弁護士 吉野隆二郎
1 よみがえれ!有明海訴訟とは
昨年11月26日に、諫早湾干拓の工事の内、前面堤防工事の差し止めを求める裁判を、漁民と市民を原告に佐賀地方裁判所に提起しました。私たちは、この裁判を「よみがえれ!有明海訴訟」と名付けました。この裁判で求めているものは、前面堤防工事の差し止めに過ぎませんが、この工事を差し止めることを第一歩として、「宝の海」と言われた有明海の豊かさを取り戻したいという願いが、この名前にはこめられています。
2 提訴へ至る経緯
一昨年には未曾有のノリの色落ち被害が生じ、その原因を探るための「農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」(以下「ノリ第3者委員会」という)が設置されたこともあり、前面堤防工事の着工は1年間延期されました。そして、ノリ第3者委員会で中長期の開門調査が必要という見解が示されたにもかかわらず、農水省は申し訳程度の短期開門調査をしただけで、工事に着工しようとしました。前面堤防工事は、諫早湾の干潟部分に堤防を作ったうえで、内部を干拓し陸地化する工事のことです。この工事が完成すれば、干潟部分は完全に陸地化してしまい、干潟部分の再生は完全に不可能となります。そのため、この工事は第2のギロチンと言われています。そのような前面堤防工事をさせないために、漁民が座り込みなどをして着工を阻止してきましたが、お盆の間隙をぬって昨年8月に工事が着工されました。そして、昨年9月にはこの工事を差し止めるべく、福岡県の有明海漁連が工事差し止めの仮処分を福岡地方裁判所に提訴しました。そのような情勢下において、より広い世論を結集すべく、漁民と市民が共同して原告となる大規模な訴訟を目指して、昨年10月から原告団の募集を開始しました。
3 提訴の状況
昨年11月26日に416名(漁民85名、市民331名)で第1次提訴、昨年12月27日に195名(漁民20名、市民175名)で第2次提訴を行いました。現在は、第3次提訴の準備中で、合計1000人規模の原告団を結集を目指しています。漁民原告のうち、おひざ元の長崎がなかなか結集できていないという問題もあります。諫早では、漁民が干拓事業で生計を立てているという皮肉な状況にあることがその原因と考えられていますが、より大きな社会的な運動にするためには、克服すべき大きな課題であります。
弁護団については、100名以上の弁護士が弁護団として名を連ね、そのうちの20名ほどが実働として活動しています。そして、実働の20名のうち福岡には昨年10月登録の55期が5名(福岡県弁護士会の20名登録のうちの5名です)いるなど、若さあふれる弁護団の体制となっています。
4 裁判について
具体的な裁判の中身としては、佐賀地方裁判所に前面堤防工事差止の本訴を提起すると同時に、当事者を漁民にしぼった仮処分を佐賀地方裁判所に提起しています。被保全権利としては、漁業権・人格権・環境権・自然共有権を挙げています。裁判の進行としては、2月21日に本訴の第1回弁論が開催され、同日に仮処分の第3回審尋も行われます。私たちの方針としては、3月ころをめどに基本的な主張と書証の提出を済ませようと考えています。これは、工事の進行をにらみながら裁判を進行させなければならないため、ある程度早い進行が要求されるからです。
5 世論を結集するために
私たちは、この裁判に勝利するために、急ピッチでの準備を進めています。しかし、このような大型公共事業については、世論の後押しが不可欠です。
そのため、より広い世論を結集し、東京での運動の拠点とすべく、公害等調整委員会に原因裁定の申立を3月をめどに申請すべく準備しています。原因裁定とは、諫早湾干拓とノリの色落ちやタイラギの斃死についての法的な因果関係の有無を認定する手続きで、公開の対審構造で手続きとしてはほぼ裁判と変わらないものです。この原因裁定の手続きには、私たちに先行して提起されたムツゴロウ裁判や森裁判、有明海漁連にも参加を呼びかけています。
以上のような努力を続けて、広く世論を喚起し、一刻も早く、諫早湾干拓事業を中止に追い込みたいと考えています。