弁護士 籠橋隆明

1. 環境法律家連盟の現状

 日本環境法律家連盟は発足以来6年目を迎え、現在417名の会員を擁するようになった。一般市民会員を含めれば600名を越える。昨年度からはフルタイム専従を雇い入れ、環境NGOとしての独立性獲得に向けて大きな一歩を踏み出した。今後数年は連盟が環境NGOとして社会に役割を果たす存在に成長するかどうかが問われる重要な期間になると考えている。

2. 環境的正義

 社会に存在する多様な価値観を反映させるのがNGOの役割である。私たちは「環境的正義(environmental justice) 」を社会に反映させたいと考えている。環境問題は人が人として生きていくために必要な環境が人の手によって破壊されるところからくる社会問題である。人の問題である以上、そこでの解決の基準は自由、平等といった憲法の正義である。そこに、我々法律家が環境的正義をかかげ環境問題の最前線に立っていく必然性がある。私たちのNGOは方法さえ間違えなければ必ず日本のみならず今日の世界にとっても重要な役割を担う存在に成長していくことだろう。

3. 活動分野の拡大

 環境法律家連盟は今年これらの理念を再検討し、これまでの自然保護運動からさらに公害問題、原子力問題などにも幅を広げた活動をする予定である。公害事件は日本の環境問題の歴史そのものと言って良いほど重要なテーマである。そこには弁護士らが正義を求める市民と深く結びつき、社会を説得しつつ裁判所を説得し、裁判所を説得しつつ社会を説得して社会そのものを変えてしまう大きなダイナミズムが存在する。公害事件が示した「大衆的裁判闘争」の理念は、その後、自然保護分野や原子力分野にも大きな影響を与えている。今期、環境法律家連盟は分野を自然保護ばかりでなく環境問題全般に広げ、「環境的正義」の理念を明確にして正義を求める市民の支持を拡大する活動を進めていく予定である。

4. 公共事業分野

 豊郷町小学校解体禁止仮処分事件、小田急行政処分取消請求事件、国立市マンション事件、もんじゅ事件、ぽんぽん山住民訴訟など行政に厳しい判決が相次いでいる。多くの公共工事が住民不在のまま進められ、自然環境や人の安全な環境を破壊しつつある。その解決を求める世論は大きい。環境法律家連盟は上記の一連の訴訟をこれらの世論を適切に反映した重要判決であると考えている。
 現在、ダムに関連しては熊本県川辺川ダム、岡山県苫田ダム、滋賀県永源寺ダム、岐阜県徳山ダムについて訴訟が展開されている。河口部分の巨大ダムと言って良い諫早干拓事業、相模大堰などについても訴訟が係属している。さらに公共工事分野に広げれば東京高尾山、沖縄やんばる林道などでも無駄な公共工事と自然破壊をテーマに訴訟が進められている。
 連盟では公共工事による自然破壊に対していかに戦うかをテーマに今期活動を進める。特に川辺川ダム訴訟判決、徳山ダム訴訟判決を射程に入れて公害訴訟の教訓をくみ取り、判決後の広範な市民運動との連携、公共工事の当事者である中央官庁との交渉について問題を提起していく予定である。

5. 国際活動

 環境的正義をテーマに活動する法律家はアジア各国に存在する。昨年度、連盟では日韓弁護士共同主催によるシンポジウムに参加した。パプアニューギニアにも調査ツアーを実施して当地の弁護士と交流した。
 連盟ではこれまでWTOに注目し活動を続けてきた。貿易の自由化の目的は資本の自由化の課題であるが、経済の自由化が容認されるにしても無秩序なグローバリゼーションな南北問題を固定し、拡大すると言われている。環境問題の解決にあっては小さなコミュニティーの持続的発展が不可欠であるが経済のグローバリゼーションは地域経済などお構いなしに展開している。
 これに対し、冷戦崩壊後の新しい秩序は個人の尊厳を最も重要な価値として組み立てられなければならない。連盟では個人の尊厳、地域の自治、国の独立を大切にして活動する世界各地の弁護士と連携して活動を進める予定である。特にアジア太平洋地域を重視し、大阪にアジア太平洋法律家センター(仮称)を作り、アジア・太平洋地域の環境派弁護士が参加する電子メールによる会議を作り上げる計画である。

6. その他

 紙面の関係で多くのことを書くことができないが、日本環境法律家連盟では法曹養成にも力を入れており、従前通り司法修習生対策に力を入れるほか、今期はロースクール対策について新たな活動を展開する方針である。
 公害弁連は日本環境法律家連盟にとって兄弟子のような存在である。連盟では公害弁連より多くのことを学び今後とも連携を深めていきたいと考えている。