道路公害反対運動全国連絡会
事務局長 橋本良仁
1.道路行政の問題点
2002年度末で国と地方合わせてGDPを遥かに上回る700兆円を超える長期債務を抱えながら、依然として続けられる50兆円規模の公共事業。道路予算は、そのおよそ3割を占める。国民から大きな批判を浴びながら続けられる高速道路建設の元凶は、1987年に閣議決定された4全総(第4次全国総合開発計画)の14,000キロメートルに及ぶ高規格幹線道路網計画にある。
計画終了年度2002年の第12次道路整備5ヶ年計画は、事業規模78 兆円。重点施策として、広域環状や中小都市環状道路の整備(首都圏3環状、東海環状、名古屋環状2号、甲府環状、福山環状など)がある。とりわけ、都市再生事業などとリンクする3大都市環状道路整備に力点が置かれている。その他、地域高規格道路として186 路線、6950キロが指定(2001年4月段階)され、生活関連道路には予算は回らない。最近、特に問題視されている道路特定財源については、来年度予算案でも国土交通省の枠内での使途に限定され、大型道路建設に特化している。
2.道路改革は進んだのか
小泉行革の目玉であった道路行政改革は、道路関係4公団民営化推進委員会の議論の末、昨年12月首相に最終報告が出されたが、ムダな道路事業の中止や国民に負担させない、といった当初の掛け声とは大きくかけ離れたものであった。勿論、委員会は始めから公団の民営化を前提に議論しているのであり、民営会社が建設せず管理費も出ないような不採算路線は、国・地方が行なう、つまり国民の税金で賄うことにした。その上、本四公団の莫大な借金は、道路特定財源と関係地方自治体が負担することになった。
道路建設必要論の根拠となっている交通需要予測や費用対効果は、根拠があいまいなまま依然として過大に見積られている。東京湾アクアラインや本四架橋などは典型的なもので、建設責任は追及されず、改善の兆しは一向に見えない。
地球温暖化、先行き不透明の経済不況、少子高齢化社会の進行など、車偏重の社会システム崩壊は時間の問題と言えよう。国、地方、道路公団の財政破綻などからも今後の大型道路建設は無理である。
大型道路建設に対する厳しい国民世論を無視できず、国土交通省や道路公団は柔軟作戦に出てきた。30年以上凍結されてきた東京外郭環状道路の都区内部分(約16キロ)で実施しているPI(パブリック・インボルブメント=計画段階からの住民参加)方式やPC(パブリック・コメント)などである。しかし、掛け声とは異なりともかく建設ありき(地下40メートル以上の大深度をトンネル構造で建設する案を提示)で、関係住民を分断しようとするやり方に住民団体は猛反発している。道路行政に国民の声を反映させる、とは名ばかりなのが実態である。
3.強制収用の強行手段
柔軟路線(?)の一方で、住民の合意が得られず紛争状態に陥り、任意買収が困難な建設計画用地を強権手段を発動して土地を収用しようとする動きが出ている。圏央道の東京都あきる野市の牛沼地区や八王子市裏高尾地区、京都高速道路鳥羽団地などにみられる土地強制収用手続きの強行である。
2002年7月から新土地収用法が施行した。収用法改正の動機は、住民や市民が身体を張って行っている土地や立ち木のトラスト運動の排除にあった。国交省は、これまで一方的に行なってきた国民合意不在の公共事業の在り方を反省し、その改善をするどころか、どうしても止まらない道路事業に対して、市民がやむを得ず行なっているトラスト運動を敵視したのである。事業認定時に公聴会の開催を義務づけ認定理由を公表するといった一部改正と引き換えに、収用委員会の審理時間は大幅に短縮され、裁決金は手渡しから郵送へと変更され、トラストは無力化された。土地収用のできる事業認定裁決は第三者機関が行なうのではなく、国交省内部の社会資本整備審議会が行なう。勿論、審議会委員は大臣が任命する。事業認定裁決のシステムは、正に自作自演そのものである。
4.国民世論の大きな変化
バブル以後の10年間で、道路建設に対する国民世論は大きく変化した。3大紙世論調査によると「高速道路はもう要らない」は、6割を超える。2000年以降の政府調査でさえも過半数を超え出した。
さらに、東京大気汚染公害裁判は5度目の勝訴、ハンセン病判決と国の控訴断念、薬害ヤコブ病の判決と和解、小田急高架化の事業認定取り消し、国立市の大学通り景観問題など人権や環境保全での司法の判断は大きく前進している。まさに暴走する行政や開発への警鐘である。
一貫して続けられてきた国土破壊と財政赤字への批判、自然環境、住環境、市民生活を重視する国民世論は高揚してきた。山、川、海、街の自然や環境の保全を求める市民運動、住民運動は大きく前進している。この1年、地方で見られる大きな地殻変動を直視したい。徳島や長野県の知事選や熊本、尼崎市長選などの前進もあった。
5 司法の場での新たな闘い
国道43号線の道路住民団体は、騒音被害差止めの最高裁判決を勝ち取った。その後、一方的な道路行政を正そうと全国で様々な戦いが司法の場でも進められている。以下紹介すると、
●高速横浜環状南線(圏央道の一部)での行政訴訟(1998年2月、横浜地裁)
●圏央道建設差止めの民事訴訟の提起。自然の権利訴訟である「高尾山天狗裁判」 (2000年10月、東京地裁八王子支部)
●圏央道あきる野の事業認定取り消し行政訴訟(2001年12月、東京地裁)
●圏央道裏高尾の事業認定取消し行政訴訟(2002年7月、東京地裁)
●広島国道2号線損害賠償訴訟(2002年8月、広島地裁)
などである。
6.国民本位の道路行政に
国民本位の道路行政への転換が求められている。2001年8月、小泉首相が先頭に立って、都市再生プロジェクト(都市再生本部第2次決定)を立ち上げた。重点施策として、大都市圏の環状道路体系の整備(首都圏3環状、横浜、大阪圏、京都都市圏、名古屋圏、福岡圏)が上げられている。石原東京都知事は、東京都都市再生10兆円プロジェクトを策定し、3環状道路(中央環状、外郭環状、圏央道)整備のため、前倒しに1.5兆円(10年間で4兆円の予定に追加する)を投下すると言い出した。2002年6月の東京都議会では、アセス法が改悪され、全国波及のおそれがある。道路・交通政策と行政手続きを変えさせることのできる全国連運動を展開しなければならない。全国連の課題として以下の項目をあげたい。
1)車優先から人間優先の道路行政への転換(車依存社会からの転換)
2)国民本位の司法制度改革、行政訴訟制度・裁判員制度。
弁護士報酬敗訴者負担制度の導入は、何としても阻止する。
3)公害・環境問題など他の運動団体との連携を強める。
これらの課題を実行するため、これまでの経験や運動を土台にして、政策提起のできる全国連運動の強化、発展をはかりたい。