東京大気汚染公害裁判弁護団 団長 鶴見祐策
東京大気裁判勝利を目指す実行委員会 実行委員長 本間慎
1 本日、東京地方裁判所は、東京都内の自動車排ガス汚染公害に苦しめられてきた原告患者、とりわけ公害未認定患者の深刻な被害を救済する必要を認め、これに対する国・首都高速道路公団、東京都らの加害責任を断罪し、損害賠償を命ずる画期的な判決を下しました。
2 今日、東京の自動車排ガスによる大気汚染公害は改善しないばかりか、日々新たな公害被害者を生み出しており、ますます深刻なものとなっています。気管支喘息などの公害被害者は、その多くが公害未認定患者であり、何の救済措置もなく病気の苦しみに加えて、働くことができないための生活苦、加えて重い医療費負担ゆえに満足な医療を受けることもできないという二重、三重の人権侵害に苦しめられています。
本判決は、このような深刻な被害が自動車排ガス公害によるものであることを認め、被告国・公団・東京都らにその賠償を命じました。これは今日数十万人といわれる本件地域の未認定患者の救済がきわめて重要な課題となっていること、そして被告国・公団・東京都はそれらの被害救済のために極めて重要な意義を持つものであります。
これをふまえて、被告国・公団・東京都は、その財源負担による新たな被害者救済制度を直ちに確立すべきです。
3 本判決は、被告国・公団・東京都らの長年にわたる人命軽視、環境無視の道路政策を断罪し、道路政策のあり方に抜本的な見直しを迫るものになっています。
とりわけ被告国が、この7年間に西淀川、川崎、尼崎、名古屋南部に続いてなんと5度目の敗訴判決を受けたことは深刻に反省すべき重大な事態です。被告国はこれまで4回にわたり、敗訴判決を踏まえて道路公害対策を実施することを被害者に約束してきました。ところが被告東京都、公団とともに、大量の汚染物質の発生源となることが明らかな巨大幹線道路の建設を強行しようとしています。
国・公団・東京都はこのような道路建設優先の誤った道路政策、開発中心の都市政策を抜本的に改め、幹線道路の新たな建設・計画を凍結した上で、抜本的、効果的な公害対策を直ちに実施し、快適な環境、健康な生活が保障された暮らしやすい街へと東京を転換していくことが求められています。
4 他方本判決は、本件地域の大気汚染公害の重大な原因者である被告自動車メーカーの法的責任を否定する不当な判断を下しました。
しかし、トヨタをはじめとする被告自動車メーカーらが、深刻な大気汚染公害の発生を知りながら環境を無視してディーゼル化を推進し、さらには排ガス対策を怠って大量に汚染物質を排出自動車を製造販売してきた行為が、今日の深刻な大気汚染被害をもたらしたことは社会的に明白な事実となっています。本判決も、被告自動車メーカーが法律上の義務としては損害賠償責任がないとしたのみであり、判決理由中では、被告メーカー等にはそれぞれ大量に製造販売する自動車から排出される自動車排ガス中の有害物質について、最大限不断の企業努力を尽くして、できるだけ早期にこれを低減するための技術開発を行い、かつ開発された新技術を取り入れた自動車を製造販売すべき社会的責務がある、と認定しています。さらに昭和48年以降、被告メーカーらが製造した自動車から排出されるディーゼル排ガスにより、深刻な健康被害が生じている事実の予見可能性があると認定しています。
したがって、被告メーカーらは今日きわめて重要な課題となっている未認定患者の被害救済のために重大な責任を負っていることは明らかです。
また被告メーカーらはディーゼル車の販売を早急に縮小して低公害車への転換を図り、販売済みのディーゼル車には排気微粒子除去装置を装着するなど、あらゆる方法で公害防止の責務を果たすべきです。
5 本判決は大気汚染の発生源として問題と去れた104路線の幹線道路網のうち、交通量の突出した巨大幹線道路からの沿道50mの範囲に救済を限定したため、多くの原告の請求を棄却しました。
しかし本件地域は、網の目状に走る幹線道路を走行する自動車からの排出ガスにより、全域にわたり深刻な環境汚染に覆われており、公害被害は一部の巨大幹線道路の沿道に限定されるものではないことは誰の目にも明らかです。本判決はこのような面的汚染による深刻な被害の実態を無視し、多くの原告が裁判所に託した人権回復の願いに背を向けた不当な判決であり、今後に大きな課題を残しました。
6 私たちは引き続き被告メーカーらの加害に対する法的責任を明確にしてゆくために、裁判の闘いを継続してゆきます。公害被害者の完全救済と公害根絶を実現するまで、今後ともたたかいぬく決意ですので、これからもご支援のほどよろしくお願いいたします。