ただ、この事件では、本案訴訟の結審が3か月後に予定されていたにも関わらず、東京高裁により執行停止を認めた地裁決定を2か月で覆され、特別抗告・許可抗告も最高裁に棄却されたため、地権者の多くは本案訴訟の結審直前に明渡を余儀なくされました。また、地権者の病死により明渡がされていなかった不動産につき判決後新たに申し立てた執行停止も、勝訴にも関わらず、最高裁の抗告棄却を理由に却下されました。
この事態の原因が、行政に偏った高裁の事実認定や法律適用にあることは確かですが、「事業計画の適否について早期の司法判断を可能にする争訟手段」(1審判決)がないことや執行不停止原則などにより、既成事実の積み重ねが可能なことが大きいといえます。
日本で執行不停止原則が採用された背景には、行政への信頼があるとされていますが、無駄な公共事業と争っている私達の実感とはかけ離れています。執行不停止原則が採用され、「執行停止制度も有効に機能しない」(同)状況が、「司法によるチェック機能が十分に働かず、国民は行政のなすがままに任されている」(同)状態を生み、ひいては「行政のモラルハザード化」とでもいうべき現象を招いているのではと思われてなりません。
行政事件訴訟法改正により、執行停止の要件が緩和されましたが、十分とは思われません。司法によるチェック機能を十分に働かせ、「行政のモラルハザート化」を阻止する、執行停止原則の採用に匹敵する抜本的な行政訴訟法規の改正の必要性を感じました。
6 最後に
本件は、被告らの控訴により、東京高等裁判所での審理が始まります。
行政訴訟などにおいて、高裁が不当な判断を続けていることに鑑みると、決して楽観はできませんが、私達は、1審判決で得られた成果を維持すべく全力を尽くしますので、今後ともどうかご支援のほどよろしくお願いいたします。
環境サマーセミナーに参加して
第57期司法修習生 古川 拓 (*)
「環境サマーセミナー」に参加したのは初めてのことではなく、千葉で行われた去年の企画(講師は野呂・広田・堀の各先生)に続いてのことだった。前回参加した際には、野呂先生のジェントルな雰囲気と、広田先生のエレガント(と言うにはあまりにも凄まじい武闘派ぶりだったように記憶しているが。笑)な講義にすっかり魅了されてしまい、とても楽しいセミナーだったこともあって、今年の案内がJELFの方から来て以降、非常に楽しみにしていた。
後期の研修所の殺伐とした雰囲気から逃れ、和光から茨城の土浦まで電車に乗ること約2時間。霞ヶ浦の湖畔に立つ国民宿舎「水郷」で、環境サマーセミナーが始まった。
まず初めに、ゴミ弁連の池田直樹弁護士から、廃棄物問題についての講義が行われた。昨年の「武闘派」広田弁護士とはひと味違った「理論派」池田弁護士からは、廃棄物を巡る問題の現状や、実際に訴訟を行っていく際の醍醐味について「大阪能勢町ダイオキシン事件」等を題材に講義頂いた。単に一方通行ではなく受講者に発問する形式の講義は、緊張感溢れるおもしろい内容であった。
続いて環境法律家連盟の早川光俊弁護士からは、地球温暖化問題への取り組みについて講義頂いた。
早川弁護士の取り組みは、普段イメージしている「法律家」というよりはロビイストといった印象を受けたが、図や表を多用しての問題点の提示は非常にダイナミックであり、今後色々な方面へ法律家が進出していく一形態の先駆けであると思えた。
最後に公害弁連からは西村隆雄弁護士に、東京大気汚染訴訟を題材とした講義をいただいた。ドキュメントビデオを観た後にこれを踏まえて講義をいただいたが、具体的訴訟において相手方証人を論駁していくという戦術的側面における苦労話などは、非常にエキサイティングであったし、また別面では、環境事件が常にねばり強い運動によって支えられていくということを改めて思い知らされた。
夜は講師の先生方も交えて懇親会が行われた。参加者全員が自己紹介を行い、講演を聴いた感想や日頃の想いをそれぞれ語った。講師の先生方からは、弁護士を目指す契機となった学生時代の原体験を話して頂くなど、場所を変えて行われた2次会を含め、ざっくばらんなお話が聞けたことは非常に有意義であった。
2日目は、1日目の講義とは趣向を変えて、霞ヶ浦の環境回復と地域おこしに取り組むNPO法人「アサザ基金」の活動についての現地見学に向かった。猛暑の中、代表の飯島さんに1日かけての懇切丁寧なご説明をいただいたが、単に環境の回復だけではなく、その地域を再生することを同時に行うというスタイルは、公害弁連の弁護士の方達が共通して仰ることに正に合致しており、単に「飼い慣らした」「テーマパーク的」自然を再生するという、自己満足的環境保護に堕しない「有機的」環境の維持発展の重要性を再認識した次第である。
今回の環境サマーセミナーを一言で総括すると、やはり実務家としてスタートを切ることが直前に迫ったこの時期に、自らがどのような視点をを持ち、事件にどのようなスタイルで取り組んでいくのか、といったことを改めて考える機会をいただいた点にあろう。
どの講師の先生方も、環境問題を単なる法律上の(法廷内の)問題に矮小化することなく、広く社会システムに対しての問題提起(例えば安易なスクラップアンドビルド、フリーライダー等に対する)を積極的に行っていくという明確な視点を持っていらっしゃった。また、実際の事件に対する取り組みでも、訴訟を解決の一手段として位置づけ、有効であれば公害調停その他の非訟手続から法廷外での交渉まで、あらゆる手段を講じるという柔軟性にも学ぶことが多かった。
これに加えて今回、ロースクールの学生の方達との交流の機会が持てたことも有意義だったと思われる。今回参加されたロースクール生の方々は、それぞれ豊富な社会人経験や国際NGO等での活動を積んでこられた方が多く、社会人としての経験の全くない私にとっては、そう言った方々が近い将来法律家として活躍されることを思うと頼もしく思う反面、戦々恐々たる思いをも同時に感じた。
最後に、経済的援助も含めこのような得難い講演・見学の機会を与えてくださった3団体の諸先生方に感謝の意を表するとともに、10月以降実務家としてスタートを切ることができた暁には、是非その末席を汚させて頂きたく思っている次第である。
(* 肩書きは原稿執筆時)