昨年8月26日,佐賀地裁は,国営諌早湾土地改良事業(諌早湾干拓事業)の続行禁止を命じる仮処分決定を出した。これは,大規模公共工事を裁判所の仮処分命令で差止めるという,我が国初めての判断を示したものである。
佐賀地裁の判断は極めて明快である。同決定は,相次ぐ廃業や少なくない自殺者,ひいては悲惨な心中事件まで生み出している有明海の漁業被害の深刻さを認定し,「本件事業による債権者らの損害を避けるためには、すでに完成した部分及び現に工事進行中ないし工事予定の部分を含めた本件事業全体を様々な点から精緻に再検討し、その必要に応じた修正を施すことが肝要となる。」と述べて,再生の必要性を保全の必要性の中心に据えた。
行政の暴走が今日の事態を招いたこと,被害の深刻さと被害救済の緊急性,干拓事業をタブー視せずその「修正」をも視野に入れた有明海の真の再生へ転換すべきあるという,この間題の本質をとらえ,枝葉末節にとらわれず大局において工事続行禁止を判断した佐賀地裁の決定は,マスコミはもとより,周辺自治体が次々に支持・共感の決議を挙げるなど,世論によって積極的に支持されている。
さらに本年1月12日,佐賀地裁は国の保全異議を退け,「漁業被害を将来的に防ぐための第一歩としては工事の差止め以外に他の有効な代替手段も見当たらず,その意味で差止めが被申立人(債権者)らが採り得る現時点で唯一の最終的な手段と思料される」と仮処分決定から更に踏み込んだ判断を示し,仮処分命令を認可する決定をするとともに,国が申し立てた執行停止の申立を却下した。
もはや農水省が孤立していることは明らかである。
しかるに,国は更に福岡高裁に保全抗告を申し立てた。
他方,有明海における漁民の被害は,いまや極限にまで達しようとしている。
借金や家庭破壊,地域破壊として蓄積され続ける被害は,蓄積され続けた結果,借金から家庭崩壊へと,家庭崩壊から地域崩壊へと,廃業から自殺へと,より深刻な質の被害に転化している。今,求められているのは,こうした被害の継続・拡大の悪循環を断ち切り,有明海漁業を蘇らせるための有明海の再生と漁業被害の救済である。
これ以上の漁業被害を発生させないよう,国に対し,道理のない保全抗告申立をすみやかに取り下げるとともに,本件干拓事業を全面的に見直し,真の有明海再生と漁業被害救済に向け,真筆かつ早急な取り組みを開始するよう求めるものである。
第34回全国公害弁護団連絡会議総会