2003(平成15)年5月16日,福岡高等裁判所は,国営川辺川利水訴訟において,国営川辺川土地改良事業を違法として取り消した。そして,同月19日,亀井善之農林水産大臣は上告を断念し,農家の意見を聴いて新たな利水事業を検討する旨の談話を発表した。
しかしながら,国土交通省はこうした事態を受け入れることができず,川辺川ダム利水を前提にした新たな利水事業を立ち上げようとした。
これに対し,利水訴訟原告団と弁護団は,同年6月5日の公害被害者総行動で,全国の公害被害者,公害地球懇を始めとする支援団体とともに,国土交通省,農水省と交渉を持つなどし,農民の意見を無視した「始めにダムありき」の利水事業の立上げは絶対に許さないとして闘ってきた。このような闘いの中で実施された関係農家に対するアンケート調査等により,ダムによらない利水計画が関係農家の民意であることが明らかとなった。
以上のとおり,川辺川ダム事業計画における利水目的は,現在,すでに意義を失ったと言っても過言ではなく,さらに,給水目的についても,ダムの治水効果に多大な疑問が呈せられているほか,緑のダム構想などの有効な代替案がいくつも提案されている状況にある。
加えて,川辺川流域では,絶滅危倶種であるクマタカ数つがいの生息が確認されているほか,五木村の九折瀬(つづらせ)洞窟においても,イツキメナシナミハグモなどの固有種が数種類発見されているところ,川辺川ダム建設によってこのような貴重な生物が絶滅の危機に瀕するのではないかと強く懸念されている。
ところで,新利水計画,川辺川ダム事業計画のいずれもが,関係農家・住民ひいては国民の意向を十分に反映したものでなければならないことはいうまでもなく,さらに,川辺川流域の貴重な自然の破壊を可及的に抑止すべきこともまた当然の要請である。
よって,私たちは,国に対し,次の施策を求めるものである。
第33回全国公害弁護団連絡会議総会