弁護士 足立修一

1 8月13日に国道2号線公害差止訴訟を提訴

 2002年8月13日に,広島地方裁判所に対し,広島市内の中心部を貫く国道2号線の沿道100メートル内に居住・通勤する原告151名が,高架道路建設差止・道路公害の差止(供用制限)・生活妨害・健康被害に対する損害賠償(総額約3億3000万円)を求めて,提訴しました。
 1994年以降再開した,国道2号線の高架工事に対して,工事そのものの問題とともに,現状での深刻な道路公害の実情についても,その違法性を確認させ,損害賠償を認めさせようとして提訴したものです。

2 国道2号線の高架道路延伸工事にNO!を

 今から,28年前の1974年にストップすることになった広島市内中心部への国道2号線西広島バイパスの高架道路延伸計画が,1994年に再度都市計画決定を経て始動し,1995年1月の阪神淡路大震災での高架道路に対する不安感の高まりのなか,補修工事を行い,不安感を沈静化させた上で,1999年5月から,広島市内中止部を貫く国道2号線の現在の片側3車線ないし4車線の平面道路の上に2階建ての構造で高架道路を建設する工事を再開させました。
 これに対し,沿道住民で組織する「国道2号線の環境を守る会」が中心になって,高架道路延伸工事に反対する運動を進めてきました。1999年7月に広島県公害審査会に,沿道住民ら837人(2次提訴により882人)で公害調停の申立をしましたが,不調に終わった後,2000年8月から,広島地裁に,172名で高架道路延伸工事差止仮処分申請をしました(2次提訴により218人に増えました)。

3 工事差止仮処分の経過

 仮処分申立後,1年6ヶ月程の期間,審尋が行われて,申立人や参考人の陳述の機会があったものの,基本的には書面審査で,自動車排ガスと健康被害の因果関係については主に尼崎公害裁判,東京大気訴訟で提出されている書証などを提出したものの,申立人らが強く求めた現地での審尋を実施して,裁判官に現地での騒音・大気汚染の実情を調べてもらうことはできませんでした。
 裁判所は,2002年2月18日に高架工事の差止を却下する不当な決定を行いました。
 ただ,決定の内容において,自動車排出ガスと沿道住民の健康被害との関連については,これまでの疫学調査の結果を検討し,「自動車排出ガスに起因する大気汚染が進行すると沿道住民の喘息様症状を中心とする呼吸器疾患に罹患し,あるいはこれが憎悪する危険が生じるとの関係を肯定することができる。」と判断しました。
 しかし,「本件工事は自動車排ガス等による沿道被害を増大させるか」という点について,
「本件においては,申立人ら側で,本件工事が施工されない場合に比較して,実施された時にはその効果として沿道環境が差止請求を基礎付ける程度に悪化することを立証する必要がある。実質的公平の観点から,相手方において,現状のままで事態が推移した場合に比較して,本件工事が実施された場合の沿道環境は悪化することはないことが相当程度の蓋然性をもって推認できる程度に立証する必要がある。」
との総論を述べました。
 その上で,渋滞(将来交通量予測),自動車公害被害の予測について,国の言い分を認め,
「相手方(国)は,本件工事が実施された場合の沿道環境につき,本件地域における国道2号が現状のままで推移した場合に比較すると,少なくともこれを悪化させるものではないことについて相当程度の蓋然性をもって推認できる程度に立証している。」
としました。
 却下決定は,結論として,「本件工事によって沿道住民である申立人らに工事差止請求権を肯定できる程度に沿道環境が悪化することを認めるに足りる疎明があるということはできない。」として,申立人らの本件申請が却下しました。これに対して,申立人らは,即時抗告を行いましたが,8月に本案訴訟を提起したのち,闘いの舞台を本案訴訟に移しました。

4 本案訴訟を提訴するに至ったのは

 現状で,広島市内の国道2号線は,24時間交通量でみると約7万台から8万台で,大型車の混入率も約17%あります。この結果,騒音被害では,1997年に既に2階建てになっている部分の沿道で,昼間85デシベルという全国で最高の値を記録したこともあり,沿道の自排局の測定結果でも,二酸化窒素,SPMなども環境基準を超えている水準にあります。これらの道路公害により,沿道の住民などの生活妨害・健康被害をもたらしていることは明白です。しかし,これを無視した決定を覆すには,本案訴訟で現状の道路公害の実情を多面的に立証していくしかないと考えました。

5 提訴後の動き-高架道路延伸2期工区着工見送り

 国道2号線高架道路の延伸計画について,現在観音地区で進めれている1期工事が本年10月ころ完成する見込みとなってしまったのは残念なところです。しかし,観音地区からの先への延伸工事(2期工区)について,2002年11月,広島市は,地元の意見調整の必要ということを指摘して,年度内の工事着工を見送りました。その後,本年2月2日,国道2号線の高架道路の延伸を国土交通省と一緒になって進めていた広島市での市長選挙があり,現職の秋葉忠利市長が再選されました。秋葉市長は,今回の選挙では公共事業の見直しを公約として掲げており,今後,2号線の高架道路の延伸工事をその見直しリストに入れさせることができるかどうかという局面を迎えています。
 その選挙結果の出た直後,2003年2月6日,国土交通省中国地方整備局は,観音地区から先の延伸工事の見通しが立たないとして,執行できない予算を,廿日市高架橋に振り替える方針を発表しました。これは,広島市内の高架道路延伸工事(2期工区)を事実上棚上げするものと評価でき,これまでの住民らの取り組み,本案訴訟の提訴が相当程度成果を上げてきたものとも考えれられます。
 反対の強いため工事ができないところの予算を振り替えて執行しようとする国土交通省のやり方を見ていると,もはや,高架道路が本当に必要かどうかというより,自分たちの仕事を確保するために道路工事さえできれば,場所はどこでもよいといわんばかりの税金の無駄づかいと考えざるを得ません。また,この方針を手放しで歓迎することはできません。廿日市高架橋の建設は結果的に,広島市内へ入る車両数を増加させることにつながるもので,この間,広島市内の国道2号線への集中が緩和され,朝夕の交通量が多少減少してきて,高架道路の必要性に疑問符がついたともいえる状況の中での巻き返しと考えられなくもありません。

6 今後の裁判の展開について

 広島で提訴した公害差止裁判では,高架道路の延伸を阻止することのみならず,現状における道路公害による被害(騒音・振動・大気汚染)を問題として,総体としての公害の防止及び被害に対する損害賠償を求めています。
 この3月6日には第2回目の口頭弁論が予定され,被告国および広島市の実質的な答弁がなされることになっています。今後,当面,原告・被告の双方の主張整理が行われていくことになるので,皆さまのご支援,ご注目をお願いしたいと思います。