-福田政権の無策と理不尽な控訴に抗議する-

2008年7月10日
よみがえれ!有明訴訟弁護団

 本日、国は、6月27日に佐賀地裁において言い渡された諫早湾干拓事業潮受堤防排水門の開門を命じる判決に対し、控訴した。
 深刻な漁業被害により、もはや抜き差しならないところまで追い込まれている漁民の切実な願いを踏みにじり、これをあざ笑うかのように、みずからの面子のみを優先させるこの暴挙には、心からの憤りを感じずにはいられない。

 国は判決に従うべしと言う声は、国民世論であった。

 判決直後のマスコミ報道は、この判決を例外なく一面トップで扱った。この間、論調には様々な色合いがあるものの、この判決を不合理なものとして、国はただちに控訴すべきであると論評するものは皆無である。

 この判決を契機にして、国は控訴すべきでない、ただちに開門をという声は、全国から、まさに燎原の火のごとく広がった。
 漁民は、連日、上京し、必死の思いで農水省前の座込みを敢行し、農水大臣に直訴した。国民はネット署名、ファックスやメールによる要請などの運動を開始した。佐賀県議会を初めとする有明海沿岸自治体は、控訴断念と開門を求めて素早い対応をした。佐賀県のみならず、熊本県、福岡県においても判決に対する自治体の支持は広がった。関係漁連は、今こそ開門をと上京して農水大臣に直訴している。日本弁護士連合会、世界自然保護基金日本委員会、日本自然保護協会、野鳥の会、日本湿地ネットワーク、それに、本件10月に韓国チャンウォン市において開催が予定されているラムサール条約第10回締約国会議を前に、日本のNGOが湿地保全の前進を目指して結成した「ラムサールCOP10のための日本NGOネットワーク」など、多くの団体が判決を支持し、要請書や声明などを発表した。
 国民世論は、こぞって6.27判決を支持していた。

 このなかで、唯一、長崎県、同県議会など干拓事業が行われた長崎県においてのみ、判決に対する反対の動きがあった。
 ただし、長崎県議会においては、従来、推進のための政策に賛成せざるを得なかった議員が、今回は退場して反対の意思を表明するなど、これまでに見られなかった動きも表面化した。
 指摘しなければならないのは、開門反対の理由として掲げられている、開門にともなう防災や干拓農地における営農に関す不安については、すべて、技術的な問題として解決が可能ということである。これに対し、漁業被害の救済は、もはや開門以外にはありえない。長崎県下における開門反対の立場は、技術的に解決可能な事柄をもって、漁業被害解決の唯一の方策を閉ざそうとするもので、到底、合理性はない。漁業に対し、農業のみを偏波に優先する立場でもある。

 漁民側は、干拓工事が完了し、まもなく事業終了の日程が間近に迫る中で、昨年から、一貫して漁業と干拓農地における農業の両立を図る途を模索してきた。そのなかで、環境保全目標を達成する見込みがなく、かつ、毒性のあるアオコが発生する調整池を農業用水として使用することは、干拓農地における営農を真に成功させるうえでも好ましくないことを明らかにした。調整池に代わる代替水源が存在することも明らかにした。その上で、調整池に代わる農業用水の水源を確保しつつ開門を実現することこそが、有明海漁民の被害を救済し、かつ、真に、干拓農地の営農を成功させる途であることを訴え続けてきた。
これに対し、漁民の訴えが道理のあるものとして支持していただいた公共事業チェック議員の会など国会議員の追求の前に、唯我独尊ともいうべき態度で、みずからの主張に固執し、代替水源の検討すらしないと言い放ってきたのが農水省であった。
 防災問題にしても、農水省は、干拓事業による成果だけを過大に誇張し、代替策の検討をまともにしていない。

 長崎県下における開門反対の動きは、農水省が選択肢をあえて限定し、諫早湾干拓事業を受け入れるか否かの2者択一の踏み絵を踏ませ、地域住民が、より賢明な地域問題の打開策を選ぶ選択肢を閉ざしてきたことの結果に他ならない。
 漁業と農業の対立構造を意図的に持ち込んできたのは、事業を推進することに汲々とし、面子にこだわり、みずからの立場を正当化しようとした農水省である。

 このような状況のなかで、強く期待されたのが、福田政権の控訴断念と開門の政治決断であった。
 洞爺湖サミットは、環境問題がクローズアップされ、食料問題が国家の将来を占う重要問題であることを改めて浮き彫りにした。
 有明海異変は未曾有の環境破壊であり、21世紀の日本社会において、沿岸漁業の再生は避けて通れない国政課題である。昨年改訂された水産基本計画においても沿岸漁業を担う経営体の育成・強化が強調されている。我が国有数の沿岸漁業である有明海漁業の再生は、まさしく焦眉の国政課題である。
 その有明海漁業を担うべき経営体が存亡の危機にある今、官僚まかせにすることなく、福田政権が自らその役割を果たすことが強く求められていた。
 当弁護団は、事態の重要性にかんがみ、福田内閣総理大臣宛に書簡を送って、積極的にイニシアチブを発揮することを求めた。
 それにもかかわらず、サミットが終了するやいなや、今、この国でもっとも注目を集めている環境問題、食料問題の一つであるにもかかわらず、国民世論をあざわらうかのように、控訴がなされた。われわれは、福田政権の見識の欠如と無策ぶりを露呈したものとして、最大級の非難を投げかけざるをえない。

 開門に関するいかなるリップサービスも、この愚行を正当化することはできない。
 国は、すみやかに控訴を取り下げるべきである。
 われわれは国に対し、有明海漁業存亡の危機を打開するため、ただちに開門に向けた協議を開始することを求める。