2008年度も、これまで築いてきた国際連帯の絆を強め、深める年となった。
「日本の公害・環境訴訟」をテーマにした韓国の司法修習生の来日研修の受け入れは、今年で8年目を迎え、前年度に引き続き2008年度も実施した。
2008年7月1日に来日した16名の韓国司法修習生の研修は、前年度と同様に、「よみがえれ!有明訴訟弁護団」の案内で、諫早湾干拓事業の現場を歩くことから始まった。その後、一行は、7月3日に大阪に移動して、4日に西淀川地域の訪問と西淀川公害訴訟を中心とする日本の大気汚染訴訟の講義、7日にアスベスト被害地である大阪・泉南地域の現地視察とアスベスト弁護団との交流、さらに、夜は関西在住の公害環境問題に取り組む弁護士との交流会、8日は薬害C型肝炎訴訟とアメリカで取り組んでいるジュゴン訴訟の講義を受けた。そして、東京に移動後、10日に高尾山天狗訴訟の講義とフィールドワーク、11日に裁判傍聴と東京大気訴訟の講義、日本の司法修習生との交流会、14日には公害等調整委員会への訪問と環境省から日本の環境政策のレクチャーを受け、7月15日に帰国した。例年と同様に、日本の取り組みから多くを学びとろうとする韓国の司法修習生の熱意は大変なものがあり、各講義では活発な質問と意見交換が行われた。帰国後は、韓国側からも、日本側の努力に対する率直な感謝が寄せられ、今後の日韓連帯の更なる強化に向けての貴重な種が蒔かれることとなった。こうした研修の成功には、公害弁連の弁護士らの努力に加え、各地の原告団、被害者、さらにはあおぞら財団等の協力が極めて重要な要素であった。韓国司法修習生の日本研修には、これまで延べ50名以上が参加しており、今後の韓国での公害環境訴訟の発展に大いに貢献するものと確信している。
また、2008年3月27日から30日の日程で、公害弁連、毎日新聞社、日本環境法律家連盟の共催で、「公害被害の救済と根絶に向けた日中弁護士交流会」を大阪で開催した。この交流会には、中国で公害環境訴訟に取り組んでいる中国政法大学公害被害者法律援助センターの弁護士ら3名を招聘し、日中の法律家で具体的事件について突っ込んだ意見交換を行った。また、中国の公害と環境問題に関する公開シンポジウムも開催し、多くの市民が参加した。その後、富山のイタイイタイ病事件の現場訪問も行われ、中国側は、原告団、弁護団、科学者、企業による原状回復や無公害企業への取り組みに大いに刺激を受けた。
2009年には、11月20日、21日に京都で第10回アジア・太平洋環境会議が、22日、23日には尼崎で日本環境会議尼崎大会が開催されることになっている。とりわけ、20日には、中国や東南アジア、インドなどの弁護士を招いて、環境公益訴訟をテーマにしたセッションが持たれることになっており、こうした国際的な交流の機会に、日中韓の交流の蓄積を基礎にしたアジアでの法律家との交流をさらに進めていきたい。
言うまでもなく、公害、環境問題は、全人類的課題である。特にアジアでは、急激な工業化、都市化、自動車交通の増加、公害輸出、各国の経済成長優先政策等により、深刻な被害が発生している。これに対し、各国では、環境保護や公害被害救済を目指す市民、法律家が立ち上がり、エネルギッシュな活動を展開している。
日本は、戦中、戦後の歴史を通し、アジアの政治、経済、社会の健全な発展を阻害し、各国の環境を破壊し公害を発生させるなど「公害輸出」も行ってきた。公害弁連は、単なる地球村の一員としての責任にとどまらず、これらの歴史を踏まえ、貴重な公害環境訴訟の経験を広くアジア諸国に伝える責任を負っている。
環境保護、公害被害救済を目指して立ち上がった各国の市民、法律家との連帯をいかに広げ、深めるのか、2009年度も公害弁連の旺盛な取り組みが求められている。