第1  活動の概要
1  今年度の活動としては、先ず2008年3月23日に長崎県諫早市で第37回総会記念シンポジウム「豊かな有明の地域を取り戻すために」が100名の参加を得て開催された。前半の基調講演では、九州大学大学院経塚雄策教授が有明海を再生させるためには潮受堤防の開放が必要であり、また長期に開門させることが十分に可能であると報告した。後半のパネルディスカッションは、馬奈木昭雄弁護士、長崎県漁民の松永秀則氏、諫早湾シオマネキの会の大島弘三氏、そして経塚教授の4名をパネラーとして、後藤富和弁護士のコーディネーターで行われた。調整池の水質が悪化し、農業用水として使用できないことは明らかであり、潮受堤防の排水門を早期に開放することになんの支障もなく、海水によって調整池の水質を浄化し、干潟を復活させるとともに、有明海の潮流を回復することが豊かな有明海を取り戻すために是非必要であることが確認された。翌日には約30名が参加して諫早湾干拓地と排水門を見学したのち、島原から大牟田の三池港まで船に乗って、海から諫早湾を見たり、ノリの養殖場等を見学し、船上で原告漁民より漁業被害について説明を受けた。
2  諫早総会だけでなく、今年は、よみがえれ!有明訴訟が大きく前進し、公害弁連としても積極的に支援した。昨年6月27日佐賀地裁における諫早湾干拓地の潮受堤防排水門の開門を命ずる一審判決に参加し、そのまま上京して報告集会、農水省に対する控訴阻止行動を支援した。結局国は、福岡高裁に控訴したが、農水省も開門を前提としてアセスメントを行うと言わざるを得なかった。また、よみがえれ!有明弁護団が韓国の第1回水環境大賞の国際部門「ガイア賞」を受賞したので、本年1月9日の第4回幹事会において報告会を行った。この幹事会では、11月19日に那覇地裁で画期的な公金差止判決を受けた泡瀬干潟自然の権利訴訟弁護団の堀雅博弁護士より同判決の報告を受け、泡瀬干潟をいかに守るかについて討議を行った。
3  次に、2008年度の一年を通じて公害弁連が積極的に取り組んだのは「地球温暖化問題」である。この問題は昨年度から公害・地球環境問題懇談会を中心として、全国公害被害者総行動実行委員会その他の団体と共同で運動を行ってきた。5月10日にはシンポジウム「洞爺湖サミットへ-環境ウエーブのよびかけ」を共催し、6月2日、3日の総行動においては、地球温暖化に関する官庁交渉に参加した。また、6月3日の第1回幹事会に公害・地球懇のメンバー(大島茂夫、清水瀞両氏)を招いて、地球温暖化防止のウェブサイト「エコ・ウエーブ」や洞爺湖サミットの札幌行動などについて提起してもらった。7月4日~6日の洞爺湖サミット札幌行動では、「学習会」を共催したり、日本列島縦断キャラバンを札幌で成功させたノーモア・ミナマタの訴訟団・弁護団らも参加して、市民ピースウォークや宣伝行動「ストップ温暖化-やま・かわ・うみ・そらを子どもたちに手渡そう」を実施した。11月15日の第3回幹事会では、東京林業研究会会長山本千秋氏を講師に招き、「地球温暖化と森林問題」と題して森林問題からみた地球温暖化問題を講演してもらった。12月20日には、シンポジウム「私たちが変える温暖化対策」を共催し、①中期削減目標の設定、②大口排出源規制の義務化を政府に求めていくことを確認した。本年2月13日には環境省交渉に参加し、2月18日には参議院議員会館で院内集会を共催し、国民請願行動に参加した。
4  大阪で開催した10月5日の第2回幹事会では、公害弁連に全国じん肺弁護団連絡会議、大阪じん肺アスベスト弁護団、首都圏建設アスベスト訴訟弁護団、兵庫尼崎アスベスト訴訟弁護団等9団体の主催で、アスベスト合同シンポジウム「アスベスト被害の国の責任を問う-その責任原因と法的戦略」を開催した。立命館大学森裕之准教授、池田直樹弁護士、関西労働安全センター事務局次長の片岡明彦氏の講演の後、ともにアスベスト国賠訴訟を戦う首都圏建設アスベスト訴訟団、兵庫尼崎アスベスト訴訟団、大阪泉南アスベスト訴訟団の代表による被害の切々たる訴えに続き、各訴訟の弁護団事務局長に山下登司夫じん肺弁連幹事長を加えて、村松昭夫公害弁連幹事長のコーディネーターのもと、パネルディスカッションが行われた。
5  今年度は、幹事会4回と事務局会議5回を開催し、その内容は活動報告として掲載した。幹事会の主要テーマは、前記のとおりであるが、各会議毎に各弁護団が報告を実施し、意見交換を行っている。
 出席者は、幹事会が12名~20名、事務局会議が5名~8名であるが、事務局会議の参加者は、ノーモア・ミナマタや有明・圏央道・川辺川の公共事業を巡る弁護団と新横田・東京大気・アスベストの弁護団が大半を占めている。

