ラムサール条約会議 ―韓国水環境大賞受賞
よみがえれ!有明訴訟弁護団
弁護士 後藤富和
1 ラムサール条約会議
2008年10月下旬から11月初旬に韓国で開催された第10回ラムサール条約締約国会議に参加しました。
ラムサール条約は、湿原の保全に関する国際条約で、日本も1980年に加入し国内37ヶ所の湿地が国際的に重要な湿地として条約に登録されています。
本会議に先立ち、順天市(スンチョン市)で、NGO会議が開かれました。この会議では、湿地環境保全に逆行する愚行として、わが国の諫早湾干拓事業に非難が集中しました。会議では、「セマングム事業は韓国のイサハヤだ」などと「イサハヤ」が公共事業による環境破壊を表す代名詞として通例されていました。イギリスの研究者からは「イサハヤの与えた負の影響は甚大である。でも、失われた環境を回復するために水門を開けることは可能である。日本政府が開門を決断しなければ世界各国のNGOは日本政府を非難するだろう。」と、昨年6月27日の佐賀地裁判決を踏まえた建設的な意見が飛び出しました。NGO会議の成果を踏まえた順天(スンチョン)NGO宣言の採択では、宣言文の中に危機的状況にある具体的な湿地名をあげるべきか議論となりましたが、各国の研究者やNGO代表者らから、具体的湿地とりわけ「イサハヤ」に触れないのは問題である。イサハヤの過ちがあったから、それが世界に波及した。元凶はイサハヤにある以上削除すべきではないとの意見が出され、圧倒的な賛成で、宣言文に「イサハヤ」問題が取り上げられることとなりました。
本会議は昌原(チャンウォン)市で行われました。オープニングレセプションは、李明博韓国大統領も出席する華やかなものでした。本会議場の隣にはエキシビションのスペースがあり、政府機関やNGOが様々なブースを出しています。日本からも、WWFジャパン、日本自然保護協会、日弁連、有明海漁民・市民ネットワークなど様々なNGOがブースを出しており各国の政府関係者が訪れとりわけ日本の弁護士の活動に強い興味を示していました。本会議では、NGOの宣言が議題となり、正式に決議22として東アジアフライウェイ(渡り鳥の渡りのルート)の緊急の保護が採択されました。この決議は、特に日本の諫早湾(有明海)と泡瀬干潟(沖縄県)、韓国のセマングム干拓において世界に類例のない環境破壊が行われている実情に鑑み採択されたものです。また、本会議では、一度失われた湿地を再生させる取り組みに対しても今後積極的に評価していこうとの決議がなされましたが、この決議が公共事業によって豊かな干潟が奪われたイサハヤを念頭に置いているのは明白です。
2 韓国水環境大賞受賞
同年11月12日、よみがえれ!有明弁護団は、韓国環境府、韓国環境運動連合、SBS放送の共催による第一回水環境大賞の国際部門賞「ガイア賞」を受賞しました。この賞は、水と水辺環境を保全することの大切さを訴え、その取り組みを前進させることを目的として、先進的な取り組みをした団体・個人を表彰するものです。
有明弁護団は、諫早湾干拓事業によって破壊された重要な自然環境である有明海を再生させようと、漁民、市民、研究者とともに活動し、平成20年6月27日、佐賀地方裁判所において開門を命じる画期的な判決を勝ち取ることに成功しました。今回の受賞は、破壊された自然環境を干拓事業終了後も粘り強く戦い、成果を生み出した取り組みが韓国社会から高く評価された結果です。
ソウル市内で行われた華やかな授賞式は、1時間半にわたり韓国全土に生中継されました。私たちも馬奈木昭雄弁護団長以下、弁護団、漁民原告、支援者ら多数が授賞式に出席しました。
水環境大賞は、研究者、芸能、市民活動、国際部門、地方自治体の順で授与され、その合間に韓国で人気のアイドルグループが次々にパフォーマンスを繰り広げます。
韓国の国民的英雄である宇宙飛行士第1号の女性がガイア賞のプレゼンターとして登場し、彼女が「よみがえれ!有明訴訟弁護団」と呼びかけると会場から大きな拍手が起こり、その中をスポットライトを浴びた馬奈木団長が壇上に昇っていきます。
団長が壇上でトロフィーを受け取り受賞スピーチを行いました。スピーチが終わると、諫早干拓の歴史と私たちの戦いを紹介する映像が流れます。ドミノ倒しのように鉄板が諫早湾に落とされていくギロチンの映像から始まり、漁民の海上デモ、佐賀地裁での勝訴、そして、弁護団会議の模様などが流れました。会場では感動のあまり涙を流す方もみられました。最後に、韓国のトップアイドルRain(ピ)が登場。会場の盛り上がりは最高潮に達しました。
この受賞を機に、有明弁護団はこれまで以上に漁民、市民、研究者と協力し合い、有明海をよみがえらせるまで全力を傾ける所存です。そしてラムサール条約会議では環境破壊の代名詞としての「イサハヤ」から環境再生のモデルとしての「イサハヤ」へと転換することを世界が期待していることを肌で感じ、世界が注目する有明海再生の第一歩となる開門の実現に向け、これからも、頑張らねばとの気持を強くいたしました。今後ともより一層のご協力をよろしくお願いいたします。