 アスベストは,吸引してから中皮腫や肺がんが発症するまで20年から30年かかると言われています。いま飛散防止対策の徹底を千代田区の特定地域だけではなく全国的に行っていかなければ,水俣病のように今後国民に大きな負の遺産を残してしまうことになるのです。

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