(1) 道路公害裁判について
道路公害裁判では、圏央道建設に伴うトンネル・ジャンクション・インターチェンジ工事から高尾山の貴重な自然と国史跡八王子城跡を守ろうと3つの裁判が行われている。民事差止訴訟は2007年6月15日の第1審(東京地方裁判所八王子支部)不当判決を受けて住民らが控訴、現在は東京高等裁判所第8民事部で控訴審が進行中。住民らは、すでに完成したジャンクションよる景観破壊などを理由とする慰謝料請求を追加、さらに、住民らの所有地であるにも関わらず、国側が買収したと称して工事に利用している区域(八王子市高尾町2513番地)について、所有権に基づく妨害排除請求としての工作物撤去等を求めている。
裏高尾地域の事業認定取消訴訟は2008年5月に東京高裁が住民らの控訴を棄却したことから、即座に上告し、現在、最高裁に公正判決を求める要請行動などを行っている。
高尾山トンネル工事の事業認定・収用裁決取消訴訟は、現在、東京地方裁判所民事第3部に係属し、とくに収用裁決の違法の有無を中心に審理する段階となっている。
同じく東京では西東京市計画道路3・2・6号調布保谷線が240~270棟の建物と約800人を立ち退かせ、まちを分断・破壊し、公害道路になる虞があるとして、西東京区間の建設工事差止民事訴訟が提訴(2004年10月)され、本年2月結審した。
さらに、下北沢補助54号線、国分寺3・2・8号線、二子玉川補助49号線に関し、司法の場で争われている。
広島では、2002年8月、広島地方裁判所に対し、広島市内の中心部を貫く国道2号線の沿道100メートル内に居住・通勤する原告151名が、国と広島市を被告として、高架道路建設差止・道路公害の差止(供用制限)・生活妨害・健康被害に対する損害賠償(総額約3億3,000万円)を求めて提訴し、訴訟が継続している。原告側は、差止請求の適法性、大気汚染、騒音・振動問題、交通政策論などの総論の主張立証を継続するとともに、今年度は、騒音被害の総論立証を行い、住民が主体となって、沿道での騒音測定を行った。その結果、国道43号線最高裁判決で騒音被害の違法性を認めた基準を上回る数値が日常的に記録されており、現在は、沿道での騒音鑑定の実施とその費用負担をどうするかを巡り攻防が続いている。第2期工事は引き続き、凍結の見通しである。
大阪の第2京阪道路をめぐっては、2003年と2004年に、門真市と寝屋川市の約6,000名による大規模な公害調停が始まり、新たなアセスメントの再実施とそれに基づく公害対策を求めている。当初は、国土交通省(浪速国道事務所)と西日本高速道路株式会社、大阪府、門真市を相手方としたものだったが、大阪府と門真市は、住民の意向に沿って、それぞれ大気汚染調査と騒音現況調査を行うとの回答をしたことから、住民らは、これら2市に対する調停は2007年中に取り下げ、国土交通省と西日本高速道路株式会社を相手に取り組みをすすめている。
(2) 道路行政の転換を求める世論の合流を
無駄な公共事業を見直す動きが、昨年までに引き続き広がっている。
2008年9月の熊本県議会で、知事が、川辺川ダム建設を白紙撤回し、ダムによらない治水計画を追及すべきだとのべ、建設継続反対の意思を表明したことは、その象徴的なできごとである。
さらに、昨年11月には、淀川水系の大戸川ダムについて、関係する大阪、京都、滋賀、三重の4知事が建設に反対する共同声明を発表した。
道路事業を巡っても、昨年4月の通常国会(「ガソリン国会」)では、巨額の税収を道路につぎ込む道路特定財源と暫定税率をめぐって熱い議論が行われるなかで、これまで道路建設を合理化するために利用されてきた交通需要予測の誤りや「費用便益分析マニュアル」の欠陥が指摘された。
まさに、国民不在の道路行政が、いま国民的批判にさらされている。
これらの国民的世論と結びつくならば、道路行政の転換をもとめる取り組みをいっそう強化することができる。 さらに、世界的に見ても、20世紀が「開発の世紀」、「環境破壊の世紀」であったことに対する反省として、「21世紀は環境の世紀」といわれ、そのもとで、車依存社会からの転換がはかられている。
世界の環境問題の重要な注目点の一つである地球温暖化問題の解決にとっても、自動車による二酸化炭素排出を減らすことは喫緊の課題である。道路建設(整備)が道路交通量の増加を招くことは環境省も認めているところであり、この点からも、道路行政の転換が必要である。 まさに20世紀型の大型公共事業としての日本の道路行政について、世界の流れを見据えた抜本的転換が求められている。