~騒音被害の立証のため鑑定の実現へ~
弁護士 足立修一
1 広島市内を通過する国道2号線の現状
広島市内の国道2号線の現状は、24時間交通量でみると約7万台から8万台で、大型車の混入率も約17%あります。この結果、騒音被害では、1997年に、当時既に高架道路ができ2階建てになっている道路部分の沿道で、昼間85デシベルという全国で最高の値を記録したこともあります。また、大気汚染についても、沿道の自排局の測定結果で、二酸化窒素、SPMなども環境基準を超えている水準にあります。ただ、広島の道路公害については、もともと、公害健康被害補償法の公害病指定地域でなかったことから、国道2号線沿道の居住者で、肺繊維症、肺気腫、咽頭炎、喉頭炎、気管支喘息などに罹患していても、いわゆる公害病として認定されていません。
2 公害差止訴訟を提訴してから
2002年8月、広島地方裁判所に対し、広島市内の中心部を貫く国道2号線の沿道100メートル内に居住・通勤する原告名が、国と広島市を被告として、高架道路建設差止・道路公害の差止(供用制限)・生活妨害・健康被害に対する損害賠償を求めて提訴し、訴訟を継続してきています。
これまで口頭弁論で、原告側は、差止請求の適法性、大気汚染、騒音・振動問題、交通政策論などの総論の主張立証を継続してきています。これまで、口頭弁論期日において、原告に意見陳述をしてもらい、沿道住民が日々さらされている健康被害、騒音被害の実情、日常生活への妨害などの被害について訴えてきています。
今年度は、騒音被害の総論立証を行い、住民が主体となって、沿道での騒音測定を行ってきました。その結果、国道43号線最高裁判決で騒音被害の違法性を認めた基準を上回る数値が日常的に記録されています。現在は、沿道での騒音鑑定の実施とその費用負担をどうするかを巡り攻防が続いています。
3 国道2号線の高架道路延伸工事の現状と展望
2003年10月、広島市内中心部への国道2号線西広島バイパスの高架道路延伸計画は、第1期工事(西区庚午から同区観音本町まで・2.1キロ)が完成し、供用されています。
しかし、他方で、第2期工事(中区舟入中町から同区平野町までの2.3キロ)部分については、2002年11月、広島市が地元の意見調整が必要ということを指摘し、第2期工事の着工を見送り、現状でもその状態が続いています。広島市は、沿道住民が本件訴訟を提起していることや広島市の財政難の状況が深刻であることを受け、2007年度まで第2期工事部分の着工を凍結することを宣言していました。これは、最近、大阪府知事が国の直轄事業への地元負担金のことを問題にしていますが、これに先立ち広島市では同じ論点で問題提起をしていたことになります。2007年4月に行われた市長選挙で、第2期工事の着工を差し止めた秋葉忠利市長が当選し、2008年3月の凍結の期限以後もその方針を変更することなく、工事の凍結状態が続いており、2008年4月には、広島市の2008年度の国への要望から、国道2号高架延伸工事が外れるという状況に至り、第2期工事については、現状の差し止め状態が継続する見通しになってきました。
4 今後の裁判の展開について
広島で提訴した公害差止裁判では、高架道路の延伸を阻止することのみならず、現状における道路公害による被害(騒音・振動・大気汚染)を問題として、総体としての公害の防止及び被害に対する損害賠償を求めており、現在もある道路公害による被害の実態について、昨年来、騒音による生活妨害の立証に力点を置き、騒音被害が健康にもたらす影響などを近時の学術文献などを提出し、立証活動を続けています。その中で、世界保健機構(WHO)による騒音の及ぼす健康被害を防止するためのガイドラインにおいては、特に睡眠妨害を防止する見地からの指針値として、個々の間欠的な発生音については、屋内において45dB、屋外において60dBを超えるような騒音は避けるべきとされていることなど、日本の騒音に関する環境基準が緩すぎるという観点からの主張を行っています。
立証としては、騒音鑑定の申立を行い、現在の騒音鑑定の実施に向けて裁判所において、弁論と併行して進行協議を行ってきましたが、いよいよ、騒音鑑定の実施に向けた調整が大詰めの状況になってきています。これにより、沿道住民の全てが被っている生活妨害の被害や健康被害の実情を客観的に裏付け、道路公害による被害を裁判所に認めさせるための山場が到来している状況にあるといえます。
今後とも、皆さまのご支援、ご注目をお願いしたいと思います。