巻頭言  水俣病提訴の怒りに思う

代表委員 弁護士 加藤満生

加藤満生弁護士  つい先頃の新聞報道に水俣病の未認定患者さん50人による国・県とチッソの三者に対する損害賠償の提訴が報じられた。
 1年前に関西訴訟の原告患者さんが苦難の裁判を乗り越えて行政認定の枠を打ち破っての最高裁判決を勝ち取ったはずなのになんでまた提訴?と不審に思われた向きが多かったと思われる。
 提訴した患者さんはいずれも最高裁の判決後に認定申請をした方々である。追加提訴を含めて最終的に千人規模の裁判になるとのことである。
 先の関西訴訟の最高裁判決は永年救済の壁となって立ちふさがっていた水俣病の認定基準をあたかも国を隔てた鉄の壁を突き崩す一撃であった。遅きに失したとはいえ司法が待ち望んだ未認定の患者さんにこれ以上閉ざされることのない救済の道を開いたものと思われた。救済から永らく遠ざけられていた患者さんたちの関西訴訟最終判決に寄せた喜びと期待は推測に難くない。
 水俣病の判別に関する最高裁の判断が出て永年の懸案であった不知火海一円の被害救済問題が一挙に解決に向かうものと期待した。
 しかるに国は「司法の救済は行政の認定基準とは関係ない」と公然と最高裁判決を無視し認定の狭き門を閉ざし続ける愚を重ねた。 
 [いのちあるうちの救済を]
 [いのちある限りの救済を]
 この叫びはすべての公害被害者が司法に託した共通の悲願である。
 国はこの度の提訴をかりそめにも認定の引き延ばしの口実にしてはならない。
 すべからく関西訴訟の最高裁判決に沿う認定基準によるすべての水俣病被害者の早期認定救済に着手すべきである。
 それにしても度重なる国の背信と苦しみを受け続ける水俣病の患者さんの提訴の怒りにどう答えるべきか日々自らを責めるこの頃である。