(1)  川辺川ダム・有明海(諫早湾干拓)・泡瀬干潟の勝利
 海・川を守るたたかい、それは、干拓・埋立・ダムとの戦い、すなわち、複雑に利権が絡んだ巨大公共事業との戦いである。
 20世紀後半は、公共事業による大型開発の時代であった。
 日本中の川はダムによって堰き止められ、かつての清流は濁流に変わり果て、ダム周辺のみならず下流域、河口域の生態系、流域で暮らす人々の生活にも大打撃を与えた。また、海、特に干潟などの浅海域は、戦後、人類にとって利用価値の乏しい邪魔ものであるとの誤解、それに加えて、埋立や干拓が容易にできる場所として格好の開発対象とされ、戦後半世紀の間に、わが国の干潟の約40%が消失した。
 しかし、近年、わが国においても、ダムに頼らない利水・治水事業の検討、そして干潟等浅海域が有する生物生息機能、漁業生産機能、水質浄化機能など様々な重要な機能が見直されるようになった。
 特に、2008年は、海・川を守るたたかいが大きく前進した年であった。
 同年6月27日、佐賀地方裁判所は、国に対して「本判決確定の日から3年を経過する日までに、防災上やむを得ない場合を除き、国営諫早湾土地改良事業としての土地干拓事業において設置された、諫早湾干拓地潮受堤防の北部及び南部各排水門を開放し、以後5年間にわたって同各排水門の開放を継続せよ」と命じた。
 同年9月11日、熊本県知事は、国土交通省の川辺川ダム計画について「計画は白紙撤回。ダムによらない治水対策を追求すべきだ」と中止を決断した。
 同年11月19日、那覇地方裁判所は、沖縄県及び沖縄市に対し、泡瀬干潟埋立事業及び沖縄市東部海浜開発事業に関し、「一切の公金を支出し、契約を締結し、又は債務その他の義務を負担することを禁ずる」と命じた。
 よみがえれ!有明訴訟判決を契機に、立て続けに大型公共事業を見直す内容の政治決断、司法判断が続いた。

(2)  国際的世論の盛り上がり
 2008年は、水辺環境をめぐる国際的世論が大きく盛り上がった年でもあった。
 同年10月から11月にかけて、韓国で第10回ラムサール条約締約国会議が開催され、日本からも海・川を守るたたかいに取り組む弁護士達が多数参加した。この会議では、特に諫早湾(有明海)と泡瀬干潟(沖縄県)、韓国のセマングム干拓において世界に類例のない環境破壊が行われている実情に鑑み、東アジアフライウェイ(渡り鳥の渡りのルート)の緊急の保護を求める決議が採択された。
 また、同年11月12日、韓国環境府らは、よみがえれ!有明弁護団に対して、第1回水環境大賞の国際部門賞「ガイア賞」を与えた。この賞は、水と水辺環境を保全することの大切さを訴え、その取り組みを前進させることを目的として、先進的な取り組みをした団体・個人を表彰するものであり、今回の受賞は、よみがえれ!有明弁護団が、干拓工事終了後も、漁民、市民、研究者とともに活動し粘り強く戦い開門判決という大きな成果を生み出した取り組みが韓国社会から高く評価された結果であるといえる。

(3)  司法判断を無視する行政の横暴
 このように諫早湾(有明海)、泡瀬干潟と、立て続けに画期的な司法判断が下ったにもかかわらず、行政は司法判断を無視し続けている。諫早においては現在も湾を締め切る水門を開放しておらず新たな漁業被害を生み出し、泡瀬干潟では周囲を護岸で囲った干潟に今年1月からから土砂の投入を始めた。
 また、諫早干拓については、昨年の控訴時において当時の鳩山法相と若林農相との間で、「開門する腹をきめ」開門方法について漁民の意見を聞くとの政治決断がなされた。それにもかかわらず、「大臣談話と訴訟は別」として控訴審の場において国は進行協議すら拒否し和解に一切応じないとの暴挙に出ている。
 これが法治国家、民主国家と言えるのであろうか。司法を無視する行政の横暴に対する怒りの声が大きなうねりとなっている。
 今年は、諫早湾の水門開放を勝ち取り、それを泡瀬干潟の工事中止へとつなげ、全国の無駄な公共事業による環境破壊を止めるために極めて重要な年となるだろう。