東 京 都
一次訴訟判決を受けてから、これまでの東京都の対応について申し上げます。
去る平成14年10月29日言い渡された東京大気汚染公害訴訟第1次訴訟第一審判決は、もっぱら公の営造物たる道路の設置管理責任を根拠として、東京都及び国並びに首都高速道路公団に一部原告に対する損害賠償を命じたものでしたが、国の自動車排出ガス規制責任の有無については明示的な判断がなされず、道路管理者にのみ、実務的には回避することがほとんど不可能な責任を負うべきことを求めたその内容、論理には、都として承服できないものがあります。
なぜならば、東京における大気汚染の根本的な原因は、自動車排出ガスそのものにあるからです。判決では、道路管理者に賠償責任が課せられましたが、道路自体が大気汚染の本来の原因であるはずがなく、そこを走行する自動車がどのような質・量の大気汚染物質を排出するものなのかが問題なのであり、このことに直接かかわっている国の自動車排出ガス規制の怠慢こそ責められるべきであります。自動車単体に対する国の規制権限の行使が最も効果的な大気汚染改善策であることは、論ずるまでもないことであります。
一方、三環状道路など道路ネットワークの整備は、渋滞解消にも役立ち、かえって大気汚染の改善のためにも必要で、これを促進すべきものであります。
このような理由から、遺憾ながら判決の内容・論理には承服できないものです。
しかしながら、自動車排出ガス特にディーゼル排気微粒子(DEP)による健康被害は、社会的な問題となっており、行政の役割りは、自動車排出ガス対策の強化、健康被害の防止、被害者への対策を早急に実施することです。
また、訴訟では、個別の健康被害と自動車排出ガスとの間の因果関係という極めて専門的でかつ困難な問題を、当事者ごとに確定する作業が必要です。このことは、当事者の人数も考えると多大な時間を必要とし、裁判手続きでこれを決着させることが本質的に相応しいのかという疑いを禁じ得ません。 都としては、これらの事情を複合的に勘案し、今回はこれ以上訴訟を継続して結論を先送りすることをせず、裁判所が、自動車排出ガスと健康被害との間の因果関係を認め、都に対して損害賠償を命じた5名の原告の方々に関する判断を受け容れて、控訴しないこととしました。これは、大気汚染の改善こそが行政の根本的使命であるという認識を基礎とする決断であります。
なお、国に対しては、大気汚染をここまで放置した責任を自ら認めるべきであり、自動車排出ガス規制の強化、健康被害救済制度の創設(後者についてはメーカーによる費用負担の検討という事柄も含まれていますが)、これらを早急に実施することを強く要請しました。
以上のことは、この間の東京都知事の発言及び行動により、本件訴訟の関係者の方々にも既に充分なご理解が得られているものと考えます。 繰り返し述べますが、東京の大気汚染の元凶は、自動車排出ガスであります。そして、この大気汚染が、都民の健康に何らかの悪影響を与えていることは否定できません。行政としては、早急にこれに有効な対策をうつべきことは、論を待たないものであります。言うまでもまり。都としては、法的に行使できる権限の範囲に制限はありますが、いわゆる東京都環境確保条例によるディーゼル車の走行規制や不正軽油の使用禁止、低公害車や粒子状物質減少装置の積極的な導入、各種の助成措置等の可能な限りの施策を駆使して、東京の大気汚染の改善に向け、積極的に取り組んでゆくものであります。
重ねて述べますが、東京の大気汚染の根本的な責任は、国の排出ガス規制の怠慢にあります。
都は、国に対して、大気汚染をここまで放置した責任を自ら認めて、抜本的な対策を早急に講じることを強く求めて意見陳述を終わります。