6  今年度の公害弁連ニュースは、4回発行した。公害弁連に所属する弁護士の報告を中心に、首都圏建設アスベスト訴訟、B型肝炎訴訟、鞆の浦世界遺産訴訟といった他の公害・環境弁護団や日本環境会議、公害・地球懇談会、瀬戸内の環境を守る連絡会等の公害・環境団体からも出筆を求めた。また、従来の公害弁連ニュースに引き続いて、公害弁連の顧問、代表委員の出筆による巻頭言と若手弁護士奮戦記を毎回掲載してきたが、代表委員らの経験と若手弁護士の新鮮な活躍が興味深く、今後も継続していきたい。発行部数は、増刷要望もあるので650部に増刷した。
 公害弁連内部での通信手段として、速報性を重視した「情報と通信」をFAX通信している。今年度はNo.231~No.252まで22回発行したが、昨年より8回減ってしまった。速報性としては、テレビや新聞に劣るために、各弁護団には積極的に判決要旨や声明、新聞記事などの資料を事務局宛メールやFAXで送付されたい。

7  国際交流としては、昨年7月2日~16日の間、韓国の司法修習生の来日研修が行われた。「日本の公害・環境訴訟」をテーマに17名(司法修習生16名、指導教官1名)が参加し、福岡、大阪、東京で、有明海、西淀川、アスベスト被害、東京大気の講義を受けるとともに、諫早湾干拓事業と泉南アスベスト圏央道高尾山の現地調査を実施し、日本司法修習生などとの交流会も行った。また、韓国司法修習生の感想文を公害弁連ニュースNo.160に掲載した。このほか昨年8月22日に、中国武漢大学の調査団(7名)の訪問を受け、公害弁連の運動等について紹介した。
8  今年の公害弁連総会の記念シンポジウムでは、「新たな大気汚染公害被害者救済制度をめざして」と題して、公害健康被害補償法の第1種指定地域解除から20年が経過し、その後の大気裁判の前進と川崎、東京での新しい医療費救済制度の発足を契機に、国レベルでの新たな大気汚染被害救済制度を創設することを目指して、研究グループの提起を受けてシンポジウムを実施する。
 公害弁連としては、全国公害被害者総行動実行委員会との連帯を中心として、日本環境会議、日本環境法律家連盟、公害・地球懇談会、全国じん肺弁連、薬害弁連等の関係諸団体との交流や連携を広げ、互いに活動の経験、成果、知恵を共有して、公害・環境の運動を一層推進していく必要がある。

第2  活動報告
1 幹事会

第1回幹事会
日時 2008年6月3日
場所 東京
出席 近藤、吉野(高)、中島、関島、高木、板井(優)、西村、村松、白井、後藤、松尾、板井(俊)、中村、森永、市橋、大嶋(地球懇)、清水(地球懇)中山(全労連)、村田(水俣)、中杉 計20名
内容
  • 地球温暖化への取組み(公害・地球懇 大嶋氏・清水氏)
  • 各弁護団の活動報告(ノーモア・ミナマタ、カネミ、有明、高尾山、イレッサ、東京大気、イ病)
  • 韓国司法修習生について
  • 日中弁護士会議の報告

第2回幹事会
日時 2008年10月5日
場所 大阪
出席 近藤、中島、関島、板井(優)、西村、村松、白井、森、吉野(隆)、松尾、八木、伊藤、中山(総行動)、中杉 計14名
内容
  • 大阪じん肺アスベスト弁護団、兵庫尼崎アスベスト訴訟弁護団新加入
  • 各弁護団の活動報告(川辺川、有明、高尾山、東京大気、イレッサ、イ病、基地)
  • 全国被害者総行動富山合宿

第3回幹事会
日時 2008年11月15日
場所 東京
出席 近藤、関島、西村、村松、白井、松尾、板井(俊)、中村、小池(地球懇)、大嶋(地球懇)、清水(地球懇)、中杉 計12名
内容
  • DVD「地球の温暖化をとめて」(公害地球懇製作)
  • 地球温暖化に関する今後の取組みについて(大嶋茂男氏)
  • 「地球温暖化と森林問題」(講師 山本千秋氏)
  • 戦略的アセスメント(小池信太郎氏)
  • 各弁護団の活動報告(イ病、ノーモア・ミナマタ、高尾山、東京大気、泉南アスベスト)

第4回幹事会
日時 2009年1月9日
場所 東京
出席 近藤、馬奈木、中島、関島、板井(優)、西村、堀(良一)、村松、吉野(隆)、板井(俊)、松尾、堀(雅博)、中杉 計13名
内容
  • 泡瀬干潟自然の権利訴訟一審判決の報告(堀雅博弁護士)
  • よみがえれ!有明訴訟 韓国水環境大賞ガイア賞受賞報告
  • 各弁護団の活動報告(ノーモア・ミナマタ、川辺川、高尾山、イレッサ、東京大気、イ病、景観、アスベスト)
  • APNEC-9・日本環境会議尼崎大会の開催について(村松)

第3  事務局会議
1  今年度の開催と参加状況は次のとおりである。
 5月16日(6名)、7月28日(8名)、10月21日(7名)、12月11日(5名)、2月6日(7名)

2  参加者が固定化される傾向にあるが、毎回5~8名の参加を得て、事務局内での分担を図りながら、討議・実行してきた。
第4  ニュース・通信の発行
1  ニュースは、今年度は4回発行した。さらに幅広く内容の充実を目指して取組みをしていく。
2  「情報と通信」は22回出した。トピックな情報を事務局に集める方法を工夫し、さらに充実させる必要がある。
第5  財政
 公害弁連の収入は、会費収入とカンパ収入が根幹となっているが、今年度はカンパなしの会費収入のみであった。