(第32回総会・熊本/人吉)
1 司法制度改革審議会は、弁護士報酬の敗訴者負担制度を一定の要件の下で導入するとする最終意見書を公表し、これを受けて、現在、司法制度改革推進本部アクセス検討会において検討が進められている。
2 司法改革の基本理念は、市民に開かれた、市民が利用しやすい司法の実現であり、そのための法整備は、何よりも裁判の現状を踏まえ、市民の司法へのアクセスを促進する方向で行うことが求められている。
3 ところが、現状での弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入は、市民の司法へのアクセスを抑制する方向で働くことは明らかであり、司法改革の基本理念に著しく反するものである。とりわけ、公害・環境裁判においては、現在でも、公害被害者らが裁判を提起することは、経済的、社会的に様々な困難を伴っており、この制度が導入されれば、裁判提起をためらう傾向が一層顕著になることが確実である。また、深刻な環境破壊を招来する公共事業を差止める環境訴訟も、現在の官僚司法が行政を裁くことに依然として消極的であるという現状を考えれば、この制度の導入は、こうした裁判の提起にも悪影響を及ぼすものである。
4 公害環境裁判は、現在でも、一審判決が出るまでに10数年もかかり、そのなかで原告らの半数近くが死亡するという長期裁判の弊害が存在している。また、環境は一度破壊されれば、これを回復することは極めて困難であり、ダイオキシンや環境ホルモンなどは、極めて微量な汚染によっても取返しのつかない被害を生じさせる。それ故、事後救済によっては真の被害回復は図れず、事前予防こそが公害対策と環境保全の基本である。したがって、公害環境分野における司法改革の目指すべき方向は、行政を裁くことに依然として消極的な官僚司法を改革し、「原告適格」や「処分性」の壁を取払うなどの行政訴訟法の改正や徹底した情報公開制度の整備を行うことである。
5 弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入は、公害環境分野でも極めて重大な悪影響をもたらすものである。長年にわたって公害環境裁判に取り組んできた私たちは、再度、同制度の導入に強く反対するとともに、司法アクセス検討行うことを強く求めるものである。
2003年3月21日
第32回全国公害弁護団連絡会議総会
第32回全国公害弁護団連絡会議総